『ユニクロ潜入一年』(2017年)が話題になったジャーナリストの横田増生さん。今度は神奈川県小田原市にある日本一大きなアマゾンの物流センター(4万平方メートル)で働き、このほど『潜入ルポ amazon帝国』(小学館)にまとめた。
現場では、数字による査定・管理が徹底されていたという。ところが、ルールの遵守や数値の達成を求めるあまり、思わぬ事故が起きていた。
たとえば、横田さんによると、小田原の物流センターでは2013年の開設以来、少なくとも5人が亡くなっている。そのうち1件では倒れているのが見つかってから救急車が来るまでに1時間が経過していた。責任者を通さないと救急車を呼べないというルールのためだという。
「公表されているだけでも、アマゾンの物流センターは国内に約20カ所ある。一体何人亡くなっているのかもわからない」(横田さん)
最先端を突っ走るIT企業の働き方から何が見えてきたのか。横田さんに聞いた。(編集部・園田昌也)
●数字に追い立てられる現場
横田さんが潜入したのは2017年10月。顔バレを避けるため、前著『ユニクロ潜入一年』の発売日までの計8日働いた。
物流センターには30社強の派遣会社がかかわっているといい、面接を受けるとそのまま採用が決まった。ユニクロに潜入するとき、離婚・再婚して、横田姓から妻の姓になっていたこともあり、疑われることもなかったという。
横田さんは2002年にもアマゾンの倉庫に潜入し、『潜入ルポ アマゾン・ドット・コムの光と影』(2005年/文庫版は『潜入ルポ アマゾン・ドット・コム』)にまとめている。アマゾンで働くのは15年ぶりだ。

仕事は前回と同じで、指定された商品をセンター内から集めてくるピッキング作業。ハンディー端末を持たされ、画面に表示された商品をひたすらピックする。
「昔は、商品名が100件くらい印刷された紙を持って探していました。今はハンディー端末です。商品名や場所とともに『次のピックまで何秒』と表示され、横棒が右から左に少しずつ縮んでいく」
ピッキングの速さは集計され、翌日に順位が張り出される。成績が悪ければ、上司との面談になるが、この上司もまたアルバイトなのだという。
「ピッキングしている時間(稼働時間)も計測されていて、クリアできないような高い目標値が設定されていました。フロアのいたるところに『あなたのおサボリ見ています!!』といった張り紙があり、常に監視され、お尻をたたかれている感じがしました」
横田さんは、あらゆるものが数字で管理されていたと証言する。外部委託されている食堂のメニューでさえ、従業員の投票にさらされ、成績が発表される。評判が芳しくなければ、メニューからの削除が検討される。
●人命よりも報告書の数字が大切?
横田さんは6時間45分のピッキング作業で20キロほど歩いたという。ちなみに当時のセンターの時給は約1000円(一定条件を満たすと年末特典で1500円)だった。
東京ドーム約4個分という広大な場所での過密労働だから、倒れる人もいるようだ。横田さんは勤務中、車椅子で救急隊に運ばれる女性の姿を目にしたという。しかし、何があったのか、アマゾン側からの説明はなかった。
中には見つかるのに時間がかかって亡くなった人もいる。横田さんは、アマゾンの元社員を取材するなどして、小田原のセンターで少なくとも5人が亡くなっていることを知る。特に憤りを感じたのは、救急車を呼ぶまでに1時間もかかった例があったことだ。
「アルバイト間でも『エスカレ』という略語で定着しているのですが、アマゾンには下位から上位に連絡をあげていく『エスカレーション』という決まりがあります。アマゾン社員への連絡なしに救急車を呼ぶと、叱責の対象になるそうです」
横田さんの取材によると、亡くなった人の死因はクモ膜下出血。倒れているのが見つかり、連絡が1つずつ上にあがっていったが、現場が広いだけに各責任者の到着に時間がかかり、救急車を呼ぶのが遅れたそうだ。
『潜入ルポ amazon帝国』には、元社員の証言として、報告を受けた責任者たちは、人命より先にアマゾン側への報告のことを考えたのではないかという記述がある。人が倒れれば、本社が納得するような改善案を書類にまとめなければならないからだという。
この元社員は、物流センターのアマゾン社員が気にするのは、「アルバイトの体調ではなく、本社に報告する書類に記載する数字だけなんです」(同書63頁)とも語っている。
各センターのアマゾン社員には、たとえば熱中症のアルバイトを何人以下に抑えるといった数値目標がおりてくる。この元社員は倒れたアルバイトの搬送に付き合った際、安全衛生部門の担当者から電話があり、熱中症かどうか、診断結果を催促されたと証言している。
●「労働者は常に疑われている」
「アマゾンの文化はすべてを数値化すること。企業が人を人として見てしまうと、業績があがらないということなのかもしれません」(横田さん)
横田さんは取材を通して、アマゾンが労働者を信用していないということを強く感じたという。
現場が救急車を呼べないルールもそうだし、そもそも一般の労働者は作業場への携帯電話の持ち込みが禁止されている。物流センターの中は企業秘密となっているからだ。端末やポスターは労働者を監視し、生産性を最大限引き上げるための手法だと思えた。
「現場の労働者は『プログラム』に従って黙々と働くことが大事で、臨機応変さは求められていない。帰るときは、金属探知機のついたセキュリティーゲートをくぐらないといけないのですが、『ブザーがなったら犯人検査をする』と警備員が繰り返し叫んでいました。労働者は常に疑われているんです」

●「機械が仕事から人間性をさらに奪い取っていく」
横田さんは、アマゾンをめぐる労働問題が多く起きているヨーロッパに飛び、物流センターに潜入した複数のジャーナリストにもインタビューしている。
彼らもまた、アマゾンが労働者に敬意を払っていないという感想をいだいていた。横田さんを含む複数の潜入記者がアマゾンの体質を、全体主義国家による監視社会を描いたジョージ・オーウェルの小説『1984年』にたとえているところが印象的だ。
イギリス人記者のアラン・セルビーさんは、組織にルールはつきものとしつつ、労働者に『考えること』をまったく許さない点でアマゾンは特異だと指摘している。ロボットのようにならないと適応が困難なのだそうだ。
セルビーさんが働いた物流センターは、機械が自動でピッキングする棚を運んできてくれる最新鋭の設備が導入されていた。2メートル四方のブースに入り、歩き回ることなく、ひたすら屈伸運動を続ける。労働密度はむしろこちらの方が高く感じたという。
セルビーさんは次のように語っている。
「ロボットが入ってきたことで、働く人間にはより窮屈になった。機械が仕事の主役となり、仕事から人間性をさらに奪い取っていく感じだったね」(『潜入ルポ amazon帝国』123頁)
そんな過酷な環境でも、新しい労働者が次から次に入ってくるのは、アマゾン自体がその地域で、特に移民などの選択肢が限られた人たちの数少ない働き口になっているからでもある。

●便利なユートピアか、過酷なディストピアか
アマゾンは、配送も含めて完全自動化に向けて、少しずつ進んでいる。ただ、横田さん自身は実現にかなり時間がかかると見ている。
「機械は同じ規格を扱うのは得意ですが、大きさや厚さが違うものはまだまだ苦手。だから、せいぜい棚ごと持ってくることしかできない」
「見方を変えれば、アマゾンにとって人間は機械の穴埋め、完全自動化へのつなぎでしかないとも言えるでしょう。そして、そういう時代はまだしばらく続くと思います」
企業では常に、個体差のある労働者の生産性をギリギリまで高めるためにはどうしたら良いかが考えられている。アマゾンはこれを世界でもトップクラスで実現している企業だ。合理性を突き詰めると、末端の労働者はどのように扱われてしまうのか。
また、アマゾンはそうした経営でつくり出した便利なサービスが引き寄せたお金で、機械が主役の働き方を推進している企業だとも言える。その過程で、人間の働き方はどのようになっていくのか。
「『ディストピア』を体験したいならアマゾンで働いてみたらいいですよ」ーー。取材を振り返って、横田さんはこう語った。
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JASRAC(日本音楽著作権協会)は9月上旬、結婚式や披露宴などで、同協会が管理する楽曲を複製する場合の「包括使用料」の導入に向けて、今年10月から1年間、実証実験をはじめると発表した。ところが、この発表を受けて、一部インターネット上で「新たな使用料を導入した」という誤解が広がった。はたして、今回の実証実験のポイントはどこにあるのだろうか。
●新たな使用料ではない
JASRACによると、結婚式がおこなわれるホテルや式場では、バンドによる生演奏やカラオケなどの「演奏」「上映」利用について、以前から、多くの施設と許諾契約を結んでいる。
また、結婚式や披露宴で使用するBGMの楽曲を編集して、CD-Rなどに焼いたり、式の模様をまとめたDVDなどを制作することは「複製」にあたる。ブライダルでの録音物の複製については、2013年に運用基準をさだめて、円滑に利用できる環境を整えたという。
今回の実証実験は、(1)ブライダルの進行に合わせて音楽を再生するために使用する録音物や(2)催物を記録するための録画物に、同協会が管理する楽曲を「複製」する利用にあたる場合の包括使用料ということだ。
いったい何が変わるのか、著作権にくわしい高木啓成弁護士 に解説してもらった。
●「演奏権」と「複製権」がはたらく
「ひとことで『著作権』と言っても、著作権は、いろいろな権利が含まれた集合体です。
そのうち『複製権』は、自分がつくった著作物を他人が無断で『複製』(コピー)することを禁止できる権利です。著作権は、英語で『Copy right』というように、『複製権』が著作権の代表的な権利です。
これに対して、『演奏権』『放送権』『公衆送信権』などは、自分がつくった著作物を他人が無断で演奏したり、放送・有線放送したり、インターネット上で配信することを禁止できる権利です。
たとえば、CMで音楽を利用するケースで説明します。まず、CMに音楽を収録するということは、音楽を『複製』することなので、『複製権』がはたらきます。次に、そのCMをテレビやインターネットで流すことについて『放送権』『公衆送信権』がはたらきます。
同じように、映画に音楽を使う場合は、映画に音楽を収録することには『複製権』がはたらき、次にその映画を映画館で上映することには『上映権』がはたらきます。
このように権利の働くところが異なるので、それぞれで権利処理をする必要があります。JASRACも、それぞれ異なる手続きを用意しています。ちなみに、動画に音楽を収録することは、海外では『シンクロ権』と呼ばれ、とても重視される権利です」
●実質的に使用料の上限を設けている
「ブライダルの場合も同様です。イベントの進行に合わせて、BGMを再生できるように『CD-R』を焼くことや、BGMが流れているイベントを動画で撮影することは、音楽を『複製』しているので、『複製権』の処理が必要です。
ブライダルの会場は、音楽を流すこと(演奏権)については、JASRACと包括契約をしていますが、これと『複製権』は別なわけです。
これまで、そのような音楽CD-Rや撮影動画の『複製権』使用料は、映像制作事業者やブライダル会場、または新郎、新婦がJASRACに申請していましたが、曲数に応じて課金されていました。
今回は、一定金額で使い放題の『包括契約』の運用テストをすることになったというわけです。今回のJASRACのプレスリリースによると、使用料規定で計算した金額が包括使用料より下回る場合は、使用料規定によるとのことなので、実質的には使用料の上限を設けたかたちになったといえます」
●プロフィールやエンディングムービーは対象外
「ただし、注意すべきなのは、これは、あくまで『著作権』の権利処理の話であり、『原盤権』(著作隣接権)は別です。市販のCDなどの『音源』の権利は、発売元のレコード会社が窓口になって管理しており、こちらは別途処理する必要があります。
また、今回のJASRACのプレスリリースでは、包括契約の対象範囲が『ブライダルの進行に合わせて音楽を再生するために使用する録音物』と『催物を記録するための録画物』となっています。プロフィールムービーやエンディングムービーのような演出用の録音・録画物は対象となっていないようなので、その点も注意が必要です」
JASRACは、弁護士ドットコムニュースの取材に「利用者(事業者)から、披露宴直前まで利用楽曲の増減がある中、事前に予算立てしやすいような組み立てにできないかとの声が上がっており、それにお応えするかたちで、使用料規定を変更しました。これに加えて、利用者等から、披露宴ごとの使用料(包括使用料)の導入検討の要請があり、利用の実態を調査・検証する目的で試験的に実施する取り組みです」と説明。
さらに、「利用類型ごとになりますので、完全一律料金ではないこと、それから包括の対象とならない類型(プロフィール・エンドロールムービーなどの演出用録画物)があることにご留意ください」と付け加えていた。
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ドライブ中に、住んでいる地域と距離が離れた都道府県のナンバーを見たことはありませんか。
子育て情報サイト「ママスタ」の掲示板には、「車のナンバーについて」と題したスレッドで、こうしたナンバーに疑問を抱くスレッド主の投稿がありました。
スレ主がご近所さんの車を見たところ、住んでいる地域の管轄と全く違うナンバーがついていました。スレ主は「あれ?っと思ったのですが、住んでいる地域と違うナンバーがつけられるのですか?」と疑問に感じています。
これに対し「車庫飛ばし今もできるんだっけ」とコメントがあり、スレ主は「違法になりますよね…」と返していました。
引っ越し後などもナンバーを変えず、そのまま使い続けた場合、違法なのでしょうか。勝野照章弁護士に聞きました。
●道路運送車両法12条1項に反し違法
ーー随分離れた地域のナンバーの一般車両を見かけることも多いですが、違法なのでしょうか
引っ越し後もナンバーを変えずに、そのまま使い続けることは、道路運送車両法12条1項に反し違法という結論になります。
自動車のナンバーの扱いに関しては、道路運送車両法が規定しています。今回問題となるのは道路運送車両法12条1項の規定です。この規定には、自動車の所有者の住所に変更があったときは、その日から15日以内に変更登録の申請をしなければならないと書かれています。
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2018年5月に起きたアメフト部の悪質タックル事件や、医学部の不正入試問題で、適切な対応を怠ったとして、日本大学の元・現役の教員14人が10月4日、田中英壽理事長ら新旧執行部8人(内田正人元常務理事を含む)を相手取り、損害賠償をもとめる訴訟を東京地裁に起こした。
アメフト問題や医学部不正を受けて、日大は、2018年度の私学助成金(補助金)が前年度にくらべて35%も減額された。訴状によると、原告は、田中理事長ら執行部が、適切な事後対応をとらず、本来おこなうべき善管注意義務や忠実義務を果たさなかったと主張。
そのうえで、田中理事長ら執行部が連帯して、学校法人としての「日本大学」に対して、計3億5000万円の損害賠償を支払うようもとめている。さらに、愛校心や母校愛を傷つけられたとして、原告に対して、1人あたり5万5000円(計70万円)の損害賠償を支払うことももとめている。
原告を含む日大関係者は2018年9月、「新しい日本大学をつくる会」を立ち上げて、日大の運営上の問題をただす活動をすすめてきた。しかし、一向に改善がなされなかったため、執行部の責任を問うために、クラウドファンディングを呼びかけて、目標額を達成したため、この日の提訴に踏み切ったという。
なお、提訴日である10月4日は、日大の創立記念日(130周年)である。
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2019年3月、性犯罪事件の無罪判決が相次いで4件報じられ、批判が広がった。性犯罪の規定が大幅に変わった刑法改正から約2年。「誰が見ても、この実態はおかしい」。性被害の当事者団体からは、現在の刑法についてこう声が上がる。
このほど出版された『なぜ、それが無罪なのか!? 性犯罪を軽視する日本の司法』(ディスカヴァー携書)の著者である伊藤和子弁護士は、「2017年の改正で少しは改善されたが、依然として性被害の立件には高いハードルがある」と指摘する。
4件の無罪判決のうち2件は、男性側に故意はなかった(同意があると誤信した)として、無罪になっている。
伊藤弁護士はより良い制度として、「不同意の定義を定め、不同意性交を処罰する」「抵抗ができない事情として、深刻な恐怖、薬物の影響などの規定を入れる」などの提言をしている。現在の法律にはどのような点が欠けているのか、話を聞いた。
●見直されなかった「暴行脅迫要件」
ーー4件の無罪判決とその反響を、どう見ましたか
4件の無罪判決も劇的ですが、過去にもこうした裁判例はありました。メディア側にも問題意識が共有されてきて、ようやく報道されるようになったことは一つの変化だと思います。これまで沈黙させられてきた人たちも、「ようやく言ってもいいのかな」と思えるようになってきたと思います。
ーー性暴力被害者を待ち受ける高いハードルとして、強制性交等罪の「暴行または脅迫を用いて」という要件があると指摘しています
日本では、13歳以上の男女に対して「暴行または脅迫」を用いて性行為をした場合、刑法の強制性交等罪(13歳未満の男女の場合、暴行脅迫要件はない)、「心神喪失または抗拒不能」となった人に性行為をした場合、刑法の準強制性交等罪が成立します。
過去の判例では、この「暴行または脅迫」が「被害者の反抗を著しく困難ならしめる程度」である必要があるとされています。
刑法が作られた明治時代から、刑法は謙抑的であるべきで、厳格な構成要件のもと、犯罪と非犯罪の境目がしっかりしているべきだという考え方があります。
しかし、いまや現行規定は性犯罪や性暴力の実態とあっていません。2017年7月の刑法改正でもこの「暴行脅迫要件」が見直されず、現在にまで至っています。
●暴行ランク、「強制性交等罪」はもっとも強い程度を求められる
ーー著書では「公務執行妨害罪が成立するには広義の暴行があれば足りるのに対し、強制性交等罪は最狭義の暴行がなければ成立しない」と述べています。これはどういう意味ですか
刑法では同じ「暴行」という用語でもランクがあり、最広義、広義、狭義、最狭義と程度が分かれています。
最狭義の暴行は、人の反抗を抑圧するのに足りる程度の人に対する有形力の行使で、強制性交等罪のほか、強盗罪などに適用されます。強制性交等罪では、暴行が非常に強い程度であることが求められているのです。
ーー強制性交等罪の構成要件とされている「暴行または脅迫」は、暴行罪における暴行よりも強い暴行がなければ成立しないということですか
そうなんです。法律家の常識は、世間の非常識。一般の人からするとびっくりする部分だと思います。難しい話ですが、あえて書いてみました。
この要件がいかに厳しいかは、窃盗など財産犯と比較してみるとより分かりやすいと思います。
人の財産を奪う罪は、暴行脅迫の程度によって3段階あります。
窃盗罪は承諾なく他人の財物を窃取することで、暴行脅迫は不要です。恐喝罪は人を怖がらせて財産を取り上げることで、暴行脅迫の程度は反抗を抑圧するに至らない程度で足りるとされています。そして、強盗罪が、相手の反抗を抑圧する程度の暴行脅迫を用いて、他人の財物を強取することです。
強制性交の場合、窃盗罪や恐喝罪と同じ類型の犯罪はなく、暴行脅迫を用いて行われたものしか、犯罪が成立しません。
これは、性的自由が軽く見られていることの裏返しではないでしょうか。せめて財産並みに性的自由を保護し、最狭義の暴行、強迫がなくても性的自由を侵害する行為を犯罪とすべきだと思います。
●中高生への性教育も不可欠
ーー日本では性行為における同意という概念が、あまり広がっていません
私が事務局長をしている国際人権NGO「ヒューマンライツ・ナウ」のインターン学生から、興味深い話を聞きました。アメリカの大学に留学した際に、アメリカでは「無理やり性行為したら犯罪」という認識が当たり前になっていると知ったそうです。
ところが、日本に戻ってみると、日本でそうした教育がないことがわかり、「勝手に同意と受け止められて、性的暴力の対象になるのではないか」とショックを受け、日本は安全だと感じられないと言うのです。教育の落差は大きいですね。
「嫌よ嫌よも好きのうち」が広まっている日本人にこそ、言葉にするコミュニケーションが必要だと思います。「言わないのが普通」「言葉にしないほうがいい」ではなく、「嫌です」と言い、言われた側は「嫌なんですね」と引き下がればいい。
中学生や高校生への教育も大事だと思います。
ーー被害を打ち明けた人に対してバッシングする風潮も未だ根強くあります
自分の性暴力被害を話すと、この社会では「あなたがいけなかったんじゃないか」という意見が目につきます。「なぜそんな服を着ていたのか」「なぜついていったのか」と落ち度を責める風潮は今も変わっていません。
しかし悪いのは加害者で、被害者が責められるべきではありません。この点の認識を変えていく必要は大きいです。そうしないと結局、責められるのがつらくて誰にも言えないまま被害が続いていきます。
被害にあった人たちをこの社会が守っていくというメッセージを発信していかなければなりません。
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母子世帯の住まい確保を支援するため、今年7月に設立されたNPO法人「全国ひとり親居住支援機構」(横浜市)代表の秋山怜史さん(一級建築士)が10月4日、東京・厚生労働省記者クラブで記者会見を開き、「住所、保育園、仕事の3つがそろわないと母子の生活は成り立たない。入居しやすく、質の高いシェアハウスを全国に広げ、行政との連携も深めていきたい」と話した。
別居や離婚にともなって、母子世帯が困難を抱えるケースは珍しくない。全国の不動産事業者らと連携しながら「必要に応じて弁護士、精神科医などソーシャルケアにもつなげていきたい」と意気込みを語った。
●不動産を借りる際、84%の母子世帯「不利益があった」
全国で母子のみで生活をしている世帯は75万4724組。父子のみの世帯が8万4003組(平成27年国勢調査)にのぼるという。
「母子世帯が生活を成り立たせるためには、住まいが必要です。行政サービスは住所に基づいているため、住所がなければ支援を受けられず、保育園に行けません。保育園に行けなければ仕事ができない。まずは居住支援が最初にされるべきなのに、有効な制度、政策は足りていません」(秋山さん)
シングルマザーに特化した不動産ポータルサイト「マザーポート」上でアンケート(回答者112人)したところ、84%の母子世帯が不動産を借りる上での不利益があったといい、「ひどいケースでは審査も通ったのに、母子世帯であることを理由に契約できませんでした」(秋山さん)。
母子シェアハウスでは、母子世帯を理由に入居を断ることはない。さらに、施設ごとに様々なサポートのメニューも整えている。たとえば保育園の送り迎えや夕飯があるなど、母子が生活する上で便利なサービスがついている施設もあるそうだ。
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10月1日の消費増税に伴い、軽減税率制度が導入されました。この中で、コンビニのイートインコーナーがテレビやインターネット上でクローズアップされています。本来なら外食と同じ10%の税率が適用されなければならないところ、自己申告せずに、8%の税率で飲食する人が相次いでいるためです。「ザル運用」という指摘もあり、「イートイン脱税」という言葉まで生まれました。
ネットでは以前から、電車内などでズレた正義感を振りかざす人のことが「正義マン」と呼ばれていますが、今回の軽減税率をめぐる騒動でも、「正義マン」がイートインコーナーの利用でズルをしている人を見掛けて、店員に伝えるのではないかと話題になりました。
大手コンビニ3社に、ザル運用になっていることについてどう受け止めているのか、「正義マン」のような人が出てきた場合にどう対応するのか、聞きました。(ライター・国分瑠衣子)
●ファミマ「国に方針を示してもらうしかない」
セブン-イレブン、ローソン、ファミリーマート、ミニストップの大手4社は、原則として客の自己申告があった時のみ10%の税率を適用します。各社は、日本フランチャイズチェーン協会(JFA)が作成したポスターをレジ横や、イートインコーナーに掲示して周知しています。しかし、軽減税率導入の前から「申告しないで店内で飲食をする人が出て、『ザル運用』になってしまうのでは」との指摘がありました。
国内約16,500店舗のうち、約8,000店舗にイートインコーナーがあるファミリーマートは、「自己申告せずに、店内で食べている人がいることは把握しています」と、税率8%で飲食をする人がいる事実を認めます。ただ「今後も自己申告に委ねるという方針は変わりません。もし運用を変えるとなると、国に方針を示してもらうしかない」と説明します。
業界最大手のセブン-イレブン・ジャパンの担当者は「軽減税率制度がスタートしてまだ3日なので、今の段階ではコメントのしようがない」と話します。ローソンも同様の対応でした。
では、自己申告をせずに、飲食している人を見掛けた第三者が、従業員に報告したケースにはどう対応するのでしょうか。ファミリーマートは「報告を受けても証拠を把握することが難しく、本人が申告しないのであれば、お声掛けしない」、ローソンも「現時点では、自己申告に基づくので、報告を受けて何かするということは想定していない」と説明します。つまり公平を期そうと勇気を持って報告したとしても、「なかったこと」にされてしまう可能性が高いと言えます。
全国のコンビニ各社が加盟する、JFAにも聞きましたが「加盟店への周知などは、各社に任せているため、協会としてのコメントは差し控えさせていただきます」とのことでした。ただ、JFAは10月3日、協会のホームページに「適正な適用税率の判定について」というタイトルで、文書を掲載しました。文書では「イートイン・テイクアウトに係る適用税率の判定が、適正に行われていないのではないかという懸念を抱かれぬよう、今後も各店舗が適正な処理を行うべく継続的に進めて参ります」と書かれています。
●高齢者や子どもの「悪意ない無申告」が目立つ
実際の店舗ではどうなっているのでしょうか。イートインコーナーがある、関西地方のコンビニのオーナーは「店内で飲食する人のうち、申請しない人が8、9割に上ります」と明かします。この店では、高齢者や子どもなど「悪意のない利用」が目立つそうです。オーナーは「増税後、イートインを利用する人が目に見えて減りました。ややこしいと感じているのかもしれませんね」と話します。
一方、利用者からは、店側のずさんさを指摘する声も出ています。東京都内の会社員の男性は「店内で食べると申し出たのに、8%のまま会計処理された」と不信感をあらわにします。このほか、税理士ドットコムに寄せられた声でも、店員がレジを打っている途中で「イートインを使いたい」と伝えたにも関わらず、「いいわよ、そのままで」と8%が適用されたケースもあります。
●国「倫理上はともかく、制度上の問題はない」
この混乱を国はどう見ているのでしょうか。国税庁は「倫理上どうなのかという観点は別になりますが」と前置きした上で、「軽減税率が適用されるかどうかの判定は、事業者が客に飲食料品を譲渡した時点で行われます。コンビニではレジで飲食料品を販売した時点で、判定されるため、(その後に客が店内で飲食していたとしても)制度上の問題はありません」と説明します。また、「自己申告をしたのに、8%で処理された」というケースは、事業者が最終的に適正な納税をしていれば脱税には当たりません」という見解を示しています。
制度上の問題はないとしても、倫理上おかしいと感じることが少なくないコンビニの軽減税率問題。今後、コンビニ各社がどう対策に乗り出すかが注目されます。
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警察や検察による取り調べを録音・録画する「取り調べの可視化」について考えるシンポジウム(主催・日本弁護士連合会)が9月13日、都内で開かれた。
シンポには元裁判官の木谷明弁護士や前田裕司弁護士(日弁連「取調べの可視化本部」副本部長)などが登壇し、録画の対象・範囲をすべての事件、過程に広げる必要性を訴えた。
●すべての事件・過程が「可視化」されるわけではない
捜査機関に取り調べの録音・録画を義務づける改正刑事訴訟法は6月に施行された。
取り調べは被疑者と捜査官しかいない「密室」でおこなわれる。そのため、不当・違法な取り調べにより、本当は「やっていない」のに虚偽の自白に追い込まれる場合がある。また、調書の任意性(本人の意思でなされた供述かどうか)を争ったとしても、取り調べの状況を明らかにすることは難しい。

「可視化」の意義について、前田弁護士は(1)不当・違法な圧力をかけた取り調べがなくなること、(2)被疑者の供述の自由が確保されること、(3)供述の任意性、信用性が争われたときには事後的に供述の検証が可能となること、の3つをあげた。
ただし、すべての事件や過程が「可視化」の対象となるわけではない。
対象となる事件は、裁判員裁判の対象事件と検察官独自捜査事件のみだ。録音・録画の範囲も身体拘束後の取り調べに限定されている。つまり、逮捕前の任意同行中の取り調べや在宅事件は録画の範囲外となる。
●DVD(録画)がないところで起きる虚偽の「自白」
このため、対象とされている範囲外の過程で虚偽の自白が起きる可能性はある。
2012年12月、広島市の老人介護施設で火災が発生し、寝たきり状態だった80代の女性入所者が焼死する事件が起きた。広島地裁は、建造物等以外放火、殺人と別の窃盗の罪に問われた介護福祉士の女性に対し、「自白の信用性に疑問」があるとして、建造物等以外放火、殺人については無罪を言い渡した(広島地裁2014年7月16日判決)。

女性の弁護団の1人を務めた芥川宏弁護士によると、女性は任意同行されて取り調べを受けたが、その間のDVD(録画)はなかったという。
「(女性は)まったくDVDがないところで自白をさせられています。検察官が調べたDVDはありますが、検察には『見えない』警察段階でガッチリ固められた後のものになります。
女性がところどころで涙を流す場面がありましたが、なにも知らなければ、重大な犯罪を悔いて涙を流しているように見えてしまいます。映像があるところだけ見ると、犯人であるかのように誤解されてしまう」(芥川弁護士)
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最近、久しぶりに田舎の祖父母宅を訪ねたトオルさん(仮名・30代)。家に向かう途中、幼い頃の懐かしい記憶が蘇ったといいます。
「子どもの頃は家族3人、よく車に乗って祖父母の家に行きました。住宅街の最後の曲がり角だけ、運転席の父の膝に乗っかって、ハンドルを握らせてもらっていました。それが本当に楽しみでしたね」
父親はハンドルに手を添えたままだったそうですから、力を加減して、子どもに運転しているように感じさせてくれていたのでしょう。
「30年前の田舎の話です。父なりに子どもを喜ばせようとしたんでしょうけど、今そんなことしたら、ネットで晒されて、捕まってしまうんじゃないですか」
●「子どもにハンドル」で無免許運転教唆の例も
2017年、父親の膝の上に乗った子どもがハンドルを操作し、街中をドライブする動画がネットで話題になりました。
その後、父親は逮捕され、道交法違反(無免許運転)教唆の罪で罰金30万円の略式命令を受けました。車は駅近くを走っており、男性はハンドルから手を離していました。
子どもを膝の上に乗せ、公道でハンドルを握らせる行為。もしも親がハンドルに手を添えていた場合はどうなんでしょうか。山田訓敬弁護士に聞きました。
●道路交通法違反(無免許運転)の共犯の責任
「運転免許を取得していない子どもに走行中の自動車のハンドル操作をさせた者は、速度を問わず、道路交通法違反(無免許運転)の共犯の責任などを問われる可能性があります」
ーー親もハンドルを握り、子どもの操作をコントロールしている場合はどうでしょうか?
「子どもにハンドルを握らせているが、事実上は免許保有者が運転している場合であっても、そもそも膝の上に子どもを乗せていること自体、安全運転義務違反の責任(道路交通法第70条、同法第119条第1項第9号)に問われる可能性があります」
外部リンク
車を運転中、パトカーや救急車などの緊急車両が近づいてきたことはありますか。
気づいたら速やかに道を譲る人がほとんどだと思いますが、子育て情報サイト「ママスタ」の掲示板には、「救急車後ろから来てるのに気づいてないのかどかない奴」と題したスレッドがあり、スレ主が「いるよね あれって気づいてないのかわざとなのか」と疑問を呈していました。
緊急車両が近づいても、道を譲らない迷惑車。法的には問題ないのでしょうか。石井龍一弁護士 に聞きました。
●違反点数1点、反則金6千円
ーーそもそも、緊急車両とはどのようなものですか
緊急車両とは、「消防用自動車、救急用自動車その他の政令で定める自動車で、当該緊急用務のため、政令で定めるところにより、運転中のもの」と定められています(道路交通法第39条1項)。
救急車や消防車、パトカーの他、電力会社やガス会社の車両なども含まれ、そうした車両がサイレンを鳴らして赤色灯を回転させながら走行しているとき、緊急車両となります。
ーー緊急車両が来てもどかない場合、法的にはどのような問題がありますか
救急車などの緊急車両が近づいてきたときは、「車両は、道路の左側(一方通行道路の場合は右側も可)に寄って、これに進路を譲らなければならない」と定められています(道路交通法第40条)。
緊急車両が近づいてきているのにどかないというのは、上記の法律の違反であり、違反点数1点、反則金6千円の交通反則通告制度の対象となります。反則金を支払わない場合、罰金5万円以下の刑事処分を受ける可能性があります。