「べらぼう」とは「箆棒」と書く。「あまりにひどい」「馬鹿げている」「筋が通らない」という意味のほかに、「阿呆だ」という意味が込められているので、タイトルにしたというのが本書『べらぼうくん』(文藝春秋)だ。
作家誕生前夜の青春記
著者は『鴨川ホルモー』『プリンセス・トヨトミ』などの作品がある作家の万城目(まきめ)学さん。「週刊文春」連載のエッセーをまとめた。評者はこの連載が楽しみで毎週愛読していた。
万城目さんは大阪の中高一貫校から京都大学法学部に進み、作家を志したが、とりあえず大手繊維メーカーに就職した。数年でやめて大阪の実家がもっていたマンションの一室に籠り、小説を書き始めた。そんな万城目ワールドの誕生前夜を描いた青春記であり、人生論ノートだ。
評者は初めてデビュー作の『鴨川ホルモー』を読んだときの衝撃を覚えている。京都の大学生たちが大学対抗で、鬼神をあやつり勝負するという破天荒な小説だ。こんなアホなことがあるだろうか、と思い読むうちに、京都ならあり得るかもしれない、という気になるから不思議だ。
京大から出る異才
同世代の京大出身の作家、森見登美彦さんの『太陽の塔』『夜は短し歩けよ乙女』などにも共通するテーストがあり、評者は勝手に「京大マジカル派」と呼び、お二人の作品を楽しんでいる。
BOOKウォッチでは、『京大的アホがなぜ必要か』(集英社新書)など、京大にかんする本を多数紹介している。東大からは絶対に出ない異才が、文系理系問わずあまた輩出しているのは、この「アホ」を許容する学風のせいだろう。
本書の刊行を記念して、先週発売の「週刊文春」2019年12月19日号は、「ぼくらの雑草時代」と題して、万城目さんと野球の上原浩治さんの対談を載せている。二人に共通点はあるのか、といぶかしく思うかもしれないが、あるのである。
お二人は「同い年の大阪出身、一年間の浪人生活あり」ということで共通しているのだ。
デビュー作『鴨川ホルモー』の主人公の誕生日は、上原さんにあやかり、4月3日に設定したなど、面白い逸話を明かしている。
いまに生きる浪人体験
二人は浪人体験がいまに生きていると語っている。
「万城目 僕もこんなふうに商売のネタになっているし、浪人したり無職になったり、いっぱい失敗したことは案外悪くなかったのかなと思っています」
「上原 僕も一浪して、同世代の選手は誰もしていない回り道をたどったことで『なにくそ』と思えたのは、自分の闘志を燃やすためにいい燃料になったと思います。でも、経験しなくていいんだったらしたくなかった」
万城目さんは来年あたり野球の話を書くそうだ。上原さんの話が役に立ちそうだという。やはり「浪人」が役に立った!
最近の受験生は「現役志向」が強く、あまり浪人しないようだ。2021年実施の大学入試から新制度に移行するため、来年2020年入試では例年以上に浪人回避の動きが強くなりそうだ、と予備校は予想している。
しかし、万城目さんや上原さんのように浪人体験を生かして、たくましく生きている人も多い。
ちなみに今年、野球を引退した上原さんはいま「明るい浪人生活」を送っているそうだ。
(BOOKウォッチ編集部)
書名: べらぼうくん
監修・編集・著者名: 万城目学 著
出版社名: 文藝春秋
出版年月日: 2019年10月11日
定価: 本体1200円+税
判型・ページ数: 四六判・200ページ
ISBN: 9784163911052
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