先日、私の主宰する「恋人・夫婦仲相談所」にこんなご相談がありました。
「子供が生まれて以来、産後セックスレスからそのまま夫婦別寝が続き、10年以上セックスレスです。1カ月に1回未満というより、何年も一切セックスがありません。もういまさら、夫とセックスしたいとも思いませんし、特に不満も感じなくなっていたのですが、先日、ママ友から『女性の30代は性の快楽に目覚める時期なのよ。セックスレスだなんて、女として不幸だわ。人生の楽しみの半分は損をしているわよ』と言われてショックを受けました。セックスレスは損なんでしょうか?」
皆さんはどう思われますか? ここではセックスレスと「不幸」や「損」について考えてみましょう。
日本の夫婦のセックスレスの割合は?
日本にセックスレスの夫婦はどのくらいいるか?については、各所でさまざまな調査が行われています。
例えば、日本性科学会セクシュアリティ研究会が行った2012年の調査では、自分がセックスレスと回答したのは「男性の40代が59.0%、50代が86.0%」「女性の40代が54.0%、50代が75.0%」でした。
また、コンドームメーカーの相模ゴムが2013年に行った調査では、セックスレスですと答えたのは「男性の30代が52.6%、40代が62.9%、50代が60.3%」「女性の30代が54.0%、40代が56.2%、50代が53.6%」でした。
さらに医薬品メーカーのアンファーが2016年に行った「夫婦愛と頭髪に関する調査」によると、自分たちがセックスレス夫婦かどうか聞いた結果、はいと答えたのは男女平均で「30代が47.0%、40代が59.0%、50代が71.3%」でした。
調査によって数字の多少はありますが、いずれにしても30代以上の半数以上はセックスレスであるということは間違いがなさそうです。ということは、世の中の夫婦の半数以上が「不幸」で「損をしている」のでしょうか?
セックスレスは本当に損なの?
冒頭でご紹介した女性は「セックスレスは人生の損」と言われショックを受けていましたが、損得の価値観は、人それぞれではないかと思います。たとえば、もし週1回のセックスがあったとしても、それが旦那様の性欲処理に過ぎない、一方的な「俺様セックス」で、妻にとっては苦痛の時間でしかないとしたらどうでしょう。この妻にとってはセックスレスの方が「幸福」で「得」かもしれません。
実は、セックスがあるのかないのかが問題よりも、セックスに対して夫婦の思いや価値感が一緒なのかどうかの方が、大きな問題なのです。2人の意識がずれている限り、両方が幸福であることはありません。
さらに言えば、挿入することだけがセックスではありません。セックスはあくまでもコミュニケーションのひとつであり、その形はパートナーごとに異なって当たり前です。手や口、あるいはグッズなどを使って楽しむこともセックスの形のひとつですし、2人で裸で抱き合って眠るだけでも、2人の気持ちが満たされるなら、それはその2人にとってのセックスといえるでしょう。
夫婦の間で「セックス」に対する認識や満足感が一致していれば、どんな形でもOKなのです。
自分のセックスを棚上げするな!
夫婦の間のセックスに対する認識を確認するために私がおすすめしているのが、夫婦でセックスについて語り合う機会を持つことです。夫婦間でセックスに対する考え方を共有しあうことは、自分のセックス観を見直すきっかけにもなります。
長年セックスレス相談を受けていると、夫婦の間でセックスに関する話し合いが一度も持たれていない例に、よく遭遇します。それぞれが自分だけのセックス観を持ち、それを相手にきちんと伝えていないにもかかわらず、相手が自分のセックス観と合わないことを嘆いています。相手だけを責めているのです。まさに「自分のセックスの棚上げ」状態で不満を抱えておられます。
「パートナーはセックスについてどうお考えなんですか?」「あなたのセックスに対するお気持ちは、お相手に伝えましたか?」というこちらからの基本的な質問に、まったく答えられない方が少なくありません。
「言わなくてもわかるでしょ」というのは、コミュニケーションの怠慢をごまかす言い訳にすぎません。夫婦と言えども「言わなきゃわからない」のです。ましてや、セックスに関することなんて、普段、なかなか知る機会はありませんから、夫婦でセックス談義をするしか、わかりあう手段はないのです。
他人と比較するより、パートナーとしっかり向き合いましょう
自分たちはセックスレスなのか? 日本にはどのくらいセックスレスの人がいるのか? セックスレスは不幸なのか?
夫婦のセックスに関して、他人の様子を調べたり、他人と比較したりはあまり意味がありません。それより大切なのは、自分たち夫婦のセックス観にしっかりと向き合い、自分たちの幸せの形を見つけることです。
他の夫婦と自分たち夫婦は別物です。自分たち夫婦なりの幸せな関係を見つけ、その状況を自分たちで作りましょう。そして、幸せを感じられたら必ず「とっても幸せ! あなたと一緒にいてよかった」と言葉にして伝えることです。
もうそろそろ、「セックスレスの割合」を気にするのはやめにしましょう。私が一番最初に書いた著書のタイトルは『隣の寝室』(講談社)です。お隣の夜の事情が気になってしかたないという気持ちを"隣は隣、うちはうち"と転換させるだけでも、ずいぶんセックスの呪縛から解き放たれます。
たとえ、隣の寝室事情を把握したとしても「お隣は週3回もしていらっしゃるのよ。うちだって負けてられないわ。水曜もしましょう……」なんてことにはならないのです。それを言い始めたらまさにモンスターワイフ、モンスターハズバンドです。
そして「お隣だって3年間もしてないんだから、うちもなくてもいいわ」という安心もしてはいけません。相手ありきのアクションですので、パートナーが「なんで毎日拒むんだ?」と一瞬でも思ったとしたら、そのほころびはジリリと広がり、60歳になる頃には手も繋げない熟年夫婦になる可能性も出てきます。
「幸せ」か「得」かどうかを決めるのは自分自身です。セックスによる損得の問題は、同性の友達やネット掲示板より、目の前にいる異性のパートナーと語るのが一番幸せなことです。
文:三松 真由美(夫婦関係ガイド)