開発中の新型コロナワクチンは、従来型とは違う製造法で作られている。短期間で大量生産できるメリットはあるものの、安全性や輸送、接種体制など課題も多い。AERA 2020年11月23日号から。
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現在、開発が進む新型コロナウイルスのワクチンは、これまで臨床で使われたことのないような、新たな製造法で作られているワクチンが多い。
従来は、鶏卵や細胞などで培養し増やしたウイルスの病原性をなくしたり、弱毒化したりといった処理をしたものを使い、ワクチンを生産していた。ウイルスの培養など時間がかかるものの、過去に大勢に接種した実績があり、安全性や効果についての情報が多数蓄積されている。
■短期で大量生産できる
一方、新たな製造法としては、新型コロナウイルスのたんぱく質を作る遺伝子と同じ遺伝情報(塩基配列)のRNAやDNAを人工的に合成したものを使ったり、無害化した別のウイルスに新型コロナウイルスの遺伝子の一部を組み込んで作る「ウイルスベクター」を使ったりといった方法がある。
比較的短期間で開発でき、大量に生産もできる。だが、これまで臨床現場で大人数に使われたことがないため、安全性などについて未知の部分も多い。
日本政府が輸入するファイザーとモデルナのワクチンはRNAワクチンだ。新型コロナウイルスの表面にある突起状のたんぱく質を作る遺伝子の一部と同じ遺伝情報のRNAを、脂質でできたナノ粒子で包んでいる。アストラゼネカのものは、チンパンジーのアデノウイルスに、新型コロナウイルスの突起状のたんぱく質を作る遺伝子の一部と同じ遺伝情報の遺伝子を組み込んでいる。
いずれも、ワクチンが接種を受けた人の細胞内に入ると、ウイルスの突起状たんぱく質の一部が作られる。免疫細胞はそれをウイルス抗原として認識し、抗体を産生する。通常、抗体ができるまでに1~2週間かかる。しかし、ワクチンであらかじめ免疫細胞に抗原を認識させておけば、いざウイルスに感染した際に、素早く抗体でウイルスが攻撃され、感染や発症、重症化を防ぐことができると期待されている。
■「すべてを救う」ではない
熊本大学大学院生命科学研究部の松岡雅雄教授(ウイルス学)は、新しいタイプのワクチンの安全性については慎重に見極める必要があると指摘する。
「ウイルスベクターワクチンは、体内でウイルスのたんぱく質の一部が一定期間、作られ続ける可能性がある。それが感染を防ぐのに効果的に働くだけでなく、一部の人には悪い影響をもたらす可能性もあるので、十分に検証する必要がある。一方、RNAワクチンは、体内で短期間、ウイルスのたんぱく質が産生されるだけで、従来のウイルスのたんぱく質を使ったワクチンとほぼ同じ安全性だろうと予想されるが、やはり十分な確認は必要だ」
保管や輸送、接種体制も課題だ。ファイザーのワクチンはセ氏マイナス70~80度、モデルナのワクチンはマイナス20度でないと長期間、保管できない。ファイザーのワクチンは、通常の医薬品を保管する零度以上の冷蔵庫では、5日間しかもたないという。
ファイザーは、1千回分以上のワクチンを超低温で輸送できる、ドライアイスを使った箱も開発しているが、大学病院など限られた病院にしかマイナス70度以下で保管できる設備はないため、いったん輸入されたら、短期間のうちに1千人以上に接種しないと、ワクチンが使えなくなってしまう、といった事態にもなりかねない。
また、製造法に関係なく、どのタイプのワクチンも、効果がどの程度持続するのかは不明だ。麻疹(はしか)やおたふくかぜなどの原因となるウイルスへの感染と異なり、通常の風邪を引き起こすコロナウイルスは、感染してできた抗体が短期間で減少するため、何度も感染する。新型コロナウイルスの抗体の持続期間についてはまだわからないが、通常の風邪と同じコロナウイルスの仲間なので、抗体が持続しない可能性がある。そうすると、有効なワクチンでも、年1回程度、接種を続けないと効果が持続しない可能性がある。ワクチン開発に詳しい東京大学医科学研究所の石井健教授は訴える。
「ワクチンによって救える命があるので接種は重要だが、課題も多い。ワクチンがすべてを救う、という誤解を持たずに、ワクチン登場後も、3密を避けるといった基本的な感染を防ぐ行動を、当面続けてほしい」
(科学ジャーナリスト・大岩ゆり)
※AERA 2020年11月23日号より抜粋
【「90%以上の有効性」ファイザーワクチンの課題 大規模接種に専門家が「急がば回れ」と言う理由】
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