中村勘九郎「家族全員が本好き。我が家の本棚はカオスです」
毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、舞台と映画が同時期開幕&公開される『真田十勇士』で、主演・猿飛佐助を演じる中村勘九郎さん。史上初のメディアミックスにかける思い、そして、趣味として愛読するさまざまな本のことなどを語ってくれた。
「一昨年、初演を演じるにあたり、過去の映画を観たり、数多くの小説も読んで、自分なりの真田十勇士、猿飛佐助像をつかもうとしたのですが、マキノノゾミさんの台本を開いた瞬間、“あ、これ、全部意味なかったな”と(笑)。飛び込んできた一文は、“嘘かまことか、まことか嘘か……”という歌で、まさにその通りだよなぁと。さまざまな文献などから研究はされているけど、歴史上の人物に会った人は誰ひとりいない。“嘘がまこと”でいいんだなと腹が据わりました」
名将と称えられる真田幸村は実はダメ男で、数々の武功は、猿飛佐助の大嘘から始まった策略によるもの――そんな大胆な発想から描かれてゆく、舞台『真田十勇士』。勘九郎さん演じる猿飛佐助をはじめ、霧隠才蔵、筧十蔵、由利鎌之助、根津甚八……真田十勇士たちは、ゲイだったり、ベタベタの関西弁だったりと、みんなとびっきり個性的だ。
「かなりキャラ立ちしていますね。その魂を入れたのは、演出の堤幸彦さん。親しみやすく、感情移入しやすい人物ばかりです。“この人、死んでほしくないな”という思いがあふれてくるようなキャラクター造形には、とびっきりの愛が込められていますね」
“真田十勇士”たちを演じる者たちの間にも、深い同士愛がある。
「稽古場は、まるで男ばかりの部活のよう。会話といったら8割下ネタですかね(笑)。これだけの大舞台をつくっていくのは体力的にも精神的にも過酷ですし、役者それぞれも悩み抜いている。けれど、それをひとりで抱え込まず、みんなに相談できるのが、“真田十勇士”チームのいいところ。それが結束力ともなって舞台にも大きく反映されていくと思います」
歌舞伎のみならず、数々の舞台や映画で活躍する大忙しの勘九郎さんだが、その合間を縫って、実に多くの本やマンガを読んでいる。聞けば、家族全員が本好きだという。
「うちの本棚は、子どもたちの絵本、僕が読むマンガや小説、そして大の読書家である妻の蔵書と、ジャンルがカオス状態(笑)。僕は幸せなジャンプ黄金期世代なので、マンガはよく手に取りますね」
そんな勘九郎さんのもうひとつの好みのジャンルがホラー小説。
「今回、選んだ『私の消滅』はホラーではないけど、ストーリーや構成がぶっとんでいる。そんな小説が大好きなんです。それもグロい系が好きですね(笑)。尊敬する作家は平山夢明さん。角川ホラー文庫の大石圭さんの作品もよく読みます」
ホラー小説愛好へのきっかけは?
「江戸川乱歩ですね。短編集から入ったんですが、脳内がどうかなっているような、あの感じにハマってしまって。今は伊坂幸太郎さん、万城目学さんなど、さまざまな作家の小説も読んでいます。演ってみたい作品がたくさんありますね」
(取材・文=河村道子 写真=江森康之)
中村勘九郎
なかむら・かんくろう●1981年、東京都生まれ。87年、二代目中村勘太郎を名乗り初舞台を踏む。2012年『土蜘』『春興鏡獅子』等で六代目中村勘九郎を襲名。歌舞伎以外でも、舞台『おくりびと』『ろくでなし啄木』、大河ドラマ『新選組!』、映画『禅 ZEN』『清州会議』などに出演。17年の待機作に映画『銀魂』。
スタイリング=寺田邦子 ヘアメイク=宮藤 誠、中村優希子(ともに Feliz Hair)
紙『私の消滅』
中村文則 文藝春秋 1300円(税別)
古びたコテージで不気味な一文から始まる“手記”を読み始める“僕”。バッグには別人の身分証明書があり、部屋の隅には多分、死体の入っているスーツケースが─テキストに込められた最新脳科学の知識、連続幼女殺害事件の犯人・宮崎勤へのアプローチ、そして驚愕のストーリーが“私”の正体を突きつけてくる。
※中村勘九郎さんの本にまつわる詳しいエピソードはダ・ヴィンチ10月号の巻頭記事『あの人と本の話』を要チェック!
舞台『真田十勇士』
脚本/マキノノゾミ 演出/堤幸彦 出演/中村勘九郎、加藤和樹、篠田麻里子、加藤雅也、浅野ゆう子ほか 9月11日(日)~10月3日(月)新国立劇場中劇場の東京公演を皮切りに、横浜、関西で上演
●嘘も突き通せば真実となる─猿飛佐助の大嘘から始まった“真田十勇士”。だが、戦国の世を生き抜くための作戦は思わぬ方向へと向かい、いつしか“真実”に──。9月22日(木)公開の映画版とあわせて観たい、ド派手エンターテインメント!