50か国以上で、500種以上のお菓子と出合い、その経験から「世界のおやつ」というお菓子ブランドを立ち上げた、旅するパティシエの鈴木文さん。
南アメリカ(南米)のおやつ「アルファフォーレス」の作り方を教えてもらいました。見たことがない人も多いと思われるこのお菓子、おうちの人といっしょに挑戦してみませんか?(佐藤美咲)
アルファフォーレスって?
「サクッ」「ホロッ」とした食感が特徴の「アルファフォーレス」。2枚のクッキー生地に「ドゥルセ・デ・レチェ」というキャラメル状のクリームがはさまれた、南米を代表するお菓子です。
もともとは、西アジア~アフリカ北東部の中東で生まれたお菓子。その名は「はさむ、包む」という意味のアラビア語からきています。長い年月をかけて中東からスペインにわたり、16世紀以降にスペインの植民地となった南米の多くの国に伝わったといわれています。
お菓子作りを学びながらさまざまな世界のおやつに出合った鈴木さんが、特にアルファフォーレスにひかれた理由もその壮大な歴史的背景から。「世界各地のお菓子を個々のものとしてみていた私に、歴史でひもづけられているお菓子たちがあることを初めて教えてくれました」
南米各地には、生地がクッキーではなく、卵白を泡立てて焼いたメレンゲや、ショートブレッド(ブロック状のビスケット)風のものなど、その土地ごとにアレンジされたアルファフォーレスがあるといいます。
お菓子をめぐる旅へ出発
もともと洋服の会社で働いていた鈴木さん。20歳のころから趣味でお菓子作りを始め、25歳のときにパティシエの世界へ飛びこみました。
専門学校には通わず、お菓子屋や、ホテルのレストランなどでフランス菓子作りを修業。自らデザートのメニューを考え、提案できる「シェフパティシエ」という立場になると、ある思いがめばえたといいます。
「お菓子を作る指示を出す立場になると、『もともとどんなお菓子で、どこで生まれたのか』など、そのお菓子が持っている物語に思いをめぐらすようになったんです」
お菓子を作るだけでなく、お菓子の裏側にある物語も伝えられるパティシエになりたい――。その思いを実現するため、2016年に約1年間、世界各地のお菓子をめぐる旅へ出発。「ただ見たり食べたりするのではなく、『現地のお菓子を、現地で、現地の人々といっしょに作る』ことにこだわりました」
「おいしい」を入り口に
帰国後に立ち上げた「世界のおやつ」というブランドは、世界各地で学んだお菓子を基本としながらも、日本の風土や気候にも合うようにお菓子を創作。現地で学んだそのお菓子にまつわる物語もいっしょに届けることを大事にしています。
創作する理由は「そのままうまく再現できたとしても、日本人の口に合わないことが多い。『おいしくない』という評価で終わってほしくない」という思いから。
今回教えてもらったアルファフォーレスのレシピも、鈴木さんが現地で学んだレシピをもとに、みなさんがおいしく食べられるよう、レモンの皮などを入れてアレンジしたものです。
「『おいしい』から入って、その裏側にある物語もふくめて興味を持ってもらえたら。いつか本場のものを味わってもらえたらうれしいです」
アルファフォーレスの作り方
材料(約20個分)
〈クッキー生地〉
無塩バター………… 300グラム
粉砂糖……………… 150グラム
レモンの皮すりおろし…1個分
コーンスターチ…… 300グラム
薄力粉……………… 150グラム
卵黄………60グラム(約3個分)
〈ドゥルセ・デ・レチェ〉
コンデンスミルク缶………1缶
〈仕上げ〉
ココナッツロング…………適量
クッキー生地を作る
① ボウルにバターを入れて、手で混ぜてクリーム状にする。
② ①にレモンの皮、粉砂糖を加えて混ぜ、白っぽくなったら、卵黄を少しずつ加えて混ぜる。
③ ②にコーンスターチと、ふるった薄力粉を加えて手で混ぜ合わせる。
④ 一つにまとまったら、ラップで包み、冷蔵庫で2時間以上休ませる。
⑤ ④の生地を麺棒で8ミリの厚さにのばして直径4センチほどの丸い型でぬき、150度に予熱したオーブンで12~15分間焼く。焼き色がつく前に取り出し、天板にのせたまま冷ます。
ドゥルセ・デ・レチェを作る
① なべに、コンデンスミルク缶を開けずにそのまま置く。完全にかぶるまで水を入れ、ふたをして中~強火にかける。一度ふっとうしたら、そのまま弱火で約3~4時間加熱する。
※途中で水を加えるなど、空だきしないように注意する。
② 火を止めて、缶を取り出す。缶が完全に冷めたらふたを開ける。缶を取り出す際は、やけどをしないように注意! 中身がキャラメルのように茶色くなっていたら完成!
※圧力なべの場合は約40分。圧力鍋は説明書をよく読んで使う。
仕上げ
① 2枚のクッキー生地の間に、ドゥルセ・デ・レチェを約15グラムずつはさむ。
② ①の側面のドゥルセ・デ・レチェにココナッツロングをまぶす。
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すずき・あや ぺニンシュラホテル(東京都千代田区)のフレンチレストランなどで修業を積んだ後、世界各地でお菓子作りを学ぶ。帰国後、お菓子ブランド「世界のおやつ」を立ち上げ、自治体や大使館などの商品開発やお店のプロデュースなどにたずさわっている。