新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、人々の不安は、購買活動にも影響を与えている。
「マスクの次は、トイレットペーパーやティッシュペーパーがなくなる」「製造元が中国」
こんな根拠のない情報が、SNSやメッセージアプリを中心に流され、ドラッグストアやスーパーの店舗に人々が殺到。トイレットペーパーやティッシュペーパーだけでなく、生理用品や乳幼児用の紙オムツまでも、日々、売り切れる店舗が続出する事態だ。
そうした中、Twitterで「コロナよりも怖いのは人間だった」と悲痛な叫びをあげたドラッグストアで働く女性がいた。体験とともに思いを投稿すると、同じく店員であり、同様の境遇にあるというユーザーたちから「共感しかない」「まさにその状況」との声があがった。
彼女は、何を語り、どんな体験をしているのか。
投稿者が働く店舗とは異なる、神奈川県内のドラッグストアで=2月28日
生の悲痛な叫び
ツイートしたのは、神奈川県内のドラッグストアで12年間、働いているという女性のtamaさん(@tamapunpa)だ。
「ドラッグストア店員の思いです。私たちも同じ人間です。ありがとう、頑張ってねが一個でもあれば良いのに。すみません、申し訳ございませんばかりで疲れました」
この文章とともに、投稿したのが現場での体験をもとにした叫びだった。以下、全文を紹介する。現在、コロナウイルスに感染し、闘病している方々が回復に向かうこと、亡くなられた方々のご冥福をお祈りします。
現在、コロナ問題で毎日ニュースが流れ、感染者・死者が出るたびに、恐怖が煽られています。私はコロナウイルス の専門家でも医者でもありません。ただのドラッグストア店員です。
12年勤めてきて、良い時も悪い時もありましたが、楽しく勤めてきた仕事だったのに。1.5カ月前。まさにコロナにより、マスクの供給不足となった頃から毎日毎日同じことを聞かれて、あげくキレられたりと増えてきました。
「マスクの入荷はいつ?」
「いつもないじゃない!」
「病人がいていつも買えないのに、1個くらい取り置きしてよ!」
今まで笑顔だったお客様が、全員鬼に見えます。
購入数量の規制もかかり、多く持ってきた方に説明すれば、不服そうに文句を言われます。
だけど「申し訳ありません」「すみません」と頭を下げます。きっと、「ありがとうございます!」よりも「すみません」の方が割合が多くなり、正直、ノイローゼ気味です。
電話もよく鳴るようになりました。
「在庫聞きたいんですが」
「いつなら入る?」
電話が鳴るたびにストレスです。
実際、マスクの入荷日には列が半端なく、レジスタッフも今までにない状況に過呼吸や貧血を起こす人も出ています。
そして、2日前から急に、今度はペーパー・生理用品・ベビーおむつまでも買い溜めする方が増えました。
ずっとレジから離れられない状況で、いつもの日常業務もまったくできなくなりました。
そして、また始まるのです。
「いつ?」「なんで?」など、数量も規制がかかり説明するたびに「これも?!」と。頭を下げる日々です。
ドラッグストア店員としては、コロナよりも怖いのは人間だと思います。
目に見えないものより、目に見える人間が怖いです。
優しかった人々が、殺気立って、とにかくイライラをぶつけてきます。
よく考えてください。医者も研究者も頑張ってます。マスク業者も頑張ってます。店員だって、今までの人数でひたすら頑張ってるんです。
ペーパー類なんてデマ情報に流され、買い込むから品薄になるんです。自分たちの首を自分たちでしめてるだけです。
家にこもるなら、ペーパーがなくてもシャワーで洗い流すなりできます。生理用品だって、10個も使いますか?布ナプキンだってあります。
少し落ち着いてください。
謝ることに疲れました。
私はウイルスよりも、人間が怖いです。ストレスで、声をかけられるとビクッとし、またマスクだ。消毒だ。と恐怖です。
会社からも「何度同じことを聞かれても、対応は優しく丁寧に」と言われました。
ですが、考えてみてください。同じことを作業を止められて毎回聞かれて、最後は「すみません」と謝るんです。1回、2回じゃなく、何十回と。
疲れます。とにかくノイローゼになります。
どうか落ち着いてください。それを願うばかりです。
2月29日
工業会「十分な供給量・在庫ある」
トイレットペーパーなど紙製品の輸入や生産が滞っているという情報は、誤りだ。しかし、根拠なき噂が広がり、一時的に「マスクの次は、トイレットペーパーやティッシュペーパーがなくなる」との話は現実のものとなり、ただちに必要とする人たちに行き渡らない事態となった。
そして、消費者の不安や怒りの矛先が、落ち度はない各店舗の店員に向かうという構図が生まれているようだ。
製紙メーカーの業界団体・日本家庭紙工業会によると、国内で流通するトイレットペーパーのほとんどは国内生産で、原材料も国産。中国の影響は受けにくいのが実情だ。
同工業会は2月28日、生産能力が落ちているという噂を全面的に否定し、こう伝えた。
「トイレットペーパー、ティシューペーパーについては殆どが国内工場で生産されており、新型コロナウイルスによる影響を受けず、現在も通常通りの生産・供給を行っております」
「原材料調達についても中国に依存しておらず、製品在庫も十分にありますので、需要を満たす十分な供給量・在庫を確保しています」
「物流が整い次第、皆様のお手元に届くようになります。どうぞご安心ください」
つまり、各店頭での在庫が切れているのは、生産能力の問題ではない。噂を信じた消費者や「念のため」との思いに駆られた人らが各地で購入に走ったためで、一時的なものというのだ。
経済産業省も、工業会による声明を引用して「輸入や生産が滞っている」という噂を改めて否定しただけでなく、2月29日には安倍晋三首相が会見で、国民にこう呼びかけた。
「冷静な購買活動をお願いしたい。事実でない噂が飛び交っています。トイレットペーパーのほぼ全量が国内生産であり、十分な供給量や在庫が確保されています。正確な情報をいち早く発信します」
投稿に寄せられた同様の訴え、感謝の言葉
東京都江東区のスーパーマーケット
3月1日正午現在、tamaさんの投稿は28万以上リツイートされている。「私も同じドラッグストアの店員です。人の嫌な部分をたくさん見て本当に心から疲れました」「私も同じ目に遭っています。発狂しそうです。早く終息する事を願っております」と切実な声が、相次いで寄せられている。
tamaさんの店舗では現在、トイレットペーパーやティッシュペーパーについて数量制限を設けているが、開店時には消費者が店頭に並び、開店後すぐにその日の入荷分がなくなるという。
また、制限をかけていない生理用品などの商品についても棚が「空っぽになる」と話す。
BuzzFeed Newsの取材に「共感や気づきのコメントが多く、さらに『声をあげてくれてありがとう』などの言葉もあり、『自分だけじゃないんだ!』と、少し気持ちを楽になり、仕事ができました。反対に『ありがとうございます』という気持ちになりました」と、Twitterのユーザーたちに感謝した。
トイレットペーパーは、全国の工場だけでも3週間分以上の在庫があり、製造・配送も通常通りに行われています。一部の店舗等では、顧客が集中することで一時的な品薄状態が生じていますが、今後、順次解消していく見通しです。
— 経済産業省 (@meti_NIPPON) February 28, 2020