写真を参考に、コンピューターグラフィックス(CG)で、裸の女の子をリアルに描いた画像が、「児童ポルノ」にあたるかどうか争われた裁判で、最高裁判所は1月27日、CGを作成したグラフィックデザイナーの上告を退ける決定を下しました。これによって、罰金30万円の有罪が確定することになりました。はたして、今回の最高裁決定は、どんな影響があるのでしょうか。
●どんな裁判だったのか
この裁判では、少女が衣服をまったく身に付けず、寝転んでいる姿を撮影した写真(1982年〜1984年に刊行された写真集に掲載)を参考に作成されたCG画像集(『聖少女伝説』『聖少女伝説2』)におさめられたCG34点(『聖少女伝説』18点、『聖少女伝説2』16点)が、『児童ポルノ』にあたるかどうかが争われました。
1審の東京地裁は2016年3月、CG34点のうち、31点(『聖少女伝説』18点、『聖少女伝説2』13点)について、児童ポルノ性を否定したうえで、残りのCG3点(『聖少女伝説2』)について、児童ポルノ性を認めて、グラフィックデザイナーに懲役1年・罰金30万円(執行猶予3年)の有罪判決を言い渡しました。
控訴審の東京高裁は2017年1月、1審と同様に3点のCG画像について「児童ポルノにあたる」と判断しました。一方で、「違法性の高い悪質な行為とまでは言えない」として、罰金刑のみに刑を変更しました。さらに、児童ポルノが含まれていない『聖少女伝説』の提供行為については無罪としていました。
今回の最高裁決定によって、罰金30万円の有罪判決が確定することになりました。どのような影響があるのでしょうか。グラフィックデザイナーの弁護人の1人をつとめた奥村徹弁護士に聞きました。
●具体的な争点はなんだったのか
まず、『保護法益』(その法規制によって保護される利益)として、描写された児童の権利侵害(個人的法益)を重視するのか、それとも、将来にわたる性的搾取および性的虐待を防止するという利益(社会的法益)を重視するのかが争われました。
弁護団は、CGの製造行為時点では、被写体の女性が『現在は児童ではない』ことが明らかだったため、製造時点で児童ではないから、『児童ポルノにあたらない』と主張していました。
控訴審の判決は、児童ポルノ罪の保護法益について、個人的法益だけではなく、社会的法益も含むとして、今回の製造行為時点で児童でなかったとしても『児童ポルノとして児童の権利が侵害されたことはないものの、児童を性欲の対象とする風潮を助長し、児童の性的搾取及び性的虐待につながる危険性を有するという点では同様である』として、社会的法益を加味し、すでに児童でなくなっていても、児童ポルノ製造罪が成立するとしました。
上告審でも、この点を最初の上告理由としましたが、児童であったときに撮影された写真集を素材にしていることから、特に保護法益について判示することなく、控訴審判決を追認して『当該物に描写されている人物がその製造時点において18歳未満であることを要しないというべきである』とされました。
ただし、最高裁は「『児童ポルノ』とは、写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物であって、同項各号のいずれかに掲げる実在する児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したものをいい、実在しない児童の姿態を描写したものは含まないものと解すべきである」と初めて明確に判示しています。
つまり、基本的には『個人的法益』に対する罪であることを明らかにしています。
この点、山口厚判事の補足意見は『児童ポルノ製造罪は、このような性的搾取の対象とされないという利益の侵害を処罰の直接の根拠としており、上記利益は、描写された児童本人が児童である間にだけ認められるものではなく、本人がたとえ18歳になったとしても、引き続き、同等の保護に値するものである』として、被写体の権利のみから、この結論を説明しようとするものであり、最高裁も個人的法益を重視しようとする姿勢が垣間見えます。
これによって、児童のように見えるが、人物が実在しない場合や、実在児童の顔に想像で裸体(実在しない姿態)を付け加えた場合には、児童ポルノに該当しないことが明らかになりました。