「彼は明るいキャラクター。常に試合に出たら打率2割9分、20本塁打、80打点は残せるよ」。1月、ラミレス監督は佐野恵太のキャプテン就任と4番指名を公言した。
理想の主将には前任の筒香嘉智(レイズ)や阿部慎之助(巨人2軍監督)を挙げた。「自分の調子が悪くても周囲の雰囲気を盛り上げられる選手がいい」。昨季まで控え野手だった4年目の佐野の重圧は計り知れないが、「それだけの能力はある」と迷いはなかった。
春季キャンプから練習中に2人で話し込むのが日常の光景に。外国人選手初の通算2千安打を放った打撃理論を惜しみなく伝え続けた。
開幕後、快音を響かせつつチームも見渡す25歳の負担は大きかった。連続安打が止まると「4打数無安打の日はどんな選手にもある。自分を見失うな」と発破をかける。話題は4番像にも及んだ。
7月中旬、チームは2週間のビジター遠征から6連敗。「3ボールから甘い球が来たら1球で仕留めるのが4番だ」。苦境打開を求める指揮官の期待通り、佐野は同22日のヤクルト戦で連敗を阻止する1号アーチを放った。12球団の4番打者で最も遅い本塁打となったが、24日には3試合連続の一発が逆転満塁サヨナラ弾に。「連敗中に監督から精神的な助言をもらえたのが大きかった」。そのままリーディングヒッターへ駆け上がった。
風呂場の教え
「強打者」の教えを投球術に生かしたのは、今季18セーブを挙げた8年目の三嶋一輝だ。2013年の入団当初は先発を任されるも活躍の場を失いつつあった。ラミレス監督3年目の18年に救援で60試合、翌19年は自己最多の71試合に登板し、セットアッパーの座をつかんだ。
今年7月29日。開幕から不振だった山崎康晃に代わりクローザーを託された。右腕は球場内の風呂場に、指揮官が入るタイミングを狙ってアドバイスを求めた。
「いろんな指導者の下で野球をやってきたけど、打者との駆け引きや勝負勘は今までで一番というくらい勉強になった。監督に出会ってなければ今季も最後まで全うできなかった」と感謝する。
4番抜てき「一番良い決断」
若き才能を芽吹かせる眼力は確かだった。首位打者のタイトルを獲得した佐野は打率3割2分8厘、20本塁打、69打点。コロナ禍でシーズンが短縮されたにもかかわらず、開幕前に指揮官が挙げた数字を上回る印象を残した。
11月14日、最終戦を戦い終えたラミレス監督はこう言って目を細めた。「彼をキャプテンと4番にしたのは監督の5年間で一番良い決断だった。必ずベストな打者になってくれると思う」
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