ソニーミュージックは6月11日、ブロックチェーンを使った音楽の権利管理を実現するべく、実証に取り組む方針を明らかにした。同日行ったアマゾン ウェブ サービス(AWS)ジャパンとの共同記者説明会で明らかにした。
ソニーグループは2018年10月15日付で、ブロックチェーン技術を使ったデジタルコンテンツの権利情報処理システムの開発を発表。また2019年4月5日には、傘下のソニーミュージックがブロックチェーンを取り入れた音楽制作プラットフォーム「soundmain」のティザーサイトをオープンしている。
音楽制作プラットフォーム「soundmain」のティザーサイト。
ソニーミュージックの情報システム部門を統括するソニー・ミュージックアクシス執行役員の佐藤亘宏氏によると、採用するブロックチェーンのシステム基盤は「Amazon Managed Blockchain」。これを、運用に向けた実証実験に進めるべく、ソニーミュージック以外の音楽出版社、レコード会社などにも声かけを始めている。
プラットフォームの開発ステータスについては、「レベル的には(権利処理の動作について)すでに実用化に向けたクオリティーにあると自負している」(佐藤氏)と言い、開発そのものは順調のようだ。
むしろ、ハードルになるのはテクノロジーではなく、「どの程度、業界で一般的に使われるプラットフォームになるか」だ。
「(音楽マーケットは)ステークホルダーが多いエリア。我々だけで“できます”という話ではなく、広く業界団体さんと連携をとりながら、最終的にはそういうふう(ブロックチェーンで権利管理をする状況)にもっていきたい」(佐藤氏)
佐藤氏によると、ソニーミュージックがこうした新しい権利処理に取り組む背景には、いま増え続けるデスクトップミュージック(DTM)時代の独立系アーティストが念頭にあるという。フリーランスに近い形のアーティストが、権利処理の書類作業に忙殺されることなく、「今風の音楽制作をいろいろな形でお手伝いできれば」(佐藤氏)。
音楽業界ならではの「ブロックチェーンでなければならない」理由
ブロックチェーンのメリットとして、改ざんすることが極めて困難であること、その内容を権利が付与された人であれば誰でも確認(チェック)できること、がある。
ブロックチェーン部分の実装コストがスクラッチ開発に比べて10分の1以下だった、というのは大きなポイントだが、採用した理由はそれだけではない。
ただし、同様の信頼性を持つ仕組みは、何もブロックチェーンでなくても実現は可能なはずだ。
記者説明会では、今回の実装コストがきわめて安価に済むということも示されたが、聞けばブロックチェーンを採用した理由はそれだけではなかった。
「将来的な話になるかもしれないが、システム屋の立場でいえば、(ブロックチェーンでも、そうでない技術でも)どちらでも実現できるというのはある。1つの企業内だと、一個のセンターサーバーで(構築する)というのは割と指示しやすい。
ただし(音楽業界のように)異なる事業者間で転々としていく(利用されていく)と考えると、(中央サーバーがなくステークホルダーが公平な立ち位置になる)ブロックチェーンが良いのではないか」(佐藤氏)
つまり、中央集権的なセンターサーバーをつくってしまうと、その管理者(=ソニーミュージック)が傘下に収めたかのような構造に見えかねず、他のステークホルダーから同意を得られにくい、というわけだ。
ブロックチェーンに向かう背景に、技術論や話題性ではなく、「立ち位置」に敏感な音楽業界ならではの構造が関係している、というのは興味深い。
(文、写真・伊藤有)