近年、増加傾向にあるという中学受験の受験者数。ということはその分、不合格の数も増える。望まない結果だったときに、親はどう振る舞えばいいのか。AERA 2021年2月1日号では、専門家らに話を聞いた。
【中学受験直前、親が子にかけるべき「天使のささやき」とは?】
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コロナ禍は子育て家庭の家計にも影響を及ぼし、今年は、中学受験の受験者数は減るのではないか、という見方があった。だが、現実は逆だ。受験者数はむしろ増加傾向にあるという。
■休校時の公立校に不安
「今年の首都圏の私立中学受験者数は、ピークだった2007年と同様の5万人台に戻る可能性が高いです」
と分析するのは首都圏模試センター取締役で、同センター教育研究所所長の北一成さんだ。増加の一つの要因に公立校の教育不安があるのではと話す。
「昨春の緊急事態宣言で学校が休校になった際、公立校の対応に不安や不満を持つ保護者もいました。公立一貫校だけの受験で考えていた家庭の中にも、私立との併願に切りかえるパターンが見られます。学校に足を運んでもらう形の学校説明会ができなくなった分、私立各校はオンライン説明会を充実させていきました。休校期間中に行った学びの工夫について発信する学校も多かった。私立に魅力を感じる保護者が増えたのではないでしょうか」
また、増加理由として、入試の多様化も挙げた。算数や英語の1教科で合否が決まる入試をはじめ、プレゼンテーション入試など、教科以外で合否を決めるテストも増えてきた。点数で“門前払い”をする入試と違い、子どもの得意なことなど、良さを見て評価してくれるというところに「保護者が共感しはじめている」とも話す。
■共感しつつも淡々と
私立のように高額な授業料のかからない公立中高一貫校も相変わらずの人気。また、チャンスが一度しかない都立一貫校の受験者をすくい上げるため、都立一貫校が行う適性検査型入試を導入する私立も増えた。併願がしやすくなったのも私立受験者数の増加につながった可能性があると見ている。
これだけ受験者数が増えると、当然「不合格になる子」も増える。親が最も悩ましいのは、落ちた子にかける言葉だ。
都内の中高一貫校に通う娘を持つ父親(49)は数年前にこんな経験をした。娘は中学受験大手の塾に通塾し、女子御三家を目指していたが、本人が目標としていた学校は全て不合格になった。模試での結果はいつも合格圏内にいた。第2志望の学校は試験が複数回あるため、子どもも親も、どれかでは受かるだろうと思っていた。だが想定外の結果が続き、家庭内は暗い雰囲気になった。
「同じ学校の試験が3回目、4回目となると、まるで敗者復活戦を延々とやっている感じでした」
こんなとき親はどうしたらいいのか。『中学受験で超絶伸びる!受かる家庭の習慣』で知られる勇気づけ子育てコーチング協会代表理事のたなかみなこさんは、子どもが気持ちの落ち込みを表しても、親はそれに同調しないほうがいいと言う。親のほうが落ち込めば、子どもは親に悪いことをしたという思いまで追加されて、ネガティブな気持ちが増幅してしまうという。
「親は子どもの気持ちに共感しつつも、淡々とすることが大事です。親がグチグチと言わなければ、落ちたことを失敗として捉えずにすみ、子どもは引きずりにくくなります」
声かけとともに、戦略も大事だと、前出の父親は言う。
「絶対に、全落ちした時のことは考えておいたほうがいいです」
御三家狙いだったこの家庭では、万が一に備えて、偏差値的には10は下がる学校も受けていた。そこに合格したことで親子ともに救われたし、次に向かって頑張ろうという気持ちになれたという。
■受験の失敗は親が作る
インターネット出願が主流となった昨今は、受験日の前日夜まで出願を受け付ける学校も多い。東京都品川区在住で、大学付属の中高一貫校に通う中学2年生の娘を持つ母親(45)は、入学した学校は「恥ずかしながら、願書を出すまで名前も知らなかった」と話す。
中学入試前半戦、合格をもらえずにいたこの家庭は結果を塾に報告すると、一つは合格をもらってから本命の入試に挑むことを勧められた。絶対に合格できそうな偏差値帯の学校にパソコンから出願したのは試験前日の夜10時過ぎだった。結局、駆け込み出願をした学校に入学を決めた。
「合格した時“良かったね”と伝えました。学校での成績も上位をキープできているので、結果的にこれでよかったと思っています」
このように、予定外の学校に出願し、入学することもありうる。もちろん全部不合格になって地元中学に通うこともある。どんな結果になっても、親子でその結果を前向きに消化し、次に向かって歩けるかが大事だ。
前出のたなかさんによれば、中学受験で大切なのは、“失敗した”という気持ちを子どもに植え付けないことだと言う。
「中学受験の失敗は、親が作ると思っています。結果がどうであっても、あなたのチャレンジは素晴らしかったし、あなたが私の宝物であることは変わらないということを伝えてあげてください」
(フリーランス記者・宮本さおり)
※AERA 2021年2月1日号より抜粋
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