ボルネオゾウ「ふくちゃん」
日本に1頭 福山市立動物園(広島)
結核という病気から、奇跡的に回復したゾウがいます。広島県福山市立動物園の「ふくちゃん」(めす、推定21歳)です。
職員は、国内では例がないゾウの結核治療に挑戦し、ふくちゃんの闘病を応援する輪は全国に広がりました。ふくちゃんをめぐる物語は児童書になり、8日出版されました。(猪野元健)
2年8か月の治療 特製の薬団子も
ふくちゃんは、日本に1頭しかいないボルネオゾウです。ふさふさの前髪が特徴で、福山市立動物園を代表する人気者です。
結核の発病がわかったのは2016年3月。何も食べなくなり、立っていてもふらふらする状態でした。
ゾウの結核は命にかかわります。職員はヒトの結核の専門家に話を聞き、海外の治療例の情報を集めました。
ふくちゃんは苦い薬がきらいで口にしないため、口以外から入れても効果のある薬をおしりから投与しました。
順調に回復していましたが、6か月ほどで一部の薬が効かなくなり、口から飲む薬をあたえなければならなくなりました。
治療を始めた時は、その薬を動物用のスポーツドリンクに混ぜましたが、ふくちゃんは薬だと気づいて、1日で飲まなくなりました。
職員は「薬がないと死んでしまう」と工夫をこらしました。甘いみつなどを混ぜた特製の薬団子を作ると、食べてくれました。
ふくちゃんは2500キロあった体重が一時300キロ以上減りましたが、命の危険をのりこえ、2年8か月にわたる治療を終えました。
全国の応援が力に
結核の再発をふせぐには健康をたもつ必要があります。
ふくちゃんを救うための応援の輪がインターネットで広がり、約750万円の支援金が集まりました。
おかげで、動物園はストレスを減らすためのおもちゃを開発し、夏の暑さをやわらげるミストなども設置できました。
園長の井上和彦さんは「投薬終了から1年になりますが、ふくちゃんは食欲があり、元気な状態が続いています」と喜びます。
命の物語、8日発売
作家の秋川イホさんは、2015年に初めてふくちゃんに会い、「一目で好きになりました」とふり返ります。
一方で、生息地の東南アジア・ボルネオ島のことを調べると、日本でも使われるパーム油を手に入れるための開発で、ボルネオゾウは絶滅の危機にあることを知りました。
ふくちゃんの結核の発病がわかり、つらい治療にたえるふくちゃんと、その命を守るために大勢の人が力を合わせるようすを見ました。その姿からは「私もがんばらないと」と勇気をもらったといいます。
秋川さんはふくちゃんの物語を書き、『みんなで守れ! ふくちゃんのいのち』として8日に出版されました。
秋川さんは「ふくちゃんが教えてくれたことを子どもたちに伝えたい」と話します。
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