「ぼくがいるときは相手の悪口を言わないで」
離婚した両親の間で思いなやむ子どもの気持ちを、子どもから親への手紙としてえがいたシンガポールの絵本が、日本語に翻訳されてインターネット上で公開されました。翻訳した、明治学院大学(東京都)教授の野沢慎司さんは、親の離婚を経験する子どもたちの思いに気づいてほしいと話します。(畑山敦子)
絵本『お父さんお母さんへ ぼくをいやな気もちにさせないでください 離婚した両親への手紙』(作 リム・ヒュイミン)は、シンガポール政府が制作し、家庭裁判所や離婚する家族を支援する機関で無料で配られています。著者のリムさんは家族や少年の法律に関わる仕事をし、離婚家族と向き合ってきました。
絵本では、離婚したお父さんとお母さんに男の子が「お父さんお母さんへ 2人が別れたこと、わかっています」と始まる手紙を書きます。
父や母から相手のことを聞かれたり、相談を受けたりすることにうんざりした男の子は「ぼくは、カウンセラーじゃないし、味方でもないし、賞品でもないです」とこぼします。親の相手への悪口を思い出して気分が悪くなった時は「ぼくがいるときは、相手の悪口を言わないでください。そのときのこと考えただけで、心の中がぐるぐるうずまきになります」とつづります。
離婚、再婚家族について研究する野沢さんは、これまで親が離婚した経験のある子どもから聞いてきた話と絵本が重なったと言います。「離婚で全ての親子関係が悪くなるわけではありません。でも親が離婚相手のことを悪く言う、存在を忘れさせようとするなど、子どもからするとなっとくできないこともあります。子どもはその気持ちを言えないことも多いです」
絵本には「お父さんとお母さんを足し算した答えがぼく」という男の子の言葉があります。「離婚しても、子どもにとって自分はお父さんの子、お母さんの子であることに変わりはありません。お父さんとお母さんが相手を否定することで、自分も否定されたように悲しくなります」と野沢さんは言います。
厚生労働省の2017年の統計によると、離婚の件数は約21万件でした。離婚や再婚はめずらしいことではありません。
翻訳された絵本は「日本離婚・再婚家族と子ども研究学会」のホームページで見られるほか、家庭裁判所や離婚家族を支援する機関にも提供する予定です。
野沢さんは両親が離婚した子には「読んで気持ちが救われたらうれしいし、つらい時には気持ちを打ち明けていいんだと思ってもらえたら」と言います。また身近に親が離婚、再婚した友だちがいたら「その子は自分のことをあまり話さないかもしれません。でも、友だちはこんな経験や思いをしているかもしれないと思いをめぐらせるのは大切なことです」と話します。
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