著者の紗倉まなさん(撮影:BOOKウォッチ編集部)
書くことが楽しく、苦しくもあった
―― 刊行おめでとうございます。
紗倉 「ありがとうございます。自分の書きたいものを書いたので、とても楽しかったし、苦しかったです。」
「自分で言うのはおこがましいのですが、書いたものを読者の方にどう読んでいただけるのか、読んだ方の何かの救いになれる要素が一点でもあれば、私が書いた意義があったのかなと思っています」
本書を持つ紗倉まなさん(撮影:BOOKウォッチ編集部)
―― どういうスタイルで執筆されるのですか
紗倉 「書きたいシーンなどが浮かぶと、そこから書き始めます。そしてシーンをつないでいく。そのため、後で大幅に削ることもあります」
―― シーンが浮かんだときはどうしているのですか
紗倉 「スマホにメモして書き溜めておきます。主人公はこういうことを言いそうだ、など情景が浮かぶこともあります」
率直に語る紗倉まなさん(撮影:BOOKウォッチ編集部)
―― デビュー作『最低。』のときと、書き方で違いはありますか
紗倉 「『最低。』の主人公たちは私と世代が近いため、フィクションとして読んでもらえないのではないかと不安でした。
一方、「春、死なん」の主人公である富雄は70歳の男性。年齢も性別も違うから、かえって私が感じたことや思ったことを素直に投影することができました」
笑顔で語る紗倉まなさん(撮影:BOOKウォッチ編集部)
性別などによる役割分担からの解放を描く
―― 本書で描きたかったテーマはなんですか
紗倉 「二つの作品を通し、一貫して描きたかったのは、性別による役割分担や、自分が属しているコミュニティーの中での役割からの解放です」
「「ははばなれ」では、母親の性を、娘がどう受けとめるのか。そこを率直に書いてみたかった」
「「春、死なん」では、主人公の息子である賢治を嫌な夫の代表格のように書いたのですが、そこ(家)にいない人のことが書きたかった。母の喜美代や妻の里香が賢治に強いられていることは、母らしく、嫁らしくという役割分担だと思っていて、そこに抗えない人々を描いたのが「春、死なん」です」
作品への思いを真摯に語る紗倉まなさん(撮影:BOOKウォッチ編集部)
―― 読者の方にも共感する方は多くいらっしゃるかもしれないですね。
紗倉 「賢治を見て、うちの夫もこういうところがあるな、息苦しさが似ているな、と思われる方がいたら、主婦として、女としての役割を押し付けられているのかもしれません。動きたいのに動けないというのはストレスだと思いますので、世間体や、ほかの人がそうだから自分も同じようにしないと、という縛りからの解放を、この作品を通じて読者の方に感じていただければ嬉しいです」
―― ファンの方にメッセージをお願します
紗倉 「老人の性」と「母の性」が本書のテーマです。強いられている役割分担に生きづらさを感じていたり、タブー化された性に対して違和感を持っていたりする、いろいろな年代の方に、私が疑問に思っているこのテーマを共有していただけたら幸いです」
写真は、紗倉まな 著『春、死なん』(講談社)
プロフィール
紗倉まな
1993年3月23日、千葉県生まれ。工業高等専門学校在学中にSODクリエイト専属女優としてデビュー。著書に、瀬々敬久監督により映画化された『最低。』(KADOKAWA)、『凹凸』(KADOKAWA)。ほかにエッセイ集やスタイルブックなども刊行している。
(BOOKウォッチ編集部)
書名: 春、死なん
監修・編集・著者名: 紗倉 まな 著
出版社名: 講談社
出版年月日: 2020年2月27日
定価: 本体1,400円+税
判型・ページ数: 四六判・162ページ
ISBN: 978-4-06-518599-5