「漱石の子孫だと知られると、必ず『好きな作品はなんですか?』と聞かれるのですが、すみません、じつはほとんど最後まで読んでいないんです(笑)」
「ミュージシャンだと知られると、『作詞はしないの?』ってよく聞かれますよ。たまにやりますけど、けっこう難しいんですね。あと、難しい漢字の読み方を知ってると思われて、辞書代わりに聞かれたりとか。いや、僕は漱石じゃないのでわかりません(笑)」
「読んでみると、なんだか恥ずかしくなってしまうのも、漱石の作品を最後まで読めない原因のひとつかもしれません。でも、『吾輩は猫である』は好きですね。『吾輩は猫である。名前はまだない』という出だしが、とてもキャッチーですから」
「漱石が実際に飼っていた猫には、じつは名前があるんですよ。曽祖母の鏡子が子どもたちに話したところによると、なんでも、その名前は『猫』だったというんです。理由は、名前をつけるのが面倒くさかったから。それで小説では、『名前はまだない』と書いたみたいですよ」
「当時の作家は、すべてを頭のなかで構築して作品にするわけですからね。どうしても孤独になるし、偏屈にもなるでしょう。僕は、漱石とはまったくジャンルは違いますが、せん越ながら同じクリエーターとして、孤独にならざるを得なかった漱石の気持ちは、少しわかります。
写真・KAJII