ウォーキングをする人は、大きく「朝派」と「夕方派」に分かれる。仕事のモチベーションのアップ、 体内時計リセット、ダイエット。その効果を最大限に受けとるための時間帯とは──。AERA 2020年10月12日号が迫る。
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新型コロナウイルスの感染拡大による自粛により、運動不足に悩んでいる人は多い。感染拡大が少し落ち着き、気持ちがいい季節になった今こそ始めたいのが、ウォーキングだ。
アエラが9月に行った「歩くこと」に関するウェブアンケートには、110人が回答。通勤や通学、買い物以外に歩くための時間を取っている人は、「ほぼ毎日」39.1%、「週に1度以上」24.5%、「不定期」23.6%。9割近い人が、意識して歩く時間を持っていることがわかった。
ウォーキングは体力面だけでなく、精神面にも多くのメリットがあることがわかっている。実際、アンケートでも散歩やウォーキングで得られる効果について、「心が整う」(45歳・男性・出版社勤務)、「頭がすっきりする」(21歳・女性・学生)、「リラックスできる」(60歳・女性・アルバイト)などを挙げる人が多かった。
■睡眠の質も向上する
そこで問題になるのが「いつ歩くか」。歩く時間帯を聞いてみたところ、朝派35人、夕方派35人。昼間や夜と回答した人もいたものの、大多数が朝か夕方に歩いている、という結果になった(複数回答)。
「朝が弱い人や気持ちが疲れている人ほど、ぜひ朝散歩をしてみてください」
そうすすめるのは、精神科医の樺沢紫苑(しおん)さんだ。
「うつ病をはじめとするメンタル疾患を抱える患者さんの中には、昼頃まで寝ている人が多くいます。そこで、10年くらい前から朝散歩をすすめるようにしたところ、よくなったという報告がたくさん届きました」(樺沢さん)
樺沢さんによると、精神の安定や安心感をもたらす脳内物質であり、「幸せホルモン」と呼ばれるセロトニンの分泌が少なくなることでうつは起きる。セロトニンは朝日を浴びることや、リズム運動で活性化する。朝の散歩にはこの二つの要素が含まれているというわけだ。
セロトニンの分泌が活発になると、清々しい気分になり、やる気がわき、仕事のパフォーマンスも上がる。
ポイントは起床後1時間以内に15~30分程度歩くこと。太陽の光と運動には体内時計をリセットする効果がある。起床から時間が経ってしまうと、遅い時間に体内時計がリセットされてしまう。とくに自宅勤務などで通勤の必要のない人は、朝散歩の時間を作り、体内時計をリセットしたい。大切なのは「起床からの時間」なので、無理に早起きする必要はない。10時に起きたら11時までに歩けば大丈夫だが、できれば午前には歩きたい。また、日中にセロトニンを増やすと、その後に睡眠ホルモンのメラトニンが作られるので、睡眠の質を上げることができる。
健康な人であれば15分くらいでセロトニンが分泌されるというが、疲れがたまっている人、精神的に弱っている人はセロトニンの分泌が少なくなっている可能性がある。少し長めの30分くらい歩くといいという。
太陽の光を浴びたほうがいいので、紫外線対策をしすぎないこと。長袖やサングラスなどで全身を覆うよりも、顔に日焼け止めを塗るくらいにとどめたほうがいい。「イチ、ニ、イチ、ニ」とリズムを刻む。速歩きならさらに効果的。深く呼吸をして、空や木々を見て、季節の移ろいを感じながら歩く。
「朝散歩は、メンタルにおける最強の健康法といえます」(同)
■ダイエットも朝が有利
そんな樺沢さんも、もともとは夜型人間だったという。
「朝はギリギリまで寝て、遅刻寸前。午前中にぼーっとしていることが多かったですね。朝型に切り替えてから、私の人生が変わりました。今は朝から午後2時くらいまでに仕事の8割が終わるようになり、仕事の量も質も3倍くらいに上がりました。最初は週1回、5分から始めてみてください。河原を歩いていて、あー気持ちいいと思う。それこそが一番の効果ですね」
では、夕方や夜のウォーキングには、あまり意味はないのだろうか。
「セロトニンの活性効果は得られません。ただし、週2、3回の軽い運動でも、認知症のリスクをかなり減らすという研究があり、運動不足予防など一般的な健康効果は得られます。朝が一番おすすめですが、しないよりしたほうがいいのは確かです」(同)
セロトニンの分泌や体内時計リセットでは、朝ウォークに軍配が上がるようだ。では、ダイエットではどうか。体内時計の専門家である早稲田大学准教授の田原優さんに聞いてみた。
「以前は脂肪燃焼では夕方が有利とされていましたが、最近は朝のほうがダイエット効果が高いとされています」(田原さん)
朝食と夕食後、それぞれランニングマシンで走ってもらい、その時の血液中の指標をみたところ、夕方のほうが脂肪燃焼効果が出たという研究がある。アスリートのベストレコードが夕方に多いことも、夕方のダイエット効果を後押しした。だがここ数年で、長期に及ぶ研究が発表された。
「午前と午後に運動した人の10カ月後を比較した米国の研究では、午前に運動した人のほうが体重や腹囲の減少が大きいという結果が出ました。長期のダイエットでは朝ウォークが有利といえます」
■夜は軽めにしておく
田原さんは体内時計のリセットという観点からも、朝ウォークをすすめる。
「朝の運動は体内時計をリセットしてくれますが、夜の運動は体内時計を遅らせてしまいます。とくに20時以降の激しい運動は、避けたほうがいいですね。ちなみに、昼の運動は体内時計にはあまり影響を及ぼしません」
体内時計が乱れると、規則正しい生活ができず、風邪をひきやすくなったり、生活習慣病のリスクが上がったりするという。ただし、軽い運動なら夜ウォークの効果も期待できる。
「20時以降の激しい運動はよくないと言いましたが、寝る2時間ほど前の軽いウォーキングには寝つきをよくする効果が期待できます。リラックス効果が増し、副交感神経が優位になり、運動後の深部体温低下をもたらし、眠りやすくなります」
朝は体を目覚めさせるしっかりめ、夜はリラックスするための軽めのウォーキングがおすすめだという。ただし、起きてすぐの朝ごはん前は体が十分に目覚めていない。ある程度体がほぐれるまで無理をしないこと。水分不足にならないように、十分な水分補給をしてから始めよう。(ライター・井上有紀子)
※AERA 2020年10月12日号より抜粋
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