Palm(パーム)と聞いて現代のスマホのご先祖様のようなPDA(Personal Digital Assistanse)の「Palm Pilot」やそれに続くいくつかのモデルを思い浮かべる人は、若くても40歳以上の方だろう。
初めてサンフランシスコ郊外のオフィスで、Palm社の設立者であるジェフ・ホーキンスさんとダナ・ドゥビンスキーさんにお会いしてから、すでに20年以上の歳月が流れた。当時、日本ではごく一部のマニアックなユーザー達がUSロボティックス社のPalm Pilotを個人で輸入し、Hacker Dude-Sanによる日本語OS(J-OS)にお世話になったものだ。
筆者は最初、その日本語OSを活用してPalm機を国内発売しようと考えていたが、米IBMが「WorkPad」というまったく同じ製品を自社ブランドで販売検討中であったことから、日本語版の発売を視野に入れて現地に行って見てこい……ということになり、エンジニア達とシリコンバレーに出向いた。
自作のモックアップを持って話すジェフ・ホーキンスさんのTINY(小さな)でQuick(すばしっこい)なデバイスに対する熱意は素晴らしく、日本でもぜひともこの製品を発売したいという気持ちは、最初のミーティングで固まったことを今も覚えている。
そんなPalmのスピリットが、今もサンフランシスコに「Palm Venture Group」として引き継がれているとは知らなかった。Palmは現在、中国のグローバル総合家電メーカーである「TCL集団」が携帯電話ブランドとして持つ、BlackBerryなどと並ぶブランドで、国内ではスマートフォンケースやIoTガジェットを提案し、ライフスタイルショップ「FOX STORE」も展開するFOXがPalm Phone Goldを販売している。
今回発売されたPalm Phone Goldもベース部分は従来のチタンモデルと同じブラックだが、フレーム部分はよりゴージャスなゴールドとなった。サイズは一言で言うなら、クレジットカードや名刺サイズ。考え事をする時や暇な時に手遊びでクルクルと本体を回せる極小サイズだ。シンプルなパッケージの中には、Palm Phone Gold本体とブリーフィングガイド、安全やプライバシーのガイドブック、SIMピン、UAB/ACアダプター、USBケーブルが収納されている。
昨今、スマホと聞けば、その多くはディスプレーが6インチ前後のサイズが多く、現在も常時2〜3台のスマホを並行して使っている筆者だが、外観カラーが同じなら、自分自身でも時々どれがどれかわからなくなるほどデザインは似ている。唯一の違いと言えば、インカメラのレンズ回りのノッチサイズとそのデザインのみという感じがしている。
そんな中にあって、Palm Phone Goldはサイズ感、スマホとしてのフォーカスポイント、使い勝手など、どれをとっても極めてユニークなスマートフォンだ。サイズも重量も6インチクラスのスマホの3分の1以下。スクリーンサイズは昨今の6インチ超の大型スマホの4分の1の3.3インチ、バッテリー容量も5分の1近くの800mAhとコンパクトだ。
充電・設定を経て「こしゃくなスマホ」を体感
しかしこれだけではただただかわいい玩具のような小さなスマホになってしまう。Palm Phone Goldは小さいけれどサイズ感以上の働きをできる仕組みを隠し持っている「こしゃくなスマホ」なのだ。まずは、こしゃくなスマホを体感するために、充電から開始して設定をやって使ってみよう。
満充電までは約68分、50%充電なら約31分だ。満充電になったらSIMを入れて設定する。筆者はPalm Phone GoldにあらかじめAPNとして登録済みのIIJmio(タイプD)を使っているのでほぼ自動設定だ。
現在使っているOPPO Reno Aとほぼ同じアプリを導入して両者を眺めてみると、Palm Phone Goldの方がやけにスッキリとして格好良い画面なのだ。最初はすぐにはわからなかったが、Palm Phone Goldの方は全てのアプリアイコンのすぐ下にアプリ名の表示がまったくないのだ。
基本、自分が日夜使っているアプリなので、目的や機能はわかっている。なので、本来ならわざわざ注釈は不要かもしれない。アイコンからアプリ名を外すことだけで、Palm Phone Goldは基本の縦スクロールの小さな横幅の画面でもまったくこせこせしたBUSYさを感じさせない気持ちの良いユーザーインターフェースを実現している。
そしてPalmユーザーならおなじみのGraffiti(グラフィティ)のイメージに似た「ジェスチャーパッド」機能を搭載。ロック画面で上方向にスワイプするジェスチャーで表示されるパッド部分に利用したいアプリの頭文字を手書きすると、その頭文字のアプリが表示され、数多くのアプリを小さな画面をスクロールして探すことなく、アプリ起動のタイムロスをミニマムにできそうだ。
従来のGraffitiのように少し特殊な一筆書きではなく、ごく普通にアルファベット文字を指先で書くことで実現できるので、Graffitiをまったく知らない初めての人にもとっつきやすいだろう。
「Life Mode」で賢くバッテリーをセーブ
また、Palm Phone Goldは、スマホとしては驚異的なミニマムサイズである800mAhの貴重なバッテリーを大切に使うために、単なるECOドライブモードや全ての電波を遮断する機内モードとは異なる「Life Mode」(ライフモード)という仕組みを提供している。
ライフモードは、Palm Phone Goldを非使用時で画面がオフの時に、アプリによる通知を非表示設定できる機能だ。仕事に集中したい時や、彼女と食事の時、大事なクライアントとの会議などの時にライフモードが効果を発揮する。
もちろんタイマーによる一定時間後の自動解除も可能。ライフモードから復帰した時にたまった通知をまとめて送信するアプリを個々に指定することも可能だ。注意は、LINEなどでメッセージ受信の着信音を設定していると、たまっていたお知らせが一挙に連続して届いたようになって機関銃のように着信音が周囲にもガンガン鳴って聞こえてしまうことだ。自分だけがわかるように音を小さめに設定しておくか無音状態にセットしておくのが良いだろう。
ライフモードは、現代人のスマートフォンへの過剰な依存をリリーフし、今一緒に居る人との時間を最優先に扱い、同時に無駄なバッテリー消費を抑制するなかなか面白いアプローチだ。
同様のセーブリソースの思想は、ジェスチャーパッドやライフモードだけではなく、一般的なAndroid系のスマホには必ずあるナビゲーションボタンを非表示にして、その代替として、タッチボタンの1回押し、2回押し、3回押しで同機能を実現させることも可能だ。これによってシンプルでスッキリしたPalm Phone Goldのホーム画面をより洗練されたクールなイメージにすることができる。
必要な機能だけを使いやすく絞り込んで、工夫を凝らした使い方を提案して創り上げていった感のあるPalm Phone Goldではあるが、そうは言っても物理的に3.3インチの画面は6インチには敵わない。
初めてPalm Phone Goldを使って一番窮屈に感じるのは、キーボードアレルギーこそないが、広々としたQWERTY配列のキーボードで育ってきた我々パソコン世代だ。もちろんフリック入力の世代はきっと3.3インチサイズでも問題ないだろう。
そんなパソコン世代はちょうどPalm世代ともカブっている。そこで3.3インチ画面でも快適な文字入力を実現してくれるのは伝説のGraffiti入力をAndroidで実現したACCESSの「Graffiti Pro for Android」だ。
最初は思い出しながらゆっくり始めたが、今ではフリック入力と変わらない、いやそれ以上のスピードを実現できるようになった。もう少し辞書が充実すれば少しスクリーンが小さめのスマホの日本語入力のベストコンパニオンになれるかもしれない。
本体のみなら名刺ケースにスッキリと収まる
筆者は、Palm Phone Goldを使う前にUnihertzのミニマルスマホ「Atom」を使っていたが、Atomも文字入力にはGraffiti Pro for Androidを使っていた。アウトカメラ、内蔵バッテリー容量、無線LAN、ベンチマーク、タフネスはAtomの方が勝っているが、画面サイズ・解像度、持ちやすさ、軽さ、サブ・スマホとしての全体的バランスは個人的にはPalm Phone Goldの方が好ましいというのが印象だ。
タフネスが自慢のAtomと違ってスタイリッシュでデリケートなPalm Phone Goldにはケースがあった方が安心だ。最初、筆者は数百円のTPU素材のクリアケースを購入して安心感は増したが、やはりPalm Phone Goldはブラックカラーとゴールドのカラーバランスが格好良いスマホなので、どのようなケースを取り付けてもケースなしよりセンスアップするとは考えにくいのが難しいところだ。
本体のみなら名刺ケースにもスッキリと収まる。ブラックとゴールドのコンビネーションは、シルバー系の他のモノとはマッチングや収まりが悪く、やはりゴールド系のモノとのコンビネーションが良さそうだ。
Palm Phone Goldは充電・データ転送ポートとして、Type-Cポートを採用している。昨今揃いだしたType-C対応のいろいろな周辺機器が使えて楽しい。筆者愛用の全天球型ファーウェイ 360度カメラや折りたみ式のType-C ACアダプター、ミニマルサイズでマグネットアタッチのFINGER POWモバイルバッテリー、FUEL CANバッテリーなど、お似合いのミニマルシリーズ系は全てPalm Phone Goldで試して動作した。
レガシーなタイプのスクロールゲームをインストールしても、サイズ的にもパフォーマンス的にもカードゲーム機と張り合うこともできる。オーディオ端子のないPalm Phone Goldの場合、Bluetooth対応のスピーカーやイヤフォンを使うことになるが、ミニマル同士の組み合わせが極めて楽しい世界に引き込んでくれる。
もちろんどんなに小さくても、気合を入れて長文メールを書くつもりならフルサイズのキーボードが有線でも無線でも繋がった。余りのコンパクトさの余り、ちょっとコンビニのお兄さんを驚かせてしまったが、PayPay決済もまったく問題なくできてしまった。
Palm Phone Gold……無理をせず今使っているスマホのサブ機として使うも良し……無理して工夫して、限界まで使うのも良し。スタイリッシュなのに、振り幅の広さが特長だ。今回のPalm Phone Goldは、レガシーなブランドネームを冠しているが、決してレガシーだけではない現在進行形の「小さくすばしっこい」デバイスだ。
Palm Phone Gold ハードウエアスペック
3.3インチHD液晶(720×1280ピクセル)、CPU:Snapdragon 435、3GBメモリー、32GBストレージ、アウトカメラ1200万画素、インカメラ800万画素、800mAhバッテリー、Google アシスタント、顔認証、IP68防水防塵 対応、本体サイズ 幅50.6×高さ96.6×奥行き7.4mm、重量62.5g、Android 8.1、無線 IEEE802.11b/g/n(2.4GHzのみ)、Bluetooth 4.2 Low Energy対応
Palm Phone Goldで撮影した作例
Palm Phone Goldのアウトカメラ(1200万画素)で、ごく普通にスナップした写真。昨今の4000万画素を超えるマルチレンズカメラと比較すると当然画質は劣るが、InstagramなどのSNSにアップする写真やBluetooth系のフォトプリンターで写真印刷する程度であれば問題ないクオリティーだ。
●昼間の屋外
●夜間
●お菓子
●デスク上のモノ
今回の衝動買い
アイテム:「Palm Phone Gold」
・購入:FOX STORE
・価格:4万5630円