『101匹わんちゃん』のエキセントリックな悪役を、女優のエマ・ストーンが演じていることで話題になっている映画『クルエラ』。
“ディズニー史上最も悪名高いヴィラン(悪役)”と言われるクルエラ・ド・ヴィルには、実はモデルが! その人物とは、ハスキーな声と大胆な言動で注目されていた往年のハリウッド女優タルラー・バンクヘッド。そんな彼女の人生とは…?
ディズニーが1961年に制作したアニメ版『101匹わんちゃん』では、クルエラが、毛皮のコートにするためにロンドン中のダルメシアンの子犬を誘拐。子犬の親でもあるポンゴとパーディが動物の仲間たちの協力を得て、誘拐された子犬たちを救出するという物語。
『101匹わんちゃん』のアニメーターでもあったマーク・デイビスは、過去に『ロサンゼルス・タイムズ』紙にクルエラの誕生秘話をこう明かしていた。
「クルエラを描くときには、部分的にモデルにした人が何人かいました。タルラー・バンクヘッドは、私にとって“モンスター”でしたね。
背が高くてほっそりとしていて、絶えずしゃべっていた。何を言っているのかわからないけど、一言も口を挟めないような、そんな人でした」
「私はクルエラを嫌われるようなキャラクターにしたかったんです」
タルラーは、1902年1月31日、アラバマ州の著名な政治家一族のもとに誕生。祖父と叔父はアメリカの上院議員であり、父は11期にわたって下院議員を務めていたという。
母は、出産から数週間も経たないうちに敗血症で亡くなり、その後父はうつ状態に。
彼女も寂しさを埋めるようにパフォーマンスを始めたものの、直後に慢性気管支炎を発症。それがクルエラのような、ハスキーな声になるきっかけだったと言われている。
その後サイレント映画など出演し、ロンドンへ。劇場を中心に名を馳せ、1923年、21歳のときにジェラルド・デュ・モーリエの戯曲『The Dancers』のマキシン役でようやく実力派女優として認められるように。
観客の注目を集めたのは演技だけではなく、高いアーチ型に描かれた眉やはっきりとした顔、長いブロンドヘアなど型にはまらないユニークなイメージだったそう。
当時彼女は1日120本のタバコを吸っていたとされ、完璧に整えられた髪に毛皮のコートを着て、高級車のベントレーで街を疾走していたことでも有名。その後はロンドンからハリウッドへと渡り、アルフレッド・ヒッチコック監督の映画『救命艇』に出演するなど、幅広く活動した。
物怖じしない発言や大胆な行動で、度々下品だと非難されることも多かったタルラー。あるとき、記者にこう言ったそう。
「パパは、男とアルコールについては警告してくれたけど、女とコカインについては気をつけろと言ってくれなかった」
私生活もオープンにしていたタルラーは、自分を「バイセクシャル」だとは定義せず、「アンビセクストラス(ambisextrous)」と表現。
数々のスキャンダルが報じられたものの、“If I had my life to live again, I’d make the same mistakes, only sooner.(もしもう一度人生をやり直すとしても、同じ間違いをするでしょうね。ただ、もっと早いうちに)”などの名言を残し、1968年12月12日に66歳でこの世を去った。
“控えめ”であることを求められていた時代の反逆者と言われていたなかでも、自分らしくあり続け、業界に新たな風を吹き込んだ彼女。
毛皮のコートをまとって運転する様子や屈託のないタルラーの姿勢は、クルエラのインスピレーション源だと言われているので、映画『101匹わんちゃん』や『クルエラ』と照らし合わせてみて。