* * *
■登場人物と共に生きる
加藤シゲアキ(以下、加藤):書き始めた頃は結末も考えていなくて、「オルタネート」(高校生専用のアプリ)に対して異なるアプローチをする3人のキャラクターを考え、それぞれの世界に飛び出してもらいました。現実の世界でも、不意に訪れる予測不可能な出会いや出来事が人生を豊かにし、成長させてくれるので、最初からあまり決め込まずにいました。物語のなかで夏が訪れれば「夏がきたけれどどうする?」と登場人物たちに問いかける。僕自身、その期間を彼らと一緒に生きていました。
加藤:さまざまな学校のホームページにアクセスし、学園マップなどを調べていきました。学校によっては内部の様子が動画で見られるようになっていて。結果的に、母校のような雰囲気にはなったのですが、それは自分に根ざしているものだからなのかもしれないですね。
「料理」や「音楽」など、自分が好きなものを物語のなかに採り入れていきましたが、興味のあるものでないと表面的になってしまうし、書くまでに時間がかかってしまう。“いまだに書いていないもので、深く書けるもの”として好きなものを物語のなかで描いていきました。
■終わらせられない小説
「オルタネート」というタイトルに加え、登場人物の名である「蓉(いるる)」という響きも印象に残る。
加藤:オルタネートという言葉との出合いは、思い出せないんです。なんでオルタネートにしたんだろう? (笑)。でも、タイトルは早い段階から考えていて「これがいい」と強く思いました。「蓉」という名前は、漢字1文字で読みは3文字くらいの響きがいいなと考え、人名辞典をあ行から順に見て、「蓉っていいな」と。どこか歴史を感じさせるけれど、響きは新しい感じもして。蓉と凪津、3人のキャラクターのうち2人を女性にしたのは、男性を描くと、僕自身になりすぎてしまうから。自分と距離があるという意味で、女性のほうが書きやすいんです。
加藤:歴史ある文芸誌で連載ができたことは僕自身も嬉しかったですが、僕以上にファンの方含め周囲の人びとが喜んでくれました。若い女性が小説新潮を片手に持っている姿を想像すると、ちょっとシュールですけれど(笑)。せっかく買ったのだから、掲載されているほかの作家さんの小説も読んでみた、なんて声も聞きました。
(ライター・古谷ゆう子)
※AERA 2020年12月7日号より抜粋
【NEWS増田貴久「出会えた運命を感じてる」 にんじんを見て泣きそうになったことも】