日常的に感じるストレスについて質問すると、「仲良しグループの付き合い」「一対一の濃すぎる関係」など、仲の良い身近な人との人間関係を挙げる人がとても多いと感じます。
たとえば、働く人からは「昼休みや飲み会では、愚痴ばかり聞かされるのが苦痛」、生徒・学生からは「友達なのに陰で悪口を言い合う雰囲気がつらい」、地域の人々との会話からは「親しくなると、お互いの家庭事情がまる見えになるのが息苦しい」といった悩みをよく耳にします。
「孤立するのも嫌だけど、ベッタリした付き合いになるのも嫌」「話し相手がいるのは楽しいけど、悪口に発展したり、グループ内でいざこざに巻き込まれたりすると疲れる」。このように、人間関係は維持したいものの、煩わしくない関係のとり方に頭を悩ませている人は多いものです。
人は無意識のうちに「距離」を保とうとする
では、最初は楽しかったはずの身近な人々との関係が、なぜいつしかストレス源になってしまうのでしょう? これには、意識して「適度な距離感」を保とうとしていないことが考えられます。
まず、人は他人と接するとき、無意識のうちに物理的な距離を置き、個人空間を守ろうとします。この個人空間をアメリカの文化人類学者、エドワード・ホールは「パーソナル・スペース」と呼びました。
ホールは、他人と個人的な話をするときには約75~120cm(お互いに手を伸ばして指先が触れあうくらいの距離)の個人空間をとろうとし、その距離より近づきすぎると不快感を覚えると説明しました。つまり、仲が良くても、他人と接近しすぎるとストレスになるのです。
人づきあいにはこうした物理的な個人空間だけでなく、精神的な個人空間も確保できないと、苦しくなってしまいます。
人間関係の距離感を上手に保つ4つのコツ
では人間関係において、適度な精神的距離を維持していくためにはどのようなことを心がけるとよいのでしょう。私は、次の4つを意識していくことをお勧めしたいと思います。
1. 長時間、同じ人と過ごさないようにする
一定の人々とあまりにも長い時間を共に過ごしていると、一緒にいるのが苦痛になっていきます。
たとえば仕事では、1日8時間以上オフィスで一緒に働いているのに、昼休みも一緒に過ごす。夜も飲み会やサークル活動でまた一緒……。こんな関係が続いていたら、仲が良くても息苦しさを感じるはずです。
労働時間などの公的な時間の共有は仕方がありませんが、昼休みや退社後、休日などのプライベートの時間は、意識的に個人的な時間・空間を確保していきましょう。
2. 「すべて」を自己開示しない
家族の事情や家計の事情、恋愛遍歴や個人的なコンプレックス……お互いの“すべて”を分かち合わなければ、真の友情を築けないと思っていないでしょうか?
たしかに「自己開示」(自分の情報をありのまま伝えること)ができれば、他人との精神的な距離が近くなり、信頼関係も築きやすくなります。しかし、開示をし過ぎると、その話を聞いてくれた相手に対する依存心や依頼心が生じてしまうことがあります。
聞き手の中には、相手の情報を握ることで優位に立とうとする人もいますので、気をつけましょう。
3. 「同調的」な会話をしない
「共感的」な会話は、人間関係を深めるために大切なことです。一方「同調的」な会話は、人間関係が依存的になりやすくなってしまいます。
たとえば、愚痴を言った相手に対して「それはひどいね。許せないね!」と、同調的に返すことを親切だと思っている方は多いものです。しかし、実はこの同調の一言が、相手のさらなる愚痴を呼び起こしてしまいます。同調的な会話を繰り返していると、それを止めた途端に「急に冷たくされた」「もう友だちじゃない」と敵視されることもあります。
愚痴には同調ではなく、「そんなにつらい気持ちなんだね」というように共感的に応答しましょう。
4.「3点確保」の活動拠点を持つ
ここ最近の活動拠点が、主に「2点」に限定されていませんか? たとえば「家庭」と「地域サークル」だけ、「家庭」と「職場」だけ、「家庭」と「学校」だけ……。このように、エネルギーを傾ける活動拠点が1~2点程度に留まってしまうと、その中の人々との関係が濃くなりすぎて、息苦しさを感じるようになります。
人とのつきあいをストレスにしないためには、活動拠点を分散させることです。自分の安全を守るために、登山やロッククライミングでは「3点確保」という体勢をとります。「両手と片足」「片手と両足」というように支点を3カ所に分散させることにより、身の安全を守っているのです。
人間関係にもこの「3点確保」を取り入れ、リスクを分散させていきましょう。たとえば、主婦なら「家庭」と「地域サークル」の関係に、それらとはまったくつながりのない「マラソンサークル」を加えてみる。働く人なら「家」と「職場」に、それらとはまったくつながりのない「バンド活動」を加えてみる。学生なら、「家」と「学校」の関係に、それらとはまったくつながりのない「ボランティア」を加えてみる。
このように、まったく異質な活動拠点を3点以上設けると、一つの人間関係の問題だけに煩わされずに済むようになります。
身近な人々との関係は、細く長く、大事に続けていきたいものです。その関係をストレス源にしないためにも、上のようなヒントを活用しながら、工夫して付き合っていきませんか?
文:大美賀 直子(精神保健福祉士・産業カウンセラー)