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元手をかけずに副業を始める方法

2019年10月20日 10:10 BOOKウォッチ

 給料が増えない。何か副業でもやらないと、老後が心配だ――そんな人は少なくないはず。刊行中の本書『0円起業』(クロスメディア・パブリッシング)は、「働きながら小さく始めて大きく稼ぐ」というサブタイトルが付いている。

 著者の有薗隼人さんは1984年生まれ。青山学院大学文学部卒。GMOインターネット株式会社を経て2011年、株式会社GEARを設立。起業や副業を始めるうえで重要なことは、今の仕事を辞めずに始めることだという。そしてもう一つ重要なのは、タイトルにある「0円起業」のとおり、元手をかけずに始めること。さまざまな起業の事例やアイデアを本書で紹介している。

写真は『0円起業』(クロスメディア・パブリッシング)

(BOOKウォッチ編集部)

書名: 0円起業
サブタイトル: 働きながら小さく始めて大きく稼ぐ
監修・編集・著者名: 有薗隼人 著
出版社名: クロスメディア・パブリッシング(インプレス)
出版年月日: 2019年10月 4日
判型・ページ数: 232ページ
ISBN: 9784295403265

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cat_12_issue_oa-bookwatch oa-bookwatch_0_26c8ee6e90a0_3分のプレゼンでだいたいのことは伝えられる 26c8ee6e90a0 26c8ee6e90a0 3分のプレゼンでだいたいのことは伝えられる oa-bookwatch 0

3分のプレゼンでだいたいのことは伝えられる

2019年10月20日 08:15 BOOKウォッチ

 堀江貴文さんがきっかけとなったプレゼンテーションの勉強会があるという。HIU(堀江貴文イノベーション大学校)のビジネスプレゼン大会が開かれたが、あまりの下手さにダメ出しの連発。メンバーが自主的に勉強会「プレゼンの達人」を組織するようになり、会員数1500人を超えるコミュニケーションサロンになったそうだ。

「パワポなんか使うな」

 本書『堀江貴文のゼロをイチにするすごいプレゼン』(宝島社)は、堀江さんの本にしては珍しく「HOW TO?」を詰め込んだ実用書だ。第1章は心得編で、「なんのためにプレゼンするのか?」が説かれ、第2章は準備編で、・シンプルイズベスト ・3分3部構成がベスト ・共感を集める「Me、We、Now」など、プレゼンの構成を考えるヒントが書かれている。

 より実践的な内容にふれた第3章のスライド編「パワポなんか使うな」が参考になる。堀江さん自身、手間をかけたくないのでスライドはほとんどつくらないという。「惰性でスライドを準備するのはやめよう」と訴えた上で、言葉では伝わりにくいイメージを補完するものと心得ようという。

 そしてスライドをつくるなら、デザイン性に優れ、操作が簡単なキーノートの一択だと断言する。書体はゴシック体(ヒラギノ角ゴ)。写真はフリー素材を使わず、お金をケチらずにいい写真やイラストを使おう、と書いている。

 第4章の実践編「聴衆の心をガッチリつかめ」では、以下の心得を説いている。
 

 ・自意識過剰というムダ
 ・場数×叱責から学べ
 ・"人は見た目が9割"
 ・聴衆を巻き込め
 

ヒッチハイクで身に着けた自信

 現在は宇宙ロケット開発やスマホアプリのプロデュースなどをする堀江さん。自信満々のように思えるが、本書でその秘訣を明かしている。

 東大に入ったものの研究職を目指すことへの興味を失い、麻雀に明け暮れていた堀江さんをヒッチハイク旅行に誘ってくれた友人がいた。見ず知らずの人に「自分は怪しい人間ではない」ことをプレゼンし、「乗せてほしい」と誠心誠意お願いする。その経験を積み重ねるうちに、「全国どこにだって行ける」という自信がついたという。「自信は成功体験の積み重ねで蓄積できる」そうだ。

 終章では、プレゼンだけ上手になってほしくて、本書を書いたわけではない、と書いている。「プレゼンを成功させることはゴールではなく、スタートライン」だと。

 プレゼンはあくまで手段であって目的ではない。「想い」を伝え、相手を動かすのが目的だ。プレゼン下手でも応援したくなる人もいるという。冒頭で紹介した「プレゼンの達人」からは、実際に事業化にこぎつける人も出てきたそうだ。

 勉強会では一人3分でプレゼンし合う。3分あれば、だいたいのことは伝えられるという。

 本書の巻末にはポイントをまとめたテンプレートがついている。参考になるので、実際に手に取って読んでもらいたい。

 自己紹介だってプレゼンだ、と冒頭に書いてあった。堀江さんが今でも大きな影響力を持っているのは、SNSや書籍の発行、テレビ出演などを通して、常に自分をプレゼンし続けているからだろう。

 相手に自分の「想い」を伝えたい。そうやって活動してきた堀江さんは当代一のプレゼンターに違いない。

 (BOOKウォッチ編集部)

書名:  堀江貴文のゼロをイチにするすごいプレゼン
監修・編集・著者名: 堀江貴文 著
出版社名: 宝島社
出版年月日: 2019年10月11日
定価: 本体1500円+税
判型・ページ数: A5判・141ページ
ISBN: 9784800298386

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cat_12_issue_oa-bookwatch oa-bookwatch_0_db1725c0480f_自然災害から「わが家」を守るにはどうすればいいか db1725c0480f db1725c0480f 自然災害から「わが家」を守るにはどうすればいいか oa-bookwatch 0

自然災害から「わが家」を守るにはどうすればいいか

2019年10月20日 06:45 BOOKウォッチ

 台風や地震で家が壊れた。命は助かったが、住むところがない。テレビの映像で被災者たちの姿を見るにつけ、他人ごとではないと思う人が多いのではないか。

 本書『宅地崩壊』(NHK出版新書)は、自然災害で住民が大きな被害を受けたケースを専門家の目で丹念に調べ直し、再発防止策を訴えている。きわめて中身の濃い、しかも一般読者に役立つ良書だと思う。

土砂崩れが起きやすい場所がある

 著者の釜井俊孝さんは1957年生まれ。現在は京都大学防災研究所教授で斜面災害研究センター長。地質学と地盤工学の両面から「地すべり」のメカニズムを研究し、歴史を軸に開発と災害の関係を見直す「防災考古学」も提唱している。著書に『斜面防災都市』『埋もれた都の防災学』などがある。

 本書は、防災の専門研究者である釜井さんが、プロ向けではなく「宅地消費者」を対象に書いたもの。最近の有名な自然災害を例にとり、なぜ「宅地被害」が起きたか、分かりやすく説明している。

 まず頭に入れておきたいのは、宅地崩壊の起きやすい場所のこと。一つは「都市外縁」と呼ばれるエリアだ。山裾の扇状地に住宅地が広がっている。背後の山が崩れると悲惨だ。2018年の西日本豪雨では、広島県内で多数の土砂災害が発生、87人が亡くなった。広島では1999年、2014年にも同様の災害があった。3回合わせると190人以上が亡くなっている。

 では、なぜそうした土砂災害が起きやすい場所に住宅が造られているのか。釜井さんは時計の針を半世紀ほど前に戻す。1968年に成立した都市計画法では「市街化区域」と「市街化調整区域」の線引きが定められた。調整区域では宅地開発が難しくなる。そこで規制を受ける側のディベロッパーや地権者は市街化区域の拡大を図った。もちろん政治家も絡んだことだろう。

 広島市では市街化区域が不自然に広く設定され、危険地区の多くが市街化区域に含まれてしまった。著者は「誰が、どういう理由で、そうした地学的には無謀とも思える線引きをし、開発許可を出したのかを、行政自らが一つひとつ検証する必要があると思います」と問題視する。

 ちなみに考古学的に検証すると、広島の被災地域では15~16世紀にも大規模な豪雨災害が起きていることが分かっているという。斜面が崩れたりすることは稀だが、数百年という単位で見ると、繰り返されていることになる。

「盛土」がもたらす災害

 宅地崩壊は都市部でも起きる。これは主として「盛土」がもたらすものだ。平野部は平らに見えても元々は凸凹がある。戦後は丘の屋根部分や崖をブルドーザーで削り、谷を埋めて地ならしをして宅地化してきた。山の手の宅地造成地、あるいは郊外のニュータウンでも「基土」と「盛土」の部分が入り混じる。

 1995年の阪神淡路大震災では「震度6」のエリアで約200か所で宅地崩壊が起きた。このうちの半数が「盛土地すべり」だったという。特徴的だったのは、西宮市から神戸市に至る被災地の中で、戦前からの住宅地では被害が少なかったこと。戦後になって新たに開発された「盛土」の住宅地に被害が集中した。著者は「同じような『盛った』ブランド宅地は、東京や大阪などにも広く見られる」と警告する。

 大規模な宅地造成は1961年に制定された「宅地造成法」の規制を受けている。ところが災害が続く。国交省の官僚たちは事態を深刻に受け止め2006年、同法の改正に踏み切った。「大規模宅地盛土の分布図をつくって公表する」「必要なら詳細な調査をしてリスクの有無を明らかにし、対策工事を行って街区の耐震化を図る」などが自治体に求められることになった。法改正と同時に「宅地耐震化推進事業」という補助金制度も創設された。

 しかしながら、その効果はまだ限定的なようだ。2011年の東日本大震災で、仙台市では丘陵に広がる住宅地が被害を受け、多数の家屋が損壊した。津波ではない。谷埋め盛土地すべりが発生したのだ。仙台市では当時、まだ「盛土の分布図」(宅地造成履歴等情報マップ)がつくられていなかった。13年にようやく作成されたが、後の祭りだった。

 本書ではこのマップの「自治体格差」「精度格差」がひどいことも指摘している、結論から言うと、横浜市は精密、東京都は大甘。横浜市は盛土だらけなので、横浜市民は直ちにチェックしたほうがよさそうだ。

福島第一原発と女川原発はここが違った

 本書は「第1章 宅地崩壊の時代」「第2章 遅れてきた公害」「第3章 盛土のミカタ」「第4章 揺らぐ『持ち家社会』」「第5章 わが家の生存戦略」に分かれている。非常に多種多様なケースが報告されている。写真や図も豊富だ。自分の住居と照らし合わせながら読むことができる。

 「3.11」関連の話は何度か出てくる。一つは「原発事故と谷埋め盛土」。福島第一原発の建屋は海岸線にあったが、背後の敷地は標高35~45メートルの台地上に造成されていた。場所によっては厚さ25メートルもの谷埋め盛土をしていた。この盛土斜面が崩壊して原発の五、六号機に電力を供給していた高圧電線の鉄塔が倒れ、外部からの電力供給が絶たれた。幸い非常用電源が生き残っていたため冷却が継続できたそうだ。この事故の調査は東電が行ったので、この地すべりがなぜ起きて、それが事故全体に与える影響はどうだったのかといった本質的な部分は、今でも解明されないままだという。

 もう一つは女川原発。13メートルの津波に襲われたが、無事だった。これは東北電力の副社長(技術系)が、「貞観大津波(869年)は岩沼の千貫神社まで来た」と強く主張、社内の反対を押し切り、標高15メートルの高台への設置にこだわったからだという。高台だと冷却水のポンプ整備などでコストがかかるが、結果的には大正解だった。

 著者は、東京電力の旧経営陣が裁判で「想定外」の主張を続けたことを踏まえながら、「同じ業界とはいえ、両者の思想信条は対極にあるように見えます」と語る。

犠牲者の9割が「土砂災害警戒区域」の人

 それでは「宅地消費者」はどのようにして、自宅を守ればいいのだろうか。本書では「自主防衛する住民たち」という項目でいくつかの例が紹介されている。ちなみに評者が、大地震の発生が想定されている神奈川県小田原市に古くから住む知人に聞いたところ、自家発電、太陽光発電簡易版、モーター式井戸水くみ上げ装置、プロパンガス、40リットルポリタンクなどを常備しているとのことだった。今回の台風19号ではタワーマンションの被害も大きかったが、本書でも「タワマンの憂鬱」として、弱点が列挙されている。

 実際のところ、「土地条件図」「大規模宅地盛土分布図」「液状化予想図」などが作られ、各自治体はそれらをまとめて「○○市ハザードマップ」として印刷し、住民に配布したり、ネットで告知しているところが多い。しかしながら、「プロ以外は見ない」状況なのだという。『命を守る水害読本』(毎日新聞出版)によれば、2015年の関東・東北豪雨の被災地域でも、その後の調査によると、「洪水ハザードマップを知らない・見たことがない」が6割を占めていたという。本書によると、18年7月の西日本豪雨では、犠牲者の9割が「土砂災害警戒区域」の人だった。

 著者は高校の理科で「地学」が軽視されていることを嘆いている。国土保全に直結するにも関わらず、理系4科目の中で履修する生徒は1パーセントぐらいしかいないそうだ。理系の生徒が進学先を考えた場合、物理・化学は工学系、生物は農学・医学部という固定客がいるが、地学は将来の職業との関わりが薄いので不人気なのだという。日本は世界有数の土地災害の多発国にもかかわらず、これでは国土の保全がおぼつかないというわけだ。

 そこで一つ提案だが、「宅地リスク診断士」のようなものが出来れば、引き合いがあるのではないかと思った。素人では読み取りにくい「ハザードマップ」をプロが分析して、「宅地消費者」に対策を教える。そうしたビジネスがあれば、「地学」の履修者が増えるのではないか。あるいは、それはすでにあるにもかかわらず、需要がないということなのだろうか。

 BOOKウォッチでは関連で、『台風についてわかっていることいないこと』(ベレ出版)、『限界のタワーマンション』 (集英社新書)などのほか、天皇陛下が皇太子時代に、ライフワークとしている水問題への取り組みについて語った『水運史から世界の水へ』(NHK出版)なども紹介している。

 釜井さんにはぜひとも、この記事の見出し「自然災害から『わが家』を守るにはどうすればいいか」というようなタイトルで、本書の続編をお願いしたい。

(BOOKウォッチ編集部)

書名: 宅地崩壊
サブタイトル: なぜ都市で土砂災害が起こるのか
監修・編集・著者名: 釜井俊孝 著
出版社名: NHK出版
出版年月日: 2019年4月10日
定価: 本体900円+税
判型・ページ数: 新書判・263ページ
ISBN: 9784140885826

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cat_12_issue_oa-bookwatch oa-bookwatch_0_05018c4df8cc_ウエルベックの新作 『セロトニン』、重版 05018c4df8cc 05018c4df8cc ウエルベックの新作 『セロトニン』、重版 oa-bookwatch 0

ウエルベックの新作 『セロトニン』、重版

2019年10月19日 11:00 BOOKウォッチ

 『服従』で日本でも知られるフランスの人気作家、ミシェル・ウエルベックの新作『セロトニン』(河出書房新社)が発売即重版になっている。フランスで40万部超のベストセラーだ。

 「外の世界は辛く、弱者には容赦なく、約束はそこでは決して守られず、愛は、おそらく唯一の、信じるに足るものだったのだ。」(本文より)

 巨大化学企業モンサントを退社し、農業関係の仕事に携わる46歳のフロランは、恋人の日本人女性ユズの秘密をきっかけに〈蒸発者〉となる・・・暗く美しい愛の物語だという。「セロトニン」とは脳内の神経伝達物質の一つで精神を安定させる働きがあるとされる。

 ウエルベックは1958年、インド洋の仏海外県レユニオン島の生まれ。複雑な家庭環境で育ち、波乱に満ちた人生を歩んできたことで知られる。98年に『素粒子』がベストセラー。 2010年『地図と領土』でゴンクール賞受賞。15年には『服従』が世界中で大きな話題を呼んだ。

『セロトニン』(河出書房新社)

(BOOKウォッチ編集部)

書名: セロトニン
監修・編集・著者名: ミシェル・ウエルベック 著、関口涼子 訳
出版社名: 河出書房新社
出版年月日: 2019年9月27日
定価: 本体2400円+税
判型・ページ数: 四六変形判・304ページ
ISBN: 9784309207810

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cat_12_issue_oa-bookwatch oa-bookwatch_0_7860503a75db_「やる気のない子どもなどいない」 7860503a75db 7860503a75db 「やる気のない子どもなどいない」 oa-bookwatch 0

「やる気のない子どもなどいない」

2019年10月19日 10:10 BOOKウォッチ

 中学受験に関する本は多い。本書『5歳から始める最高の中学受験』(青春出版社)は「5歳から」に力点を置いている。著者の小川大介さんは京都大法学部卒。「かしこい塾の使い方」主任相談員。

 小学校4年生になってから、急に無理をさせるのではなく、幼少期からうまく準備を整えて、子ども自身の成長を促すことで「ゆるやかに無理をさせる」ことをすすめる。

 「遊びと勉強を線引きしない」「やる気のない子どもなどいない」「紙と鉛筆だけで子どもが賢くなる遊び方」など、これまで中学受験指導で多くの子どもを難関校に合格させてきた著者が、効果的かつ具体的な方法を伝授する。

写真は『5歳から始める最高の中学受験』(青春出版社)

(BOOKウォッチ編集部)

書名:  5歳から始める最高の中学受験
監修・編集・著者名: 小川大介 著
出版社名: 青春出版社
出版年月日: 2019年9月21日
定価: 本体1500円+税
判型・ページ数: 224ページ
ISBN: 9784413231367

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cat_12_issue_oa-bookwatch oa-bookwatch_0_f5d964d99048_なぜ今、メモや書くことが見直されているのか f5d964d99048 f5d964d99048 なぜ今、メモや書くことが見直されているのか oa-bookwatch 0

なぜ今、メモや書くことが見直されているのか

2019年10月19日 08:15 BOOKウォッチ

 メモの本が売れている。前田裕二さんの『メモの魔力』(幻冬舎)が昨年(2018年)からベストセラーになっている。記録としてのメモから「知的生産のためのメモ」「アイデアを生むためのメモ」へという発想の転換がヒットの要因のようだ。もちろん、前田さんがSHOWROOM代表取締役社長という成功者であることも支持を広げている訳だが。

心理療法などで効果ある33のテクニック

 本書『人生を変える記録の力』(実務教育出版)の著者は、企業のビジネスアドバイザーやプロダクト開発などでも活躍するメンタリストDaiGoさん。記録術は、やりたいことを見つける、モチベーションを上げる、ストレスに強くなるなど、人生のあまねく悩みに効く万能ツールだという。本書では、心理療法などで効果があると認められた記録術を11章に分けて33種類、紹介している。

 たとえば、やりたいことを見つけるには「行動ダイアリー」を勧めている。まず、その日の行動を1時間単位で記録する。次にその行動に対して感じた「達成感」と「喜び」のレベルを10点満点で採点する。ある程度、記録がたまったら定期的に記録を眺めると、自分の傾向がわかる。

 「達成感」と「喜び」のバランスをとることで幸福の総量は上がる、と説明する。認知行動療法の父、アーロン・ベックが1970年代に考案したテクニックだそうだ。

 大事なことから逃げたくなった時の解決法がTRAP(トラップ)・TRAC(トラック)法だ。つい逃げたくなってしまうタスクに立ち向かえるメンタルを育む効果があるという。

 まず、TRAP。トリガーの欄に後回しにしているタスクを記入する。レスポンスの欄にどんな思考や感情がわきあがるかを記入する。回避パターンの欄には、その時どのような問題行動を取ってしまうかを書き込む。さらにそれによって短期的、長期的に起こる影響を記入する。

 TRACで問題の解決を図る。トリガーとレスポンスの欄はTRAPと同じ。代理コーピングという欄には回避パターンから抜け出すために、代わりにできそうな行動をリストアップする。思いつかない時は、長期的により良い結果を出すためにはどうすればいいだろうか、を考えてみる。

 この方法のポイントは問題の分析を短期と長期に分けていることだ。大事なことから逃げがちな人は考え方が短期的になる傾向がある。そのことに気づかせてくれるという。
 

心理対比セッティング、筆記開示、クイック・ウィン分析、葛藤マネジメント、責任パイチャート、行動実験、回避ヒエラルキー、エクスポージャー練習フォーム、スクリプト再生法、行動プライオリティベクトル、思考裁判記録法、ストレス日記、自動思考キャッチシート......。
 

 本書で紹介されている記録術の一部だ。何が何やらわからないが、なんとなく雰囲気は伝わるだろう。心理療法などの世界で広く使われているテクニックだそうだ。巻末には欧米の参考文献も挙げられている。

 DaiGoさんは、年に12冊以上の本をコンスタントに出版できるのも、ふだんから膨大な記録をため込んでいるからこそ、と書いている。

 評者はこの手の「ライフハック」の本を読むのが好きで、かなり以前からさまざま読んできた。そこで感じた疑問は、それらの著者が本に書いてある方法を実践すれば、それなりに成功しているはずなのに、なんかいまいちな人が多いことだった。

手帳で夢かなえたGMOの熊谷正寿氏

 覚えている限り、ほとんど唯一の例外は日本の長者番付にも入り、現在GMOインターネットの代表取締役会長兼社長でグループを率いる熊谷正寿氏だろう。2004年にかんき出版刊行の『一冊の手帳で夢は必ずかなう なりたい自分になるシンプルな方法』は、まだ会社が小さい頃に書かれたものだが、その手帳活用術に驚いた。その後夢をかなえ、グループは成長を続け、見事に成功された。同書は今も売れているようだ。

 最近は、冒頭にふれた前田裕二さんや本書のDaiGoさんのように、ある程度成功を収めた人に書いてもらうのが「ライフハック」本の主流になってきた。説得力もあるし。

 無名の人でも書けたのは、新しいガジェットを使う「ライフハック」が関心を集めた時代だったからだろう。究極のガジェットとも言えるスマホの登場により、そうした「道具系」が廃り、愚直に「書く」ことが見直されたということかもしれない。

(BOOKウォッチ編集部)

書名: 人生を変える記録の力
監修・編集・著者名: メンタリストDaiGo 著
出版社名: 実務教育出版
出版年月日: 2019年9月30日
定価: 本体1400円+税
判型・ページ数: 四六判・251ページ
ISBN: 9784788914223

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cat_12_issue_oa-bookwatch oa-bookwatch_0_51bbb5816444_東大生には「本当の教養」が欠けている! 51bbb5816444 51bbb5816444 東大生には「本当の教養」が欠けている! oa-bookwatch 0

東大生には「本当の教養」が欠けている!

2019年10月19日 06:45 BOOKウォッチ

 当然ながら東大の生協書籍部では売れている。『東大教授が考えるあたらしい教養』 (幻冬舎新書)。タイトルから考えると、何か難しいことが書かれているのではないかと思われそうだが、そんなことはない。活字も大きく、短時間で読めてしまう。この本を必ず読め、などという必読本リストは掲載されていない。もっと根本的なレベルで「教養」を問い直している。

異色の経歴も

 本書はともに東大教授の藤垣裕子さんと柳川範之さんの共著だ。二人が議論する中で生まれた本だという。出版元は岩波でも東大出版会でも有斐閣でもなく、ベストセラーが多い幻冬舎ということもあり、一般向けの本だ。

 藤垣さんは1962年生まれ。東大卒で大学院総合文化研究科・教養学部の教授。著書に『専門知と公共性 科学技術社会論の構築へ向けて』(東京大学出版会)、『科学者の社会的責任』(岩波書店)などがある。

 柳川さんは63年生まれ。大学院経済学研究科・経済学部教授だが、経歴がちょっと変わっている。中学卒業後、父の海外転勤に伴いブラジルへ。高校には行かずに独学生活を送る。大検を受け、慶応大学の通信課程に入り、シンガポールで通信教育を受けながら独学を続け、その後、東大大学院の博士課程を修了している。著書『法と企業行動の経済分析』(日本経済新聞社)で日経・経済図書文化賞を受賞している。

 オーソドックスにエリートコースを歩んだ藤垣さんと、かなりイレギュラーなコースから東大で教えるまでになった柳川さん。その組み合わせが異色だ。

「正解がない」問題

 教養とは何か、新しい教養とはどういうものか。それが本書の主題であり、一応、型通りの説明がある。「教養=知識量」という伝統的な考え方はもう通用しない。ネットで検索すればあらゆる情報が瞬時に手に入る今、知識量の重要性は相対的に低くなっている、ということを強調する。

 その中で印象に残ったのは、「日本とイギリスの試験問題はこんなに違う」という話だ。例えば日本では放射線について、「ラジウムの半減期は1600年です。今、1グラムのラジウムが0.25グラムになるには何年かかりますか」といった問題が試験で出る。ところがイギリスの一般学生向けの試験問題は色合いが異なる。「あなたがロンドンからシドニーに行く間に浴びる放射線量はどれくらいですか」。こちらは自分の健康にも関わりの深い問題になっており、極めてリアルだ。

 フランスでは大学入学資格を得るためにバカロレアという選抜試験を受ける必要がある。そこでは「理性と情熱は共存するか」などという問題が出るそうだ。日本でも「論述問題」が大学入試に出ることがあるが、「模範解答にできるだけ近い小論文」が求められる。バカロレアのような「正解がない」問題ではない。

 本書は上記の例を引きながら、「つねに『正解探し』をするスタンスから脱することができなければ、知識を動員し、他者と議論しながら社会課題の解決を目指すという『教養』はおそらく身につかないでしょう」とクギを刺す。そしてさらに、「教養とは、正解のない問いについて考え、『ただ一つの正解』探しをするのではなく、他者と知恵を集結しながらよりよい解、つまり思考の枠組みを駆使した新たな物差しを模索し続けることだともいえるからです」と念を押している。

クイズ王に教養はあるか

 柳川さんは授業で、参考文献を紹介したりする際に、ちょっとでもタイトルが違っているとすぐに学生に指摘される、という経験を書いている。テレビで東大生らを集めたクイズ番組が盛んだが、なんだか似ているなと思った。「クイズ王」とは、既存知識の百科事典的な暗記王である場合が少なくない。「傾向と対策」にもとづいた訓練をすれば「脊髄反射」で答えられるようになるだろう。そうした些末な知識の集積と、「教養」とは別問題ということを、何となく柳川さんが指摘している気がした。

 そういえば評者の高校時代、数Ⅲの中間試験で「積分の奇問」が出たことがあった。「大学への数学」で全国ヒトケタ台の数学の異才も含めて理系志望の生徒たちは必死でそれらしい解答を提出したのだが、全校で「正解者」はたった一人。「この問題は設問に誤りがあるので解けない」ことを指摘した文系の、受験で数Ⅲが不要な生徒だった。教師はわざと、解けない「クセ球」を投げていたのだ。

 この教師は山登りの専門家で単独行の登山も多い人だった。手引きにした「コース図」が間違っていて、山中で大変な状況になったこともあったにちがいない。あるいは予想もしない「未知の事態」にあわてたこともあったことだろう。高校を卒業してからすでに相当の時間がたつが、今も思い出すのはあの問題と、それを試験に出した教師のことだ。なにしろ実社会では、前例のない、解けない問題に出くわして四苦八苦することがよくあるからだ。

 本書は4章仕立て。第2章では具体的に「東大で教えている教養」について説明されている。「東大ではリベラルアーツを学ぶ」「自分で考え、アウトプットすることを重視」など授業でいろいろ工夫している様子がわかる。とりわけ「原発事故で露呈した『日本の無教養』」では、過去の学問や教育の問題点が鋭く指摘されている。他大学の学生や教員にも参考になりそうだ。
 BOOKウォッチでは関連で、『東大生の本の「使い方」』(三笠書房)、『東大を出たあの子は幸せになったのか』(大和書房)、『ルポ東大女子 』(幻冬舎新書)、『東大駒場全共闘 エリートたちの回転木馬』(白順社)、『海外で研究者になる』(中公新書)、『京大的アホがなぜ必要か』(集英社新書)なども紹介している。

(BOOKウォッチ編集部)

書名:  東大教授が考えるあたらしい教養
監修・編集・著者名: 藤垣 裕子、柳川 範之 著
出版社名: 幻冬舎
出版年月日: 2019年5月30日
定価: 本体780円+税
判型・ページ数: 新書判・169ページ
ISBN: 9784344985612

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cat_12_issue_oa-bookwatch oa-bookwatch_0_29fc1a5380c2_「塩田千春展」、入館者数が60万人を突破! 海外巡回も 29fc1a5380c2 29fc1a5380c2 「塩田千春展」、入館者数が60万人を突破! 海外巡回も oa-bookwatch 0

「塩田千春展」、入館者数が60万人を突破! 海外巡回も

2019年10月18日 15:31 BOOKウォッチ

 森美術館(東京都港区 六本木ヒルズ森タワー53階)で2019年6月20日から開催中の「塩田千春展:魂がふるえる」の入館者が、10月16日に60万人を突破したと同館が明らかにした。

写真は「塩田千春展:魂がふるえる」の公開資料

 会期は10月27日まで。六本木ヒルズ展望台東京シティビューとの共通チケットとなっている。終了後は韓国、オーストラリア、インドネシア、台湾の美術館への巡回が決まっている。

 塩田はベルリンを拠点に国際的に活躍するアーティスト。今回の特別展は各メディアで大きく報道され、「美術手帖」は8月号で特集している。

写真は、森美術館展示作品と塩田千春さん(撮影:田山達之さん)
 
 BOOKウォッチでは、塩田さん関連で「『美術手帖』8月号で注目の「塩田千春」特集」も掲載している。

(BOOKウォッチ編集部)

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「昭和の問題は、昭和で片を付けて下さい」と進言したJR東日本役員の真意は?

2019年10月18日 07:05 BOOKウォッチ

 日本を代表する巨大企業、JR東日本が長年、新左翼セクト、革マル派の影響を受けていたことが今年(2019年)2冊の本によって改めて白日の下にさらされた。1冊は日本経済新聞で長く社会部記者をつとめた牧久さんによる『暴君 新左翼・松崎明に支配されたJR秘史』(小学館)で、先日BOOKウォッチでも紹介した。そしてもう1冊が本書『トラジャ JR「革マル」30年の呪縛、労組の終焉』(東洋経済新報社)である。

2018年に3万人以上が脱退したJR東労組

 著者の西岡研介さんはノンフィクションライター。神戸新聞社会部記者を経て、「噂の眞相」に移籍。則定衛東京高検検事長のスキャンダルをスクープしたことで知られる。その後、「週刊現代」記者時代の連載に加筆した『マングローブ テロリストに乗っ取られたJR東日本の真実』(講談社)で2008年、講談社ノンフィクション賞を受賞した。このころはまだ革マル派の勢力が強く、西岡さんも多数の訴訟を抱えるなど苦労したわけだが、その後もこの問題を追い続けていた。西岡さんだが、本書のあとがきを「あっけないものだな......」と書き始めている。

 それは昨年(2018年)、「世界最強の労働組合」と自称していたJR東日本労組から3万人以上の組合員が脱退したことへの感想だった。なぜ、そうなったかは後述するとして、牧さんの『暴君』と西岡さんの『トラジャ』をもとに、経緯をおさらいしてみよう。

 国鉄は1987年、分割民営化され、JR各社へ移行した。この時、最大労組だった国労にかわって主導権を得たのが松崎明氏率いる動労だった。牧さんは『暴君』において、JR東日本の元社長・松田昌士氏の証言を引き出している。「もうストはやらない」と宣言し、組織の生き残りを図った松崎氏。当初は革マル派との関係を否定していたが、その後、松田氏に対しては『自分は今でも革マル派である』ことを告白し、松田氏は「松崎がたとえ革マル派であっても、信頼して同じ船に乗り込める男だと判断」し、労使協調路線を取ったのだ。双方が妥協したことがうかがえる。

 旧動労がイニシアチブを取って結成したJR東日本労組の委員長には松崎氏が就任、経営や人事にも介入し、組合を私物化していった。松崎氏は2010年に亡くなり、会社側は労使協調路線から次第に転換してゆく。

『マングローブ』と『トラジャ』とは?

 ところで、西岡さんの書いた2冊の本のタイトルが異様だ。『マングローブ』と『トラジャ』。なにか熱帯を連想させる言葉だが、これらは革マル派の隠語(コードネーム)。本書はこう説明している。

 「〈革マル派党〉中央労働者組織委員会の中には、『トラジャ』と呼ばれる『JR出身の常任委員』約10名がいて、これらの者が『マングローブ』と呼ばれる『JR委員会』に所属する約150人の指導的メンバーを指導してきた」

 つまり、どちらもJRの労組の革マル派活動家で、『トラジャ』がより上位であることがわかる。

 本書は3部構成で、第1部が「JR東日本『革マル』30年の呪縛」で、前著『マングローブ』から再録した部分が多いという。牧さんの『暴君』と重なる内容もあり、いかにして松崎氏がカリスマ的に組合を支配していったか、革マル派が組合の中で力を得たのかが詳しく書かれている。

 第2部は「『JR革マル』対『党革マル』の『内ゲバ』」。革マル派が分裂する危機があったことが書かれている。こうしたことに関心のある向きには驚きの内容だが、大方の人は関心がないだろう。

 第3部は「JR北海道『歪な労政』の犠牲者」。いまだにJR北海道労組では革マル派の影響力があり、事故に関連してJR北海道の2人の社長が自殺した背景が書き込まれている。

7割以上の社員が脱退したワケ

 さて3万人以上もの組合員の大量脱退が起きた2018年、いったいJR東日本では何があったのか。生々しいことばを引用しよう。

 「今こそ『彼ら』を切る時です。昭和の問題は、昭和(採用の世代)で片を付けて下さい」

 平成採用の執行役員の一人が、2017年11月、冨田哲郎社長(当時、現会長)と深澤祐二副社長(当時、現社長)に進言し、決断を迫ったのだという。

 JR東労組が会社に対して、初めてスト権行使の通告をした直後のことだ。会社は対決姿勢を強め、さらに「労使共同宣言」の失効を通告した。その後、約4万6900人の組合員は約1万1900人に激減、約7割以上の社員がJR東労組を脱退したのだ。

 会社がJR東労組を見限ったので、組合にいる意義を認めない若手社員が続出した、と西岡さんは見ている。逆にいえば近年、JR東労組のパワーが落ちていたということになるだろう。

 大量脱退後、JR東日本では、36協定締結のため、会社側が主導して事業所ごとに「社友会」という親睦団体を作らせ、その代表と締結した。約3万5000人の非組合員のうち、半数以上が社友会にも入らない無所属だという。その一方で、組合不要論が幅をきかす現状に対し、西岡さんは違和感を表明している。

 今こそ、正規、非正規、国籍を問わず、すべての労働者の権利と生活を守る「労働組合」が求められており、そのすべての労働者の願いに応える"責務"が大会社の企業内労働組合にもあるはずだ、と結んでいる。

 それはさておき、新左翼に肩入れするメンバーが牛耳る労組が公共性の高い巨大企業の中にあったという事実は戦慄すべきことだが、西岡さんが「週刊現代」で掘り起こすまで、活字で明らかにされてこなかった。評者が以前、JR東日本に在籍した友人に尋ねても、はぐらかされてしまった。

 牧さんの前著『昭和解体-国鉄分割・民営化30年目の真実』(2017年、講談社)の出版がきっかけとなり、この問題に再び光が当たり始めた感がする。そして昭和の問題は平成の終わりになってようやく転換期を迎えたということになる。労組対策が最大の懸案だったJR発足から30年の時間が必要だった。

(BOOKウォッチ編集部)

書名: トラジャ
サブタイトル: JR「革マル」30年の呪縛、労組の終焉
監修・編集・著者名: 西岡研介 著
出版社名: 東洋経済新報社
出版年月日: 2019年10月 3日
定価: 本体2400円+税
判型・ページ数: 四六判・615ページ
ISBN: 9784492223918

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台風で「命を守る行動」とはどういう行動なのか?

2019年10月18日 06:30 BOOKウォッチ

 「命を守る行動をしてください」――アナウンサーが繰り返し注意を呼び掛けていた。東日本全域に甚大な被害をもたらした台風19号。死者・行方不明者は90人超、64河川の111か所が決壊した(2019年10月17日現在)。いったいどうすれば命が守れるのか。そこで手にしたのが本書『命を守る水害読本』(毎日新聞出版)。犠牲者を悼み被災地の復旧を祈りつつ、改めて「命を守る」手立てを考えたい。

同じような河川災害が繰り返されている

 類書はいくつかあるが、本書の特徴は写真や図が多くて視覚的に理解できること。サイズがA4の大判なので見やすい。図鑑やグラフ雑誌に近い体裁だ。中学や高校の図書室に置かれることを想定して編集されたのかもしれない。巻頭には「逃げ遅れによる悲劇を防ぐために」という見出しで、国土交通大臣と栃木県知事の対談が掲載されている。東京都心部を洪水が襲い、「円・国債・株」が大暴落するという設定の小説『大暴落 ガラ』を刊行した作家・幸田真音さんへの特別インタビューもある。

 全体は5章に分かれている。「第I章 水害レポート」「第Ⅱ章 気象の基礎知識」「第Ⅲ章 豪雨に備える」「第Ⅳ章 はじめての避難」「第Ⅴ章 減災への取り組み」という構成だ。章ごとにさらに細かく各論的な項目が並んでいる。

 今回の台風との関連で、まず目を引くのは32~33ページの見開き写真だ。15年9月の関東・東北豪雨による「茨城県鬼怒川決壊」の模様を空撮で伝えている。見開き写真の左側部分には蛇行しながら流れる鬼怒川。堤防が切れていることがわかる。右側に広がる住宅街は川からあふれた泥水で一面が覆われている。濁流に抗して踏ん張る「白い家」の映像を覚えている人も多いことだろう。写真現場の茨城県常総市は市域の3分の1が浸水したという。

 この写真を見ると、何度も同じような河川災害が繰り返されていることに、誰しも暗然とするに違いない。

洪水ハザードマップを見たことがない

 続いて本書で印象に残るのは104ページの「洪水ハザードマップ」の話だ。市町村長が作成、ホームページで公表されている。洪水浸水想定区域が色分けされ、避難場所、避難経路が図示されている。自宅周辺がどうなっているのか、あらかじめ確認しておくとよいだろう。

 ところが、上記の15年9月の関東・東北豪雨の被災地域では、その後の住民調査(中央大学河川・水文研究室)によると、「ハザードマップを知らない・見たことがない」との回答が6割を占めたという。せっかくのハザードマップが、宝の持ち腐れになっている。

 この関東・東北豪雨では、鬼怒川が氾濫したのは、国の河川管理に不備があったためだとして、被災住民が国に損害賠償を求めた訴訟を起こしている。河川氾濫で行政の管理責任はどこまで追及できるのか。ネットで調べると、河川氾濫をめぐる訴訟はいくつもあるが、1974年に起きた「多摩川水害」の訴訟などを例外として、住民側勝訴のケースはほとんどないようだ。

 ハザードマップで危険地区を公表済み→避難場所やルートも公表済み→台風襲来時は各種警報発令で危険を告知済み、ということで、それでも自宅にとどまって被害に遭った場合は当然ながら自己責任の度合いがいちだんと高まる。「命を守る行動を」という呼びかけは、文字通り、家屋や家財道具は犠牲にしても、命だけは守れ、という呼びかけであり、裏読みすれば、「行政は危険をお知らせしました」「あとは自己責任ですよ」という役所の「アリバイづくり」といえなくもない。住民側は「命を守る行動」という文言を、そのようにシビアに受け止めておく必要があるだろう。

 結局のところ、どうすれば命を守れるのか。仮にハザードマップでリスクを察知しても、なかなか個人レベルでは対応ができない。せいぜい避難場所の確認ぐらい。実際に被害が起きても、過去の訴訟例を見ると、行政の責任は極めて限定的なので、気分が暗くなる。できることは、家を買ったり、引っ越したりする前にハザードマップをチェックすることぐらいか。

スイスは1000年に一度の水害に対応

 本書は冒頭で、水害と地震の違いについて書いている。地震は突発だが、水害は降雨、河川増水、流域での水量増加、氾濫というプロセスがあり、多少の時間的な余裕がある。つまり被害発生までに「猶予時間」がある。そのあいだに適切な行動をとれば「被害は発生したとしても、命は守れる」と教える。「行政も手助けをしてくれるが万能ではない。自分の命は自分で守るしかない」と正直だ。

 本書では堤防崩壊のメカニズムも掲載されている。いくつかのパターンがあるが、堤防の多くは土でできており、水位が堤防の高さを越えると崩れやすくなる性質がある。川岸の「土手」はいざという時は余り頼りにならないのだ。土手に守られている川のそばに住む人は、そのことを十分承知しておくべきだろう。

 今回は都市部の「ゼロメートル地帯」の被害が比較的少なかったが、東京などの下町では、川の水面よりも低い土地に住宅が密集している。過去の地下水掘削などで地盤が沈下しているからだ。本書によれば常時、ポンプ排水することで水没を免れている。堤防が一か所でも破堤すると都市は水没する、と警告している。

 本書でもう一つ気になったのは、「スイスは1000年に一度、ドイツでは100年に一度の水害に備えている」という話だ。アウトバーンは洪水の二次的な防波堤にもなっているらしい。

 本書を執筆している「命を守る水害読本編集委員会」は国交省や河川財団、環境防災総合政策研究機構などの担当者がメンバーになっている。水害については本書のほかにも、『激甚化する水害』(日経BP社)、『豪雨水害と自治体』(自治体問題研究所)などが出ているので参考になる。

 また、別の作品ではあるが、天皇陛下が皇太子時代に、ライフワークである水問題への取り組みについて語った『水運史から世界の水へ』(NHK出版)では「第7章」で「水災害とその歴史 ―日本における地震による津波災害をふりかえって」なども収録されている。即位のパレードは急きょ延期になったが、今回の水害についての陛下のお気持ちが想像できる。

(BOOKウォッチ編集部)

書名: 命を守る水害読本
監修・編集・著者名: 命を守る水害読本編集委員会 著
出版社名: 毎日新聞出版
出版年月日: 2017年8月 2日
定価: 本体1852円+税
判型・ページ数: A4判 ・192ページ
ISBN: 9784620324524

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