ボルトン前国家安全保障担当大統領補佐官が回顧録を出版。米大統領選挙を前に「大統領がどんな人物なのかを正確に伝えたかった」とAERA 2020年10月19日号に話した。
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ジョン・ボルトン氏(71)といえば、ワシントン屈指のタカ派として、主にリベラル派から強い反発を受けてきた人物だ。国家安全保障担当補佐官としてトランプ大統領に起用されたが、ホワイトハウス内の実態を見るにつけ、約1年半後に辞任を決断。その後に書いた「回顧録」が大統領選挙を前に出版され、米国では発売1週間で78万部を突破した。ボルトン氏は日本語版『ジョン・ボルトン回顧録 トランプ大統領との453日』が発売された10月7日、アエラのインタビューに応じ、回顧録よりもさらに強い表現でトランプ氏を批判した。11月3日の大統領選挙日には、トランプ氏に投票しないことも明らかにした。彼の「回顧録」は、トランプ氏によって隘路(あいろ)にはまった米保守本流の再生を願った著書ともいえる。
──なぜ、大統領選挙前に回顧録を出版したのですか。
人びとが、選挙戦最中にどんな性格の人物が大統領になろうとしているのか知るのは、今より他にない。私の視点も入っているし、読者は私とは異なる結論を引き出すこともできるが、ホワイトハウスで安全保障問題について何が実際に起きたのか、人びとにできるだけ詳しく説明するのが重要だと思った。
──回顧録から、トランプ氏が実際にどのような人物だと分かりますか。
彼は米国人が普通に思う保守でもリベラルでもなく、大統領職というものを真剣に捉えていないと思う。彼が下す決断には、これと分かるような一貫性はなく、安全保障問題についてもそうだ。彼は学ばないし、知らない物事を気にかけもしない。外交問題ですら、外国首脳を秤にかけ、勘と感情で交渉を行おうとする。これは非常に深刻な問題で、外交は強力な統率力、長期的な視点、持続性、実行力が必要だ。トランプ氏のように毎日新しいことをでっち上げるのでは立ちゆかない。
──あなたはホワイトハウスは「カオス(混乱)」だと表現しましたが、トランプ氏を止める方法はなかったのでしょうか。
カオスは大統領自身に起因している。彼は、(大統領執務室がある)ホワイトハウス西棟よりも米政府がいかに巨大なものかを全く理解していない。ハリケーンなど自然災害が起きた際、私はよくトランプ氏をホワイトハウス西側にあるアイゼンハワー行政府ビルに連れていった。そこに国家安全保障会議(NSC)のほとんどのスタッフがいて24時間絶え間無く働いているのを見せるためだった。しかし、彼は西棟を離れるのも、地下にあるシチュエーションルームに来ることさえ好まなかった。スタッフがいなくても自分で何でも決断できると思っているようだが、それでは彼の力を逆に弱め、効果ある決断を下すことができない。多くの良識ある人びとが彼を説得しようとしたが、私も含めて皆、徒労に終わった。
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──トランプ氏は10月初旬、新型コロナウイルスへの感染が判明しました。感染を防ぐ手立てはなかったのでしょうか。
1月から今日まで、大統領は新型コロナ対策で多くの間違いを犯したと思う。習近平・中国国家主席との関係を新型コロナに邪魔されたくなかった。好調な米経済に再選がかかっていると思い、影響があることには耳を貸さなかった。このため、NSCが「深刻な問題だ」と言っても反応が鈍かったし、今日でも一貫した対策がない。その悪影響は誰の目にも明らかだ。
また、マスク着用が、米国では政治的な問題に発展してしまった。日本では、医師と公衆衛生の専門家がマスクを着用するべきだと言えば誰もがマスクをするが、米国では政治的な論争になり、そのトラブルの責任の一端がトランプ氏にある。彼のせいで政治的問題になったのに、彼はその責任を認識しているという態度も取らなかった。
──投開票日4週間前に大統領が、新型コロナに感染したことは、大統領選にどんな影響がありますか。
現時点でまず、トランプ氏は第1回大統領候補討論会での言動でダメージを受けた。その上、新型コロナに感染したにもかかわらず、ボリス・ジョンソン英首相のように国民からの同情さえ得られなかった。共和党は、トランプ氏がホワイトハウスだけでなく、上院の過半数も失うのではないかとかなり懸念していると思う。
──あなたは長年の共和党員だが、現在の共和党をどう見ていますか。
共和党がトランプ氏に対してきちんと防波堤の役割を果たしたとは思えない。大統領を怖がり、批判することを嫌がる。これは、民主主義社会にとって良くないことだ。政治的な忠誠心があるのは立派なことだが、それにも限界がある。トランプ氏が11月に敗北することがあれば、党内でどうやってトランプ氏が招いたダメージを取り除いて党を立て直し、2024年大統領選では同じ過ちを犯さないか議論するべきだろう。
──あなたは2016年にトランプ氏を支持したが、今年は支持しますか。
トランプ氏には投票しないつもりだ。私が成人し投票できるようになってから、共和党の大統領候補に投票しないのは初めてだ。民主党候補のバイデン前副大統領にも投票はしない。私が住むメリーランド州のある共和党員の名前を書くつもりだ。
(ジャーナリスト・津山恵子=ニューヨーク)
※AERA 2020年10月19日号より抜粋
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