生まれつき両腕と両足がなくても、2本の足で立って歩ける――。作家の乙武洋匡さん(43歳)はいま、ロボット義足を使ったこんな挑戦をしています。ロボット義足のことをみんなに知ってもらうためです。今月、東京都江東区の施設で報道陣向けに、歩く練習を公開しました。(松村大行)
10メートルを40秒 ロボット義足で挑戦
乙武さんはふだん、電動車いすを使って生活しています。両足にロボット義足、両腕にバランスをとる義手をつけた姿で立つと一言、「けっこうこわいんです……」。ゆっくり前に歩みだしました。挑戦を支えるロボット義足開発者の遠藤謙さん、義肢装具士の沖野敦郎さん、理学療法士の内田直生さんがそばで見守り、バランスをくずした場合に備えます。
この日いどんだのは、10メートルの往復です。片道を40秒ほどかけて進みます。自力でターンして、ゴールまで3メートルとせまったところで体力は限界に。うしろに倒れたところをだきかかえられ、止まりました。
歩き終えた後は息が切れ、話すのも大変そう。「これまでの人生の中で例えようのないつらさ。おなかの奥のほうが燃えるように熱い」。もっともこれは、歩くための筋肉をうまく使えた証拠だといいます。
ロボット義足にはモーターがあり、歩く途中で急にひざが曲がらないよう制御します。片足で4・5キロほどあり、「米袋をつけているみたい」。それを持ち上げて歩けるよう、乙武さんは車いすを使わずに自宅マンションの階段を30階まで上るなど、トレーニングを重ねています。
周りの希望が力に
乙武さんが本格的に二足歩行の練習を始めたのは去年4月。常にすわった姿勢で過ごしてきたため、体はこしを曲げたLの字形にこり固まっていました。そのまま歩くと上半身が前にかたむき、倒れやすくなります。
それを見た内田さんは「ペンギンみたいに左右に体重をのせる意識で足を出す」などアドバイスしました。
実は乙武さんには歩きたいという強い思いはありません。むしろ、長年使い続けてきた車いすのほうがはるかに楽だといいます。歩くのは「苦しくて、苦しくて、楽しい」。歩く姿を映像で見たお母さんの涙や、この義足に希望を持つ人がいるという思いが、続ける力になっていると話します。
挑戦の目標の一つは、ロボット義足の技術があることを世に広めることです。「世の中に障がいはない。障がいを克服するためのテクノロジー(技術)がないだけだ」。今回の挑戦の合言葉だそうです。
【おとたけ・ひろただ】 1976年、東京都生まれ。生まれたときから両腕両足がない。早稲田大学の学生だった98年に出版した『五体不満足』がベストセラーに。スポーツライターや小学校の先生にもなった。主な著作に映画化もされた『だいじょうぶ3組』など。今月、ロボット義足を使った挑戦をまとめた『四肢奮迅』(講談社)が出版された。
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