「昔のクルマには夢があった…」なんていうと、怒られるかもしれませんが、昭和30~40年代の日本では、特別仕立てのクルマが、少量生産されるケースが多々ありました。
日産自動車の前身であるプリンス自動車が1962年に発売した「スカイライン スポーツクーペ」や、かの有名なトヨタ「2000GT」などはその代表例で、流麗なボディに高性能なエンジンを搭載したスペシャルな存在でした。とはいえ、いずれも高価で、当時の所得水準からするとかなりの高額車。人々にとってはまさに、夢のクルマだったわけです。
そんな、かつての夢のクルマを軽くしのぐ、ケタ外れに特別なクルマが、再び日本の地に姿を現しました。それが、2018年7月に世界初公開された、日産「GT-R」をベースとするプロトタイプ「GT-R 50 byイタルデザイン」です。
■ゴールドのアクセントは“ケンメリ”GT-Rへのオマージュ
すでに市販化へ向けて動き出しているとされるGT-R50 byイタルデザイン(以下、GT-R50)の想定価格は90万ユーロ(約1億1700万円)〜。7月にイギリスで開催されたグッドウッドフェスティバルにて発表された時は、そのプライスタグに仰天しましたが、何より、コンセプトカーさながらのプロトタイプが市販を前提として開発されている、という事実にも驚きました。
GT-R50誕生のきっかけは、ネーミングの「50」からもお分かりのとおり、来年2019年に、GT-Rが誕生から50周年を迎えるため。また今回、日産自動車と初めて提携するイタルデザイン社は、今年2018年がちょうど創立50周年。それらを祝うべく、この奇蹟的なコラボレーションが実現したわけです。
ちなみにイタルデザインといえば、ブガッティやマセラティなどのコンセプトカーを始め、各国メーカーのクルマやプロダクトのデザインを手掛ける名門のデザイン&エンジニアリング会社。かの有名なジョルジェット・ジウジアーロ氏が創設者と聞けば「ああ、あの!」というクルマ好きやモノ好きの方は多いのではないでしょうか。日産自動車とタッグを組むのは今回が初めてというのは、ちょっと意外な気もしますが、日本でも馴染みのあるデザイン会社のひとつといえるでしょう。
GT-R 50は、開発や設計、製造はイタルデザインが担当し、エクステリア&インテリアのデザインは、日産デザインヨーロッパと日産デザインアメリカが担当しています。“サムライブレード”と名づけられたフロントフェンダーのエアアウトレット、大きな可変式のリアウイング、切れ長の鋭いヘッドライトなど、オリジナルGT-Rとの違いを挙げればキリがありませんが、そのたたずまいはひと目でGT-Rと分かるもの。にも関わらず、迫力や凛々しさは10割増し、というとオーバーでしょうか。
さらに細かく見ていくと、エクステリアのすべてのパーツが、GT-R 50のために作られた専用品であることが分かります。前後フェンダーや着脱式のボンネット、そして立体的なテールランプを備えた特徴的なリア回りなどは、オリジナルGT-Rとの違いが一目瞭然。
さらに、天地に浅いサイドウインドウ、センター部を帯状に凹ませたルーフ、さらには、開閉可能なハッチに改められ、内部をラゲッジスペースとしたリアウインドウなど、骨格に至るまで手が加えられていて、もはやオリジナルとは完全な別モノになっています。
■骨格に至るまでオリジナルとは別モノ
インテリアも同様で、光沢アリとナシ、2種類のカーボンが用いられたセンターコンソールは専用形状であるほか、人工スエードの“アルカンターラ”と黒のレザーをあしらったシート、そして、ドアのインナーパネルに至るまで、専用パーツが採用されています。ここまで徹底した特別仕立てというのは、長い日本車の歴史を振り返ってみても、初めてではないでしょうか…。
GT-Rのハイパフォーマンスバージョン「GT-R NISMO(ニスモ)」がベースというメカニズムにも、当然のごとく手が加えられています。エンジンは、3.8リッターのV6ツインターボ“VR38DETT型”をベースに、さらにパフォーマンスを向上。最高出力は720馬力、最大トルクは79.5kgf-mと、実にNISMO比で120馬力、13.0kgf-mもアップ。ノーマルモデルと比べれば、150馬力、14.5kgf-mものパフォーマンスアップを果たしています。
すでに公開されている車両は「リキッドキネティックグレイ」と呼ばれるボディカラーをまとっていますが、これも歴代GT-Rとの関連を想起させるもの。さらにアクセントとして「エナジェティックシグマゴールド」のアクセントが内外装に配されていますが、これを見てピン! と来た方は相当な日産ツウ、いやGT-Rツウといえるでしょう。
そう、このダークカラー×ゴールドの組み合わせは、1972年の東京モーターショーに展示されたKPGC110型、通称は“ケンメリ”GT-Rをベースとする幻のレーシングカー「スカイライン2000 GT-R レーシングコンセプト」へのオマージュなのです。
ちなみに、11月25日までGT-R50が公開されている東京・銀座のNISSAN CROSSING(ニッサンクロッシング)では、GT-R 50とともに、こちらのGT-R レーシングコンセプトも展示されています。
■完全に“生産はスタンバイ状態”であるかのようなクオリティ
日産自動車のグローバルデザイン担当役員、アルフォンソ・アルバイザさんによると、GT-R50は国内外のマーケットを問わず相当な反響があり、50台の生産を“考えている”とのこと。すなわちGT-R50は、プロトタイプながら限定生産の可能性が高いというわけです。
このほかアルバイザさんは、エクステリアはふたつの仕様が用意されること、エクステリアカラーの選択ができること、インテリアはマテリアルなどをセレクトできること、など、GT-R50も詳細を明らかにしています。実際に公道での走行を考慮すると、法規に合わせて若干のデザイン変更が必要になると思われますが、細部のクオリティを見る限り、もはや生産は完全にスタンバイ状態にあるということをつけ加えておきましょう。
まさに、テーラーメイド仕立てのGT-R 50。報道では1億円超のプライスに注目が集まり、大きな話題となっていますが、そのメカニズムはもちろんのこと、クラフトマンシップあふれる仕立てを見れば、納得といったところでしょうか。パフォーマンスの面ではすでに、スーパーカーリーグのレギュラーメンバーにその名を連ねるGT-Rですが、イタルデザインとのコラボレーションにより、本物の風格を手に入れたのは間違いなさそうです。何もかもが特別過ぎるGT-R 50は、GT-Rファンはもちろん、クルマ好きなら一見の価値がある、まさに夢のクルマです!
<SPECIFICATIONS>
☆GT-R 50 byイタルデザイン
ボディサイズ:L4784×W1992×H1316mm
車両重量:非公表
駆動方式:4WD
エンジン:3.8リッター V型6気筒 DOHC ツインターボ
トランスミッション:6速AT(デュアルクラッチ式)
最高出力:720馬力/7100回転(予定)
最大トルク:79.5kgf-m/3600~5600回転(予定)
想定価格:約90万ユーロ〜
(1億1700万円/2018年10月15日の換算価格)
(文/村田尚之 写真/村田尚之、日産自動車)