写真は、『地下アイドルの法律相談』(日本加除出版)
写真は、『地下アイドルの法律相談』著者の姫乃たまさん(撮影:BOOKウォッチ編集部)
多くのアイドルを悩ませる「やりがい搾取」
姫乃 この本を出すにあたって地下アイドルたちと関わる機会も増えたのですが、想像以上に契約書を交わさずに働いている実態を目の当たりにしました。
―― 「契約書」を交わさないと後々トラブルにも繋がりますね。アイドルの子たちは納得しているのでしょうか。
姫乃 アイドルを目指している女の子はまず、ステージに立てることに舞い上がってしまうので、多少ひっかかることがあっても、「それでも良いから(アイドルとして)活動したい!」という気持ちが強いんです。
―― 本書を執筆し、数々の地下アイドルから相談を受けている深井さんにもお話を伺いたいです。アイドルの労働問題について深く関わることになったのは、いつ頃でしょうか。
深井 もともと、労働問題の案件を多く取り扱っていましたが、「農業アイドル」として愛媛県を中心に活動していた「愛の葉Girls」の大本萌景さんが自死する事件(※)をきっかけにより深く考えるようになりました。
(※)学業との両立ができなかったため、アイドルを辞めるという決断をしたときに損害賠償を請求され、自死まで追い込まれてしまったのではないかと推測されている事件。
写真は、『地下アイドルの法律相談』著者の深井剛志さん(撮影:BOOKウォッチ編集部)
―― 深井さんが担当する案件は、どのような内容なのでしょうか。
深井 いちばん多いのは、脱退時に運営から損害賠償を請求されるケースです。
―― きちんとした契約書を結んでいたら、トラブルにならなかった?
深井 そうですね。契約書を結ぶ段階でお金の話、お休みの話、脱退時の手続きについて話し合うので、防ぐことができたかなと。
姫乃 私たちから見ると完全に言いがかりですが、10代、20代そこそこの女の子が大人に言われたら「そういうものなのかも......」と思ってしまうんですよね。
―― 運営側との損害賠償トラブルが多いのですね。
姫乃 恋愛感情を持ったファンの方に暴走行為をされるケースもあると思います。 「対 会社の同僚」に置き換えたら犯罪になることも、「対 ファン」になると判断がつかなくなってしまったり。そこが、「アイドル対ファン」の面白いところでもありつつ、問題になりやすいところでもあります。
深井 僕もファンを相手にした案件を2件ほど担当しました。事務所を辞めた後、ファンがストーカー化したケースですが、かなり付きまとわれてから相談しにきたので、「もっと早い段階から相談しにきてくれたら」と思いましたね。
姫乃 アイドルはイメージ商売でもあるので、「変なイメージがついてしまったらどうしよう」と考えた結果、誰にも相談できないことも多いと思います。そもそも、弁護士に相談しにいくこと自体、敷居が高いというか......。
写真は、『地下アイドルの法律相談』著者の深井剛志さん、姫乃たまさん(撮影:BOOKウォッチ編集部)
「気軽に相談できること」を知ってほしい
―― 現状、「ヤバいかも」という状況で、相談できるようなセーフティーネットが体系化されていないのですね。
姫乃 私の知る限りでは、吉田豪さんへTwitterのDMで相談する子が多いんじゃないかな。(吉田)豪さんが窓口になって、本当にヤバそうな子は深井先生に話が行くような流れだと思います。
深井 僕が受けた案件の多くは(吉田)豪さんの紹介ですね。
姫乃 むしろ、こういった悩みを相談できるのは、(吉田)豪さん以外いなそう。信頼できる同業者(地下アイドル)がいればいいですが、友達に「ファンがしつこくて」と相談したら自慢だと思われるじゃないですか。
深井 姫乃さんのおっしゃる通り、弁護士への相談は精神的なハードルが高いようですね。
写真は、『地下アイドルの法律相談』著者の姫乃たまさん(撮影:BOOKウォッチ編集部)
―― 「弁護士」と一口に言っても沢山いますよね。自分で探すとしたら、どのような基準で探したら良いのでしょうか。
深井 「芸能に強い」と謳っている弁護士事務所もいいですが、「労働に強い」と謳っている弁護士事務所もおすすめです。
―― 実際のところ、いきなり弁護士へ相談しづらいアイドルの子も多いと思います。
深井 この本は、地下アイドルが遭いやすいトラブルと対処法をまとめた内容ですが、付録に「困った時の相談先」を一覧にして明記しています。そこには、各都道府県に設置されていて、すべての弁護士が所属している「弁護士会 法律相談センター」や、法テラスと呼ばれる「日本司法支援センター」などを載せています。
写真は、『地下アイドルの法律相談』著者の深井剛志さん(撮影:BOOKウォッチ編集部)
―― 弁護士への法律相談費用や依頼料を立替払いしてくれる「法テラス」は、金銭面で余裕のなさそうな地下アイドルの子にとって役立ちそうですね。
深井 私に相談してくれた案件の中でも「法テラス」を活用できるものもあると思います。金銭面で余裕がなくても、まず相談して欲しいですね。
姫乃 私は深井先生と知り合うことができたので、とても心強いですが、なにかあった時のために相談できる場所を作っておくことは、今後の自分の身を守るためにも必要なことだと思います。 この本を通して、いろんなケースや相談先を知ってもらいたいと思っています。
(第2回「たくさんのアイドルの武器になるように/深井剛志&姫乃たまインタビュー(2)」につづく)
■プロフィール
深井剛志(ふかい つよし)
弁護士(東京弁護士会)。「困っている人、弱い立場にいる人の力になりたい」という想いから、弁護士を志す。「何よりも依頼者のことを考えた事件処理をすること」をモットーに、労働問題に強い旬報法律事務所で活躍。これまでにも地下アイドルの契約を巡る事件を数多く担当。また、地下アイドル関連の事件についての記事の執筆やラジオ出演等のメディア露出により、地下アイドル当事者から直接相談が舞い込むようになり、地下アイドル業界の問題に最も詳しい弁護士の一人となっている。
■プロフィール
姫乃たま(ひめの たま)
1993年2月12日、東京都生まれ。16歳よりフリーランスで始めた地下アイドル活動を経由して、ライブイベントへの出演を中心に、文筆業を営んでいる。音楽ユニット・僕とジョルジュでは、作詞と歌唱を手掛けており、主な音楽作品に『First Order』『僕とジョルジュ』等々、著書に『職業としての地下アイドル』(朝日新書)、『潜行~地下アイドルの人に言えない生活』(サイゾー)がある。
(BOOKウォッチ編集部 ムカイ)
書名: 地下アイドルの法律相談
監修・編集・著者名: 深井剛志 姫乃たま 西島大介 著
出版社名: 日本加除出版
出版年月日: 2020年7月20日
定価: 本体 1,600円+税
判型・ページ数: 四六判・224ページ
ISBN: 9784817846501