今、注目を集めているアニメ『映像研には手を出すな!』。女子高生3人がアニメ作りに奮闘する中で、メカやロボットなど一般的に「男の子っぽい」とされるモチーフも多く登場します。
「なぜこの内容で男じゃないの?」「なんで女子高生なの?」
原作者の大童澄瞳さんの元には、そんな疑問がこれまで度々寄せられてきたといいます。大童さんの考えるジェンダー観……もとい、“かわいい”論を聞きました。
大童澄瞳さん。原作で浅草氏が愛用しているものと同じリュック
「オタクを鑑賞する」楽しさ
――Twitterの使い方を聞いてあらためて感じましたが、大童さんはより多くの人に読んでもらうことを大事にしていますよね。「わかる人だけわかってくれればいい」という方向にいかず。
例えば鉄道とかアイドルとか、いわゆる「オタクが好む」ジャンルってありますが、その外に「オタクを鑑賞する」ってジャンルがあるじゃないですか。「アメトーーク!」なんかもそうですよね。
何かに没頭している人を鑑賞するのは楽しい。情熱を持って語る人はおもしろい。
浅草みどりは「設定が命」と力説するアニメ好き。映像研では監督的な役割を果たす
そういうおもしろさにつなげられれば、そこそこ誰にでも響くんじゃないかなって思っていました。もちろん「僕が好きなことを好きに描いている」趣味全開の要素もありますけどね。
細かく描きこまれた設定画ページは見どころ(アニメでも時たま登場)。浅草氏の脳内を覗き見るようで楽しい
あと、多くの人に響くだろうと思えた理由は、根底に「子どもが想像した世界」があることかな。
――確かに「これが私の考えた最強の世界!」は多くの人の身に覚えがありあますよね。
子供の頃好きだったものってなんとなく「そういう時期もあったよね」って卒業しちゃいがちですけど、別に好きでい続けていいんですよね。
アニメーター志望の水崎ツバメ。「リアルなアニメーション」に並々ならぬこだわりがある
――部室の秘密基地っぽさにわくわくするし、「いい感じの棒」に喜ぶ浅草氏や水崎氏の気持ちもわかるし。
そうそう。おとなになってもまた秘密基地を作ってもいいし、「いい感じの棒」を見つけたら振り回してみてもいい。
「いい棒」を巡って争う浅草氏と水崎氏
僕は今もどんぐりが落ちていたら拾うし、道端できれいなBB弾を見つけるとうれしいですよ!
――BB弾って言葉、久しぶりに聞きました(笑)。
たまに落ちてるんで、探してみてください(笑)。
映像研の3人が楽しんでアニメ作りを、最強の世界の夢想をしていれば、多くの人にも同じように「わかる」「楽しい」と思ってもらえることはTwitterの肌感覚で知っていたので。
今回TVアニメになったことで、さらに一緒にワイワイしてくれる人が増えてうれしいです。
プロデューサーとして予算獲得交渉や進行管理などで活躍する金森さやか。クリエイター気質の2人をうまくマネジメントしている
「なんで男じゃないのか」はよく聞かれる
――「なんで映像研の3人は、この設定で男じゃないんだろう」という視聴者のツイートから、ネット上では少し議論が巻き起こっていました。
あー映像研のジェンダー論が世間を賑わせてるけど、これはその本件のジェンダー論を把握している人向けにツイートしますが、問題の本質は「自分の支配下に置けなそうな女に反発する視聴者」とかではなく「女子」という記号が「かわいい」とセットになっているマンガアニメ文化の分脈に、
— 大童 澄瞳 SumitoOwara (@dennou319) January 14, 2020
ビジュアル的に「可愛くない女子三人組」という記号を僕が投下したから「ん?なんだ?どう読み取ればいいんだ?」と混乱する視聴者・読者がいただけです。ビジュアルから可愛さを排してドタバタする人格は、アニメマンガ文化では男子の担当だった為です。そう評論しています僕は。
— 大童 澄瞳 SumitoOwara (@dennou319) January 14, 2020
これね!「なんで男じゃないのか」「なんで女子高生なのか」って質問はよく言われます。
まず僕は別に、人一倍ジェンダー観に気を使っているわけではないんですよ。自分自身基本的には異性愛ですし、かわいい女の子が好きだし、かっこいい女の子も好きだし。
で、人によって好みのタイプがいろいろある中で、僕が好きなタイプがいわゆる「女の子らしい」子じゃなくて、「人間」っぽい子だったんですよ。
――なるほど、大童さん自身の「かわいい」のストライクゾーンが。
そうです、そうです。むしろ「かわいい女の子ってかわいくないじゃん?」ってところすらありますね。
いわゆる「かわいい」状態って、追求して到達し得るというか、ある想定の範囲に収まっているじゃないですか。そこからはみ出しちゃう愛らしい個性こそが「かわいい」だと思っていて。
整った顔も芸術的に美しいと思いますが、「丸書いてちょん」みたいな浅草の動物っぽい顔も大好きです。
ワシはこういう半端な絵が一番好きなのですが、あまり理解を得られないのだ!!こんなにかわいいのに!!! pic.twitter.com/he0Id9ISdm
— 大童 澄瞳 SumitoOwara (@dennou319) April 29, 2018
映像研のPV第3弾五万回くらい観たけど、やっぱり最後の足かいてる浅草氏が出てくるたんびに「うひゃひゃ!かわいいねえ浅草氏は」って動物を愛でるみたいに毎回言ってる
— 大童 澄瞳 SumitoOwara (@dennou319) December 15, 2019
――「映像研は女の子がかわいすぎなくて新鮮」なんて言い方もされていますが、大童さんにとっては……。
かわいいですよ! いや別にそう言われてムカつくことはないし、気持ちはわかりますが(笑)僕には3人ともかわいいです!
というか、自分が思う「かわいい」造形って、この連載が始まるまで世間一般と近いと思っていたんですよ。みんなが思う“かわいい女の子”を自分も描けていると。
なんですけど、ある日家族に「え、澄瞳、自分の絵が普通だと思ってたの? 全然違うよ!?」ってマジなトーンで言われて「普通じゃなかったんか〜い」ってそこで知りました。
――ジェンダー観というより、かわいい観の違いというか。
「おっさんの趣味を女の子に肩代わりさせてる」と捉えられることもありますけど、まず「おっさんの趣味」って何? ってところありません?
浅草や水崎のようにメカニックやアニメーションが大好きな女の子だってたくさんいますし、乃木坂46のライブ会場に行くとびっくりするほど「アイドルオタク」の女子は多いですし。「おっさんの趣味を肩代わりされた女子」じゃなくて、よく見たらそれって「ただのオタク」なんですよ。
第5話で映像研はロボットアニメ制作に着手する
――「これはおっさんの趣味」という見方がまず先入観かもしれない。
そもそも「なんで男じゃないの」って疑問自体が、僕は全然悪くないと思うんです。
アニメやマンガのよくある文脈とずれているから「普通じゃない」と感じる気持ちはわかるんです、僕もそのカルチャーに触れてきた人間として。あの流れの中で「わかってない人」みたいに捉えられていて申し訳なかったですが……。
そこで「反射的にそう思っちゃうのって、ちょっと偏っていたな」と気づけば少し視野が広がるかもしれないし、世間のキャラクター造形に対する思い込みがやわらいでいくかもしれないし。でもそれは、あえて狙っているわけでもなんでもないですね。
なんにせよ、「人間」です、僕が描きたいのは。かわいい女の子を描きたい欲もあるので、「かわいい女の子という人間」を描いている……っていう感覚です。