「1400万円もかけて購入したフェアレディZが、ポンコツ車だったんです」
本誌に悲痛な叫びを訴えるのは、千葉県で会社を経営するA氏(70)。事の発端は、2018年の自動車業界の見本市「東京オートサロン」でおこなわれた、とあるオークションにさかのぼる。
「2018年1月12日に、『東京オートサロン・オークション with BH Auction』という、希少価値の高いコレクションカーを対象としたオークションが開かれたんです。当日は、堺正章さん(73)が、『BH Auction社の名誉顧問』という肩書で登壇し、挨拶をしていました。
堺さんはクラシックカーのレースに参戦するなど、車好きのあいだでは神様のような存在。『堺さんが出る』と聞いた時点で、このオークションは信用できるものだと、すっかり安心していました」(A氏、以下同)
「名誉顧問」の肩書で登場した堺だが、現在は同社の取締役に就任している。A氏は、この会社の社長を務める武井真司氏(50)とも10年来の交友があり、それも安心感を高めた理由だった。
「私はもともと、国産のビンテージカーには興味がなかったんです。でも、2018年のオークションの前に、武井さんから出品カタログに掲載されている1996年式のフェアレディZを見せられました。
そして、『(落札して)年末に開催されるニューヨークのオークションに出品すれば、2000万円くらいに跳ね上がる』『エンジンもすぐに動くから、売れるまでは乗って楽しめる』と入札を強くすすめられたんです。
さらに、武井さんが発行人を務める雑誌にも、このフェアレディZの走行距離がわずか数kmで、新車同様の状態だと書かれていて、『鑑定書や、オーナーズマニュアル、保証書もある』と記載されていました。
武井さんも堺さんと並んで、業界内では超がつくほどの有名人です。彼の言葉を聞いて舞い上がった私は、フェアレディZの状態をろくに確認もせず、購入してしまったんです」
A氏は最終的に、落札手数料を含む1425万6000円を支払った。しかし、届いた車は “ポンコツ” だったという。
「届いたときにはゾッとしました。そもそも、エンジンがかからないんです。
自動車整備工場で見てもらったところ、『きれいなのは塗装だけ。クラッチやミッション、ブレーキなどは固着している。ラジエーターも錆だらけで、エンジンルームのオイル漏れも酷い。動かせるようにするには300万円かかる』と言われてしまいました。
武井さん・堺さんを信用して買ったのに、こんなことになってしまい残念です。私は、裁判に訴えます」
A氏の弁護士に確認したところ、「すでに東京地裁に返金を求める訴えを起こしています」と回答があった。超大物タレントが取締役を務める企業が、訴訟トラブルに巻き込まれたというわけだ。
後輪の裏側にあるサスペンション。グリスが固着した状態に
もう一方の当事者である武井氏も本誌の取材に応じた。だが、その主張は、A氏と真っ向から対立するものだ。
「そもそも、あのフェアレディZは、『納屋物』といわれる車なんです。『納屋で何年も放置されていた、希少性の高い車』という意味の言葉で、そうして市場に出てきた納屋物の車は、高額で取引されるんです。
こうした車の価値は、走行機能にあるのではなく、いわば美術品として評価されてのもの。私はA氏に『納屋物です』と、はっきり説明しましたよ。
だいたい、私はあの車をA氏に買うようにすすめたことは、一度もありません。A氏からオークションの前に、『武井さんは何を買うの?』と聞かれたので、『僕ならフェアレディZです』と答えただけですよ」(武井氏、以下同)
武井氏は、「そもそもオークションに参加するならば、実際に現物を見てから入札するのが原則だ」と主張する。
「事前の説明やカタログではなく、現物を自分で確認して、価値があると感じたら、競売に参加するべきでしょう。ですから、A氏が『現物を見ずに買った』と主張すること自体がおかしいんですよ。
しかも社員に確認したところ、A氏は当日、フェアレディZの現物を見てから、オークションに参加していたというんです。私の知る限り、A氏は車の転売もおこなう “半プロ” です。A氏は、あのフェアレディZがどのような状態の車だったのか、わかったはずです」
武井氏は、900万円での買い取りや無料の完全修理など、いくつかの和解案を提示したが、A氏は拒否したという。
「しかもA氏は、この件で私を中傷するような文章を取引先に送付していました。『もうすぐ私が逮捕される』とまで触れ回っていたそうです。さすがに耐えかねて、私のほうもA氏をすでに名誉毀損で提訴したところです」
A氏が問題の車を購入した理由のひとつであった堺について、武井氏はこう語る
「あの2018年のオークションでは、ノーギャラで挨拶に立ってくださったんです。役員になられてからも、堺さんに役員報酬は、お渡ししていません。
車好きとして、私たちの理念に共感していただいているだけなんです。こんなトラブルで、堺さんに迷惑がかかるのは本当に困ります」
堺の所属事務所は「社外取締役に就任しているのは事実」としたうえで、「トラブルについては、お聞きしております」とだけ答えた。
A氏は「話し合いで解決したかったのですが、クレーマー扱いされた以上、もう裁判しか……」と話す。
有名人の名前に惹かれて買い物してしまう経験は、誰にでもあるもの。訴訟トラブルの当事者企業の役員として、堺も傍観者のままでは、いられないはずだ。
(週刊FLASH 2020年3月10日号)
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