3年に1度の国際芸術祭「あいちトリエンナーレ」が8月1日から75日間、愛知県で開かれる。芸術監督として異例の抜擢をされたのが、ジャーナリストでメディア・アクティビストの津田大介さんだ。
津田さんに任された大きな仕事の一つが、参加アーティストの選考。今回、27の国と地域から79組のアーティストが参加する予定だが、その男女比率はほぼ均等となっている。津田さんが打ち出したのは、「ジェンダー平等」だ。
きっかけとなったのが、昨年8月、アーティストの選考中に発覚した東京医大の不正入試だった。「2018年は、 #metoo の流れの中で色々起きていましたが、極め付けが不正入試問題。分水嶺を超えた気がした。これを変えるには、荒療治が必要と思いました」と津田さんは語る。
●フェミニズム作家をあえて起用
昨年春ごろ、参加作家の候補として上がってきたのが、モニカ・メイヤーというメキシコ在住の女性作家だった。メキシコのフェミニストアートの草分けだが、津田さんは結論を「保留」としていた。
「キュレーターたちと議論がありました。あまりにフェミニズムの『色』がついてしまうと、一般の人たちは引いてしまうのではないかという指摘があり、それも理解できると思いました」
そこへ発覚したのが、東京医大の不正入試問題だ。
「あの事件で、自分は何ができるのか問われた気がしました。日本のジェンダーギャップ指数は、149カ国中110位。この状況は、フェミニズムだから一般の人が引いてしまうといって、議論を避けてきたからではないか。だから、荒療治が必要だと思いました」
●「女性に下駄を履かせたら質が落ちる」に反論
この方針が報道されると、ネットでは批判が起きた。「女性に下駄を履かせたら、作品の質が落ちる」。これに対し、津田さんは真っ向から反論する。
「質で選んだら、結果的にほぼ男女均等になっていたというのが事実です。世界も含めてみれば、女性作家の層は厚く、質は担保されてます。最初は、発表は普通にして、『女性作家が多いな、あれ?半分ぐらいいるな』と気づいてくれる人がいて、口コミで広がればいいなと思っていたぐらいでした」
批判の一方で、美術業界の女性たちからは、男性優位の構造やセクハラ、パワハラを受けたという声が相次いだ。津田さんが4月2日、都内で会見した際にこんなエピソードを紹介している。
「芸大油画は女性教員が1人しかいなかった」(34歳女性・芸大卒) 「いまだ女は『男性作家のミューズ』的な立ち位置を求められるという地獄」(36歳女性・地方美大卒) 「モデルになってほしいというカメラマンに応じたら、ヌードでもないのに撮影中にレイプされた」(33歳女性・専門学校卒)
「本当にひどい話ばかりです。ジェンダー平等を方針とした後も、女性差別のひどいニュースが多かった」と津田さん。あいちトリエンナーレの「荒療治」で、「日本のジェンダー平等を議論するきっかけになれば」と話している。