cat_1_issue_oa-aera oa-aera_0_q7p76g0vv9ap_菅首相「私はリストを見ていない」は“致命的な失言” 奇妙な会見を生んだ官房長官時代の「失敗」とは q7p76g0vv9ap q7p76g0vv9ap 菅首相「私はリストを見ていない」は“致命的な失言” 奇妙な会見を生んだ官房長官時代の「失敗」とは oa-aera 0

菅首相「私はリストを見ていない」は“致命的な失言” 奇妙な会見を生んだ官房長官時代の「失敗」とは

2020年10月21日 18:30 AERA/写真・朝日新聞社

 菅首相の学術会議任命拒否問題が大きな波紋を呼んでいる。首相がリストを「見ていない」という発言も飛び出し収束はつきそうにない。AERA 2020年10月26日号で掲載された記事を紹介。

【有働アナに対してムキになって…「菅首相」の“野心”が見えた瞬間 池上彰と佐藤優が語る】

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 日本学術会議が推薦した候補者105人のうち、新会員候補6人が任命されなかった問題が政権の足元を揺るがしている。発足直後は70%超あった支持率は、わずか数日で50%台まで急降下。菅義偉首相は、自民党の主要5派閥を後ろ盾に鳴り物入りで総理の座を射止めたが、今日まで単独会見も所信表明演説もせず、戦でいえば初陣すら果たせていない。26日からいよいよ始まる臨時国会を前に、準備段階で墓穴を掘った格好だ。

■「パンケーキ懇」に批判

「私はリストを見ていない」

 その発言が飛び出したのは、10月9日、朝日新聞など3社による菅首相へのグループインタビューの終盤だった。内閣記者会加盟の常勤19社に所属する総理番記者と一部のフリーランス記者が参加する公式の総理会見ではない。一部のメディア(朝日新聞、毎日新聞、時事通信)の代表記者がグループとなり、与えられた時間の中で菅首相に質問した。室内では、選ばれなかった記者がそのやりとりに聞き耳を立てる。これまで目にしたことがない奇妙で不可解な儀式だった。

 なぜ、このような場が準備されたのか。この6日前、菅首相は東京都内のパンケーキ店で、完全オフレコの記者懇談会を開催した。参加したのは内閣記者会に所属する19社のうち朝日新聞、東京新聞、京都新聞を除く16社。しかし、この非公式の会合が「パンケーキ懇」と揶揄され、有権者から「政権とメディアの癒着だ」「オフレコでない場で説明を」と批判が相次いだ。官邸は、この批判をかわす目的で、朝日新聞など3社にグループインタビューという場を準備し、情報公開に積極的な姿勢を見せるはずだった。

 政府関係者の一人は、官房長官という立場で記者と連日、対峙してきた菅首相とその周辺は、ある記者会見の対応の失敗が安倍政権の瓦解のきっかけになったと分析しているという。

 その会見とは、今年2月29日。新型コロナウイルスの感染拡大への対応のため、安倍晋三首相(当時)が自ら全国の小中学校などに一斉休校を呼びかけた通常の総理会見だった。

 その日、いつものように一方的に会見を終えて降壇する安倍首相に、会場の記者から「まだ質問があります」と声が上がり、これをきっかけに、事実上、官邸が差配していた首相記者会見が、差配不可能になってしまう。その後、コロナ対策を理由に、会見に出席できる記者の数を制限するなど、官邸は徹底して首相と記者との一対多数での会見を拒み続けている。この政府関係者はこう続ける。

「そもそも、内閣総理大臣になる野心はなかったと公言している菅首相は、歴代総理のように時に権力の凄みをむき出しにして記者を論破し、ある時は言葉巧みにけむに巻くという術を持ち合わせていない。あるのは官房長官として、総理への批判をかわし守る側の経験。自らが最終責任者として矢面に立ち、有権者を納得させる言葉を持ち合わせていないと自覚し、周囲にもそう漏らしているんです」

 グループインタビューという形式は、菅首相の本音を忖度した官邸の奇策だった。だがその中で飛び出した「私はリストを見ていない」は致命的な失言だったと、ある自民党幹部は言う。

「一国の首相の言葉としてはあまりにも不用意すぎる。首相が見ていないのであれば、誰がそれをリストから削除したのか。その理由を必ず文書で上げるので、その文書を出せと野党は追及するに決まっている。26日から始まる予算委員会を前に格好の攻撃のネタを与えてしまった」

 火に油を注いだのは、菅首相を守る防波堤の立場にある加藤勝信官房長官だった。

 定例記者会見で「決裁文書に(105人の)名簿を参考資料で添付していた。その資料を詳しくは見ていないということを指しているのだろう」と、安倍政権時代から質問の回答に窮した時の常套手段でもある「ご飯論法」を使ってごまかしたのだ。この対応には、自民党内からも苦言が相次ぐ。稲田朋美・元防衛大臣は「こういう判断基準で任命しなかったという説明は必要だ」と記者会見で発言した。(編集部・中原一歩)

※AERA 2020年10月26日号より抜粋

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「生きづらさを知ってほしい」 いまを生きるトランスジェンダーのドキュメンタリーが伝えるもの

2020年10月21日 18:30 AERA/写真・浅沼智也

 現代日本に生きるトランスジェンダーに光をあてたドキュメンタリー映画「I Am Here ─私たちはともに生きている─」が公開中だ。自身も当事者である浅沼智也さんが監督した。AERA 2020年10月26日号から。

【学校、仕事、結婚相手も「毒親」が望む選択 「何一つ、自分で選んでいない」男性の末路】

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「どんだけ戸籍を男にしても、自分は元女だって言い続けて処置を受けるだろうなと思ったから、戸籍を変えるのをやめました」と話す人もいれば、「(性別適合手術を受けて)やっと女性の体に戻れたということが、本当にうれしかった」と語る人がいる。映画「I Am Here ─私たちはともに生きている─」に登場する人たちの言葉だ。この映画は、20代から70代まで、17人の性同一性障害(GID)やトランスジェンダーの人たちが、それぞれの過去や悩み、希望を語ることで、当事者たちの抱える問題を浮き彫りにしようと試みたドキュメンタリー作品だ。

■ハードル高い戸籍変更

 この映画を監督し、出演もしているのが、トランスジェンダーの浅沼智也さん(31)。女性として生まれたが、23歳で性別適合手術を受け、戸籍を男性に変えた。


「昔に比べると、今の日本は僕たちが少しだけ生きやすい社会になったと思います。しかし、全ての当事者が胸を張って幸せに生きられる状態とは言い難い。差別や偏見は続いているし、いないものとされることもあるからです。映像を通して、日本のトランスジェンダーの状況を、世界を含むあらゆる人に知ってもらいたいと思ったのが、映画を作るきっかけの一つです」

 浅沼さんは、年代もバラバラで、職業も会社員から、水商売、研究者と、さまざまな境遇で生きる当事者をインタビューしていくことに決めた。実は映画を作ったことも勉強したこともない。友人の力を借りて、昨年7月から撮影、8カ月で完成させた。

 映画では、2004年に施行された戸籍上の性別を変更できるGIDの特例法にも触れる。20歳以上であること、未成年の子どもがいないこと、性別適合手術を受けていることなど、五つの要件を満たした人が戸籍性を変えることができる。待望の特例法だったが、変更するためのハードルは高い。

「戸籍を変えて幸せになった人もたくさんいます。でも、戸籍変更のための法律は心身ともに負担が大きいと思っています。性別適合手術の場合、体への負担が大きく、アフターケアも大変。僕自身、生殖器を取ったことで、子孫を残せないし、更年期障害の症状もある。戸籍変更後も、ホルモン療法を継続するために資金が必要です。若い人が戸籍変更する事も多いですが、変更後の人生の方が長いんですよね」

 浅沼さんは手術をしたことに後悔の気持ちがあるからこそ、次世代の当事者たちには、同じ思いをさせたくないと願う。映画の出演者からも、「自分と同じような境遇にある人を助けたい」という思いを感じたという。

■一緒に協力してほしい

 トランスジェンダーは日常的に傷つけられることが多い。たとえば、書類の性別欄。見た目と戸籍の性別が一致しない場合、どちらに〇をしても、トランスであることを強制的に告白しなくてはならないことがある。見た目で差別や偏見を受けることもあるし、ネット上ではトランスヘイトが広がっている。差別や偏見を受け、孤独感が増し、自ら死を選ぶ人も少なくない。

「この映画を通して、当事者の人には、他にもがんばっている人がいるから、自分らしく胸を張って生きてほしいとエールを送りたい。同時に、当事者でない人にも、僕たちが何に困っているのか、日本の法制度を含めどんな問題があるのかを知ってほしい。そして、一緒に変えていくために協力をしてほしいんです」

(編集部・大川恵実)

※AERA 2020年10月26日号

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cat_1_issue_oa-aera oa-aera_0_edc6q5wvybbp_「収入も、家族との時間も増えた」 都市で働く会社員が「地方企業で副業」のメリット edc6q5wvybbp edc6q5wvybbp 「収入も、家族との時間も増えた」 都市で働く会社員が「地方企業で副業」のメリット oa-aera 0

「収入も、家族との時間も増えた」 都市で働く会社員が「地方企業で副業」のメリット

 先が見えない新型コロナの影響で、働き方を見直す機会が増えた。それは副業もしかり。テレワークが「時間」と「距離」を取り払い、副業が「地方」と「都市部」を結んだ。AERA 2020年10月19日号から。

【非正規雇用者がコロナ禍で「116万人減」…失業者は一体どこに消えた?】

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 朝8時。携帯キャリア会社社員の鈴木健一郎さん(41)は、自宅でパソコンに向かう。2月からテレワークが基本となり、2時間始業を早めた。夕方4時半には仕事を終え、小3の娘の習い事の送迎や買い物へ。以前は帰宅する時間には寝ていた娘と一緒に過ごす時間が増え、娘も嬉しそうだ。

 家族での団らんを楽しんだあと、9時から11時までが副業タイム。本業のウェブマーケティングのスキルを生かし、複数の地方企業のサイト改善などを手伝う。副業は1日1、2時間、月10日程度だ。

「収入も、家族との時間も増えた。この生活が気に入っています」(鈴木さん)

■閉じた世界での仕事

 都市で働くビジネスパーソンが地方企業で副業する──。コロナ禍を機に、そんな働き方が注目されている。

 地方企業に特化した副業・兼業人材紹介を手がけるJOINS(ジョインズ)では9月末時点で、登録する個人が1月の約3倍の3527人、受け入れを希望する地方企業が約6倍の243社に急増した。同社の猪尾愛隆(よしたか)社長は「とりわけ地方企業側の意識変化が大きい」と話す。

「これまでは、テレワークで働くと言われてもピンとこない企業が大半でした。ところがコロナ禍で(ビデオ会議ツールの)Zoomなどへの抵抗感が一気に薄れ、離れていても仕事は可能だというのが肌感覚で理解されるようになりました」

 ジョインズ経由のマッチングには大きく二つのパターンがある。

(1)大手IT系企業で働く30~40代前半の人材が地方の製造・サービス業のネット通販関連の業務を支援するパターン。

(2)大手製造業の40~50代の人材が、地方の製造業のITツール導入などを手伝うパターン。

 鈴木さんが副業に興味を持ったのは「本業でやりとりするのは都内の会社ばかり。このまま閉じた世界で仕事を続けていていいのか」と感じたのがきっかけだ。移住にも心は引かれたが、妻の仕事や娘の転校を考えるとハードルが高い。その点、副業は気軽にチャレンジできた。


■自分のスキルに「自信」

 鈴木さんの副業先の一つ、長野県の不動産会社レントライフは従業員約70人の中小企業だ。同社では昨年10月頃から自社サイトが検索エンジンで上位に表示されないという問題が生じた。集客を大きく左右するだけに改善は必須だったがそれには「SEO対策」と呼ばれる特殊なスキルが必要だ。同社の経営戦略本部の矢崎大城(やさきたいき)部長は、専門の人材を探そうと地元のハローワークや求人サイトでも募集したが、反応はなかったという。

「地方でそうした専門人材を探すのは至難の業です。悩んでいたところメインバンクの紹介でジョインズを知りました。鈴木さんは東京の最前線で活躍しているウェブマーケティングのプロ。まさに求めていた人材でした」(矢崎さん)

 両者は業務委託契約を締結。時給は5千円とした。地方では破格の金額だが、矢崎さんは、「今月は何時間、こういうことをしてほしいというピンポイントで仕事を頼めるのでメリットが大きい」と満足げだ。もちろん社員で雇うよりはるかに低コストだ。

 鈴木さんは広島や山口の企業でも副業を行い、月に10万円前後を稼ぐ。副業を通じて各地と関係を広げ、将来は多拠点生活をするのもありだと考える。

「学校もオンラインで学ぶ環境が整えば、娘も連れていきたいです」(鈴木さん)

 次に紹介するのは、前出のパターンの二つ目だ。

 9月半ばの週末、ある大手メーカーが360人の社員を対象にオンライン研修を開いた。タイトルは「50を過ぎたらダブルキャリアは当たり前」。登壇したのは50代後半のOBだ。社員だった昨年10月から半年間、終業後や週末の時間を使って地方の精密部品会社で業務効率化支援の副業をした経験を語った。

「自分のスキルはまだ売れる」

 副業をきっかけに自信が生まれ、今年5月に早期退職。他社に転職したという。

 大企業ではバブル時期の前後に大量採用した人材の層が厚く、50代でも管理職になれない、あるいは部下なし管理職にならざるを得ない社員も少なくない。企業にとっても彼らの処遇やキャリア支援は大きな課題だ。だが前出のジョインズ・猪尾社長は、「大企業で光が当たっていない人材こそ地方の中小企業で輝ける」と話す。

「指示を出すことに慣れた部長やMBA(経営学修士)ホルダーは地方企業には不要です。求められているのは自分の頭と手を動かし地道にPDCA(計画・実行・評価・改善)を回せる人。そこで力を発揮し、副業先に役員として迎えられるケースもあります」(猪尾さん)

 都市部の人材と地方企業のマッチングサイトは複数あるが、人材大手のパソナグループが手がけるJOB HUB・LOCAL(ジョブハブ・ローカル)は「地域限定・集団お見合い型」だ。岩手県や広島県など複数の地方自治体と連携。その地域に興味を持つビジネスパーソンを集めて現地に赴き、企業の経営者らと交流する。人材側は意中の企業に、自身が考えた課題解決策を提案。マッチングが成立すれば副業開始という流れだ。

 離れた場所で互いを思い合う遠距離恋愛に引っ掛けて岩手県はこの事業を「遠恋複業」と名付けた。そこで出会ったのが、首都圏での販路拡大を狙う老舗餅店「大林製菓」の大林学社長(45)とNTTデータ社員の増田洋紀(ひろのり)さん(41)だ。

 本業では官公庁向けに業務システムを販売してきた増田さんが、大林製菓の副業では餅を売り込む。増田さんは、群馬県の限界集落で育ったこともあって、地方の活性化に貢献したいという思いを持っていた。そして2016年、NTTデータ社内で岩手県宮古市の復興プロジェクトに手をあげる。以来、もっと「個」として地域に関わりたいと様々な勉強会に顔を出すようになった。


■人と人とがつながる場

 もう一つ、社内の変化も増田さんの背中を押した。

「新規事業の芽を見つけるためには、一人ひとりが自立した個人として既存の顧客以外の人や組織と積極的に交わっていこうと。そういうことが盛んに言われるようになった。自分としては副業がその突破口になると思いました」

 本業と副業とで売る商材は違うが、増田さんが得意とするのは人と人がつながる場作りとそこから共感を広げていく手法だ。

 そのノウハウを生かして、7月には都内で、餅を使った創作レシピのワークショップを開催した。岩手からリモートで参加した大林さんも「商品を一回売って終わりではなく、関係が続いていくのが理想」と増田さんの手法に期待を寄せる。

 パソナJOB HUB事業開発部長の加藤遼さんによると、コロナ禍の中、オンラインで開いた説明会には、例年の3倍近い申し込みがあった。これまで東京での説明会に集まるのは近郊のビジネスパーソンが大半だったが、オンライン説明会には全国、さらに海外からも参加があった。

「大企業側も副業に対して、コロナ以前は『容認』だったのが、最近は『社員の自律的なキャリア開発の支援』という観点で『推進』へと考え方が変わってきた」と加藤さん。大企業、地方企業、働く個人。それぞれの意識変化が、地方副業の追い風となっている。

(編集部・石臥薫子)

※AERA 2020年10月19日号

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ひきこもりの「黒歴史」が役に立つ 自己肯定感につながる「雑誌」「文学賞」の投稿

2020年10月19日 18:00 AERA/撮影・高橋有紀

 ひきこもりを体験したからこそ伝えられることがある。伝えることは、自分の思いを整理し、自己肯定することにもつながる。経験を前向きに生かす動きが広がる。AERA 2020年10月19日号から。

【学校、仕事、結婚相手も「毒親」が望む選択 「何一つ、自分で選んでいない」男性の末路】

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 ぱっと見は何やらおしゃれなカフェに置いてありそうなアート系の冊子に見える。ひきこもり当事者や経験者が発信する雑誌「HIKIPOS(ひきポス)」は2017年12月に創刊した。

 編集長を務めるのは石崎森人さん(37)。自身もひきこもりの経験を持つ。

 読者は当事者が3割、親が6、7割、支援者が1割。主な編集作業に携わるのは石崎さんを含めたコアメンバー4人。他に30人ほどの書き手がいて、その号のテーマによって書きたい人が書いたり、座談会に出席して意見を交わしたりする。参加者には30代の元当事者が多いという。

 当事者の気持ちは当事者にしか表せない。その思いが創刊につながったと石崎さんは話す。

「ひきこもりや生きづらさの問題は、経験していないと言葉にするのは難しいところがあります。健康的な人と悩んでしまう人では、言葉の次元がすでにかなりずれている。だからメディアで報じられるひきこもり像はしっくりこないっていうのが多くの当事者の感覚。当事者自らの言葉で、それが一体どういう経験なのかを書く。当事者が発信することでしか、当事者の気持ちは表すことができないんじゃないかと感じています」

 だからこそ編集過程でも一人ひとりの言葉を大事にする。

「一般的に編集作業では赤字を入れて文章を直したり単語を変えたりしますよね。僕らは基本的には本人の言葉自体は変えません。『ここはこっちのほうがいいんじゃないですか?』と問いかけることはありますが、あくまで書き手に判断を委ねる。ほんのわずかな表現の仕方を変えるだけでも伝えたいことが変わってしまうことがあるからです」

■黒歴史が世の役に立つ

 そもそも「ひきこもり」という言葉自体が当事者目線ではない、と石崎さんは疑問を感じている。

「ひきこもりという言葉は、親の目線です。家にひきこもりの子がいて困っているという視点。当事者からしてみれば、抱えているのはもっと複雑な、個別性の高い問題なんです」

 発信する作業は、書き手たちに好影響を及ぼす。

「自分のままならなさみたいなものを書くことで、自分自身について整理ができます。さらに原稿料も支払われる。自分が書いたものを、お金を出してまで買いたいという人がいるという事実は、すごく自己肯定感につながります。自分の負の歴史、黒歴史だと感じていたものが世の中の役に立つわけですから」

 来年2月に発行予定の次号のテーマは「お金」だ。当事者の生きづらさや、実際リアルに感じていることに寄り添いたい、と石崎さんは意気込む。

 当事者発信の形として、「引きこもり文学大賞」なる賞も生まれている。精神科医の東徹さん(41)が19年に創設した。普段の診療だけでなく、役所の精神科関連の相談業務などでも、ひきこもり当事者や家族と接する機会があるという東さん。昨今「ひきこもり問題」に関する報道が増える中で、違和感を抱いていたという。

「ひきこもりは悪いこと、なんとか社会に出さなければいけない、という観念が非常に強いように感じました。ひきこもりの人に対する風当たりが大きくなればなるほど、当事者はよりプレッシャーを感じ、ストレスを抱え、自己肯定感を持てなくなり、結局、ひきこもりのまま苦しみ続けます」

【コロナで深刻化する「8050問題」 生活困窮の相談40倍…親も失職「もう支えられません」】

■とりあえず書き始めた

 自身も1年間のひきこもり経験を持つからこそ、なんとかそうした価値観を逆転することができないものかと考えを巡らせた。そして思いついたのが引きこもり文学大賞だった。

 クラウドファンディングで資金を募り、賞金に。支援した人は、大賞を決める投票に参加できる仕組みにした。第1回は80通以上もの応募があった。

 今年、「糸色、ふたりのこころ」と題した作品で入賞を果たしたペンネームまやさん(20代女性)は、うつ病を発症して部屋から動けなくなった経験を持つ。元々は本が好きだったのに、読むことも書くこともつらくなったという。薬を飲み続けて回復しつつあったときに、母親が新聞を見て「引きこもり文学賞があるよ」と教えてくれた。

「誰に迷惑をかけるでもないし、できてもできなくても、やってもやらなくてもいい。やってみてできなくてもいいんだと思うようになり、とりあえず書き始めてみました」(まやさん)

 作品のテーマは「心の棲(す)むところ」。心は言葉に棲んでいて、言葉は心を宿している。長年思っていたことを作品に落とし込み、修正と試行錯誤を重ねて3週間ほどかけて書き上げた。受賞したことで、人に読んでもらえる作品が書けたという自信に繋がったという。

「嬉しいことに感想もいくつかいただけたので、ちゃんと読んでもらえて、(読んだ人が)少しでも頭をめぐらせてくれているんだと思うとたまらない気持ちになりました」(同)

「ワガハイハネコデアル」という作品で短編部門の大賞を受賞したペンネームむに子さん(20代女性)は、学生の頃から学校を休みがちだった。大学を中退してアルバイトをしていたが、コロナの影響で、またひきこもり生活に戻っていた期間に、引きこもり文学大賞に出合った。

【「毒母」の過干渉で何もできない人間に 歪められた人生への怒りで自分の腕を噛む30代男性】

■弱さを叩き出す戦い

「(執筆の経験を通じて)人生に起きるすべてのできごとに意味を持たせることができると思いました。ひきこもりという、社会的にはネガティブなことでも、作品の中ではその経験を材料として生かすことができた」

 とむに子さん。他にも入賞者たちには変化があった。

「寝る間も惜しんで書き続けるも納得いかず一から書き直すことも。自分自身の諦めと怠惰や弱さを叩き出す戦いでしたが自身の限界突破をすることができ、大きな成長に繋がりました」(ペンネーム西園寺光彩さん)

「雑文はたまに書いていましたが、受賞以降は『自分を受け入れてくれるところがあった』と思って、少しだけ安心しました」(ペンネーム蘭さん)

 ひきこもりを否定せず肯定的に捉える考え方を広めること。それが何よりこの問題に対する備えになる、と東さんは感じている。(編集部・高橋有紀)

※AERA 2020年10月19日号

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誰とも話さずどこにも触れない回転寿司店がついに実現 コロナ禍が進めた技術革新

2020年10月19日 18:00 AERA/写真・筆者提供

 新型コロナウイルスの感染拡大によって、新しい日常への対応が求められています。マスクの着用や頻繁な検温など、日々の生活の中でもいろんなことがこれまでとは大きく変わってきていますよね。

【台湾の寿司ネタランキングで圧倒的人気の魚とは? 日本の3位は不人気で販売中止に】

 在宅勤務やリモートワークが多くの企業で導入され、4月からの半年以上、ほとんどオフィスに出社していないという方も多いのではないでしょうか。それでも特に問題もなく仕事が回るということがわかり、逆に、毎朝オフィスに全社員が集まることの必要性を改めて考える企業も増えてきているようです。

 こうした中、飲食店のあり方も大きく変わってきています。

 テイクアウトニーズの高まりに呼応して、テイクアウトメニューの充実をはかったり、新たにテイクアウトを始めたりするお店もたくさん出てきました。また街中でデリバリーのバイクや自転車を頻繁に見かけるようになりました。

 私が広報担当を務めるくら寿司でも、テイクアウトの「おうちでくら寿司セット」や「大サービスセット」などが好評で、5月にはお持ち帰りの売上高が、去年に比べて3倍以上にまで拡大。現在も約2倍の水準を保っています。

 これは、今回のコロナ禍をきっかけにお持ち帰りを利用していただいたお客様が、「お持ち帰りって結構便利かも」と感じていただき、その後も定期的に利用していただくようになったことが主な要因のようです。

 店内での飲食についても、少しずつお客様が戻ってきていただいていますが、店内の徹底した消毒や入店時の手指の消毒はもちろん、お客様同士の距離を取るために座席数を減らしたり、座席間に仕切りをしたりすることなどが求められています。

 お客様も、感染対策がしっかりしているお店を選ぶ傾向が強くなっていますので、店側も感染防止にさまざまな工夫をしながら取り組んでいます。

 店側としては、こうしたお客様の感染防止はもちろん最重要事項ですが、一方で従業員の店内での感染防止にも気を配らなければなりません。

 こうした中、くら寿司では今回、非常に斬新な店舗システムを開発しました。それは、入店から退店まで、まったく店員と接触する必要がないお店です。

【寿司ネタのカロリー、タコはトロの5分の1! アジとイワシ、甘エビとサーモン、高いのは?】

 皆さんご存じの通り、飲食店の中で、当社をはじめとする大手の回転寿司チェーンは、お寿司が乗って回るレーンと、注文用のタッチパネル、注文品を届ける専用レーンを備えており、注文の際にも料理を届ける際にも、店員との接触が必要ない業態です。

 それに加えてくら寿司では入店時、店員と会話することなく「自動受付機」でお席まで自動的にご案内します。

 またお会計時にも、店員がお皿の枚数を確認にお席まで行く必要がなく、お会計金額がタッチパネルに表示されます。

 これは「ビッくらポン」にも使用するお皿の枚数のカウント装置と、レーン上に設置したAI機能搭載のカメラシステムによるダブルチェックで実現しています。サイドメニューについては、注文時に自動的にカウントされているんです。

 精算は、席番号が書かれた紙を持ってレジに行き、その紙を指定の場所に置くと支払金額が提示され、現金やカードで支払いができるセルフレジがあり、ここでも店員との接点はありません。

【年間100杯食べる強者も! 横浜家系ラーメン総本山「吉村家」の直系店以上に直系の味 店主のこだわり】

 そして今回、さらに進化した感染防止機能を備えたシステムを導入しました。自動受付機や自動席案内機、そしてセルフレジを操作する際には、画面にタッチする必要があったのですが、新しいシステムでは画面に指を近づけるだけで、センサーが指の動きを感知して、画面に触れなくても操作できるようにしたのです。

 4月以降、エレベーターのボタンや電車のつり革など、不特定多数の人が触る場所には触りたくないという方が非常に増えているように思います。電車の中ではつり革につかまっている人が減りましたし、エレベーターのボタンも、スマホなどで押している方をよく見かけます。新システムはそうした方々に配慮したものです。

 「じゃあ座席のタッチパネルは?」と思われた方、ご安心ください。座席に着かれた時に、タッチパネルに表示されているQRコードをスマホのカメラで撮影することで、タッチパネルの代わりに、お客様のスマホで注文ができるようになっています。

 残念ながら、現在はお会計の操作をする際に、2回だけタッチパネルにタッチする必要があるんですが、来年の春までには、すべての操作をタッチレスでできるように改修します。

 そしてこのシステムを、今回池袋のお店と大阪・なんばのお店に先行導入、今年11月以降にオープンすお店では標準装備となります。第1号店は、11月17日に東京の東村山市にオープンするお店です。

 さらに既存のお店でも、2021年12月末までには、国内の全店舗に設置します。

 このように書くと、「こうやって従業員を減らしていって、将来的には無人の店舗を目指しているの?」とか「すべて機械任せで無機質な温かみのない店になっていくのでは」と思われるかもしれませんが、決してそうではありません。

 機械にできることは機械に任せて、従業員は接客が必要なお客様への接客に注力することで、お客様がより楽しく快適にお食事を楽しんでいただけるお店を目指していきます。

 また、レジや受付に従業員が常駐する必要がなくなり、その分素早くテーブルの片付けができ、お待ちのお客様をより早くお席に案内できるようになります。

 くら寿司では、お客様により快適で楽しいお食事時間を過ごしていただけるよう、今後もより美味しいメニューの開発はもちろんですが、より快適な空間づくり、サービスの提供にも取り組んでまいります。

○岡本浩之(おかもと・ひろゆき)
1962年岡山県倉敷市生まれ。大阪大学文学部卒業後、電機メーカー、食品メーカーの広報部長などを経て、2018年12月から「くら寿司株式会社」広報担当、2019年11月から、執行役員 広報宣伝IR本部 本部長

※AERAオンライン限定記事

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夫婦ゲンカが減る会話の「基本3カ条」! 夫、妻それぞれの「トリセツ」とは

2020年10月19日 18:00 AERA/写真・iStock

 出産前までは仲の良かった夫婦が、「子育て」をきっかけに互いの価値観がぶつかり、すれ違ってしまうのはよくあること。子どもが成長するにつれて、「子育ての方針」を夫婦で話し合おうと思っても、うまくいかないこともあります。そこで、「AERA with Kids 秋号」(朝日新聞出版)では、感性アナリストで男女の脳に詳しい黒川伊保子さんに取材。夫婦がコミュニケーションをとるうえでの心がまえやコツをうかがいました。

【コロナ離婚の意外な原因 「子育ての軸」を持たない夫婦は弱い】

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 黒川さんは家庭内の会話に必要なのは、正しさよりも思いやり、つまり「心の対話とちょっとしたコツ」だといいます。

「夫婦で脳の使い方が違うと、議論が成り立たず、お互いを認め合うことはなかなか難しい。そこで日ごろの接し方や会話のテクニックがコミュニケーションをとるうえで大切になってきます」

 日頃からどのようなことに気をつければいいのでしょうか? 夫婦のコミュニケーション基本3カ条を以下にまとめました。

1 「ほめる、気遣う・ねぎらう、感謝する」を大切に

夫婦でも相手を人として尊重するのは最低限のマナー。「その髪形いいね」(変化に気づきほめる)、「疲れたでしょう?」「残業大変だったね」(気遣う・ねぎらう)、「ゴミ捨てありがとう」(感謝する)など、この3点に注意した言葉がけをするだけで、家の中の雰囲気は驚くほど良くなります。

2 意見が合わないときも相手のデメリットを攻撃しない

夫婦で意見が異なるときは、相手のデメリットを突くことで自分の「正しさ」を訴えがち。相手の心に響かせるためには自分の意見のメリットを訴えること。たとえばお受験に反対する場合、デメリットとなる経済問題を持ち出すのではなく、「公立なら近所で遊べる友達ができる」といったメリットを訴えます。

3 欠点を補う関係と心得ておく

夫婦は二つの軸があるからいいのであって、一方が完璧である必要はありません。いい妻、いい夫であり続けようとするよりも、欠点や短所を見せ合って補ってもらうくらいのほうがいいのです。一人で頑張りすぎて時々爆発してしまうくらいなら、相手を頼る努力をするほうが長い関係においては大切です。

【夫婦の「わかり合えない」は当たり前!? 男女脳の違いを知ることで歩み寄りを】

 続いて、実際にコミュニケーションをとる際に役立つトリセツを紹介します。

<妻から夫へのトリセツ>


◎夫の視界に入ってから話しかけ、2~3秒後に本題へ

リビングのソファで、次なる危機に備えて休息中の夫の脳は、完全オフ状態。突然話しかけられても聞こえていないことがほとんど。まずは夫の視界に入ってから名前を呼び、夫の認識機能をオンにしてから、話し始めるといいでしょう。

◎「3点笑顔」主義でいつも笑顔の印象に

男性は「世界を定点で観測する」傾向があります。つまり、「おはよう・いってらっしゃい・おかえり」の3点だけに気をつけて笑顔でいれば、「妻はいつも笑顔」の印象になるのです。夫婦の生活リズムに合わせて、3点の内容は変更してもOK。

◎子育てや家事の担当を決めて、一つのことを任せる

こまごました家事・育児のタスクを「察してこなせる」男性はそういません。だったら「食材の在庫管理」「週末の子どもの送迎と買い出し」など、夫が得意そうな任務を厳選して、すべて相手に任せましょう。夫なりの方法で達成してくれるはず。

<夫から妻へのトリセツ>


◎日常のささいな出来事を話す

共感型脳を使う妻にとって、おしゃべりこそ、共感欲求を満たすストレス解消法であり、情報を蓄積する大切な行為。「今日自分の身に起きたささやかなこと」を話してみましょう。

◎妻の小言は事故を防ぐため。素直に謝る

「靴下を脱ぎっぱなし、コップを出しっぱなし」などの小言。妻の脳は子どもが転ぶかも、コップが割れるかもと事故を想定し、不安をためます。爆発される前に素直に謝って。

◎「妻の味方」だとアピールする

嫁姑問題が起きたら、夫がとるべき道はただ一つ。あくまでも妻の味方でいること。子どもと妻がぶつかるときも同じ。「パパの好きな人をそんなに責めないで」などとユーモアを交えて。

【家事の不満ためこむと「取り返しがつかない結果に」? イライラしない夫婦の家事分担の秘訣とは】

(取材・文/玉居子泰子)

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「まさか、家をなくすとは…」コロナで住宅ローン払えずに競売通告 年末にさらに増える見込みも

2020年10月19日 18:00 AERA/撮影・戸嶋日菜乃

 新型コロナの影響から住宅ローンを払えなくなる人が増えている。それに伴い、任意売却や返済条件の見直しを迫られる人も多い。人間にとって大切な生活の基盤が今、揺らぎ始めている。AERA 2020年10月19日号はその実情を追った。

【家賃4万7千円のアパートに暮らす「統計王子」の自制心 衆議院議員・小川淳也<】

*  *  *
「まさか、家をなくすとは思ってもみませんでした」

 イベント関連の運送会社でドライバーをしている埼玉県の男性(48)は、言葉少なに語る。

 男性は20年ほど前に埼玉県内に2700万円のマンションを購入し、住宅ローンを組んだ。月給は約26万円で、月々の支払いは約12万円。母親と2人暮らしで余裕はなかったが、順調に返済できた。

 そこに新型コロナウイルスが直撃した。

 3月に入ると大規模イベントは軒並み中止となり、会社の業績は悪化。男性の給与は減らされ、手取りで月20万円近くにまでなった。転職したくても50歳を前にして仕事はない。今の職場で働くことにしたが、貯金はなく、4月になると住宅ローンを払えなくなった。ローン残高は1500万円近くあった。

 収入が戻らなければ自分の力ではどうにもならない。6月、借り入れた銀行から競売通告の書類が自宅に届いた。

■任意売却の相談が増加

 ついにきたか──。

 男性は少しでもいい条件でマンションを売りたいと思い、任意売却を決めた。

 任意売却とは、住宅ローンが残っている状態で金融機関の合意を得て通常の方法で売却し、その代金によって残債務を解消する方法だ。市場価格よりかなり安く落札される競売と異なり、有利な条件で売却できるメリットがある。

 先の男性は、マンションの買い手が見つかれば立ち退きとなるので、今はマンション近くで家賃の安いアパートを探しているという。男性はこうこぼす。

「家をなくさないために、仕事を頑張って働いてきたのに」

 住まいは、人間が安心して生活をする上で最も大切な基盤だ。その基盤が今、コロナによって失われようとしている。

 任意売却を専門に行う不動産会社「明誠商事」(東京都)の飛田芳幸社長によれば、「住宅ローンが払えなくなった」という深刻な相談は8月以降、急激に増えたという。

「7月ごろまでは1人10万円の特別定額給付金や貯金などで何とかしのいでいたのが、それも使い切り、夏のボーナスも出なかったのでローンが払えなくなった人が多く見られます」

 同社には、任意売却の相談だけで月30~40件あり、コロナ前より10件近く増えた。30代、40代が多く、業種はコロナ禍で大打撃を受けたエンタメや観光、飲食関係に勤める人が多い。

「コロナ禍で倒産が増え続けているので失業者はさらに増え、これから年末にかけ住宅ローンが払えなくなるという人は多くなると思います」(飛田社長)

【コロナで深刻化する「8050問題」 生活困窮の相談40倍…親も失職「もう支えられません」】

■返済条件見直しに柔軟

 住宅ローンを扱う独立行政法人「住宅金融支援機構」によると、全国のコールセンターに寄せられたコロナに起因する住宅ローンの条件変更の相談は、2月から8月までの間に計3360件。当初は高齢者や自営業者が多かったが、最近は若い会社員からの相談も増えているという。同機構では返済期間を延長して月々の返済額を減らすなどの対応を行っていて、担当者はこうアドバイスする。

「審査はありますが、コロナ禍でもあるので、多くの金融機関が返済条件の見直しに柔軟に対応しています。慌てて金利が高いカードローンなどで借りるのは避けて、住宅ローンの返済に困ったら、まず金融機関に相談してほしい」

(編集部・野村昌二)

※AERA 2020年10月19日号より抜粋

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嵐・大野智「皆さんに恩返しがしたい」 5年ぶりの作品展「FREESTYLE 2020」に込めた思い

2020年10月19日 18:00 AERA

 嵐の大野智による作品展が開催中だ。5年ぶり3度目の今回は、創作活動の集大成となる。AERA 2020年10月19日号から。

【二宮和也「アドバイスを聞くとしたら、あの4人だけ」 メンバーを信頼する理由】

*  *  *
 訪れたその日は晴天。エントランスを抜けると、ガラス窓の向こうには真っ青な空と東京の街が広がっていた。その大空間に設置されているのが、台座を入れて2メートル60センチにもなる巨大フィギュア「グリーンヘッド」。少しずつ回転しているそれは、まるで東京の中心を回っているかのようだ。

 皆さんに恩返しがしたい──。

 嵐・大野智さんのそんな思いからスタートした「FREESTYLE 2020 大野智 作品展」が、東京・六本木ヒルズ展望台 東京シティビューで開催されている。2008年の「FREESTYLE」、15年の「FREESTYLE II」(東京・大阪 ※同年には中国・上海で「FREESTYLE in Shanghai 2015 楽在其中」も実施)に続く、約5年ぶり3度目となる展覧会だ。

 大野さんの創作活動の集大成となる本展は、旧作から油彩やドローイングなど絵画約40点、フィギュアなどの立体作品約130点、写真約10点などを展示。新作は、「巨大細密画」や、嵐の58枚目のCDシングル「カイト」のジャケット写真のために描き下ろした作品など20点以上にのぼる。さらに、創作・展示のアーカイブまで幅広い作品を展示する。

 作品展を担当したMCOの前園美佐子さんによると、大野さんが新作に取り掛かり始めたのは昨年秋から。制作のために倉庫を借り、昼夜一人こもって作業に励んだ。特に、新型コロナウイルスの自粛期間中は制作に集中したという。

「一番思いがあるものを描きたい」として手がけたのが、今年春に1週間で描き上げたというジャニー喜多川さんの絵画だ。

 昨年7月に亡くなったジャニーさんを2273×1620ミリという巨大キャンバスに描いた大作で、これまでの作品になかった“いろいろな色を取り入れてポップに描き上げる”という新たな手法で臨んだ。大野さん自身、「ずっと見てても飽きない」という作品だが、実際間近で見ればその通り、メガネの奥を想像せずにはいられない。

 ジャニーさんの絵と同じ大きさの巨大キャンバスを使用した新作の「巨大細密画」も見応えがある。

「まず全体を埋めていって。そこから最後、極細ペンで隙間を埋めていったんだけど。それは楽しかった」(大野さん)

【キンプリ永瀬廉 「めっちゃ気持ちよかった」自粛生活中に見つけた新たなリラックス法を明かす】

 いくつもの漢字がありローマ字があり、手があり時計があり花があり、コブラがいて宇宙人がいて黒人がいて骸骨が並び……。大野作品の真骨頂といわれる細密画だが、彼の頭の中を想像しながらこの一枚を隅々まで見ているだけで、あっという間に時間が過ぎていく。

 開放的な空間で見る大野さんのアートの世界は、見る者の心も日常から解きほぐしてくれる。

(フリーランス記者・坂口さゆり)

※AERA 2020年10月19日号

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“人生最悪の30秒”を一本の映画に 息子の失踪で闇を彷徨う母の「その後」は

 AERAで連載中の「いま観るシネマ」では、毎週、数多く公開されている映画の中から、いま観ておくべき作品の舞台裏を監督や演者に直接インタビューして紹介。「もう1本 おすすめDVD」では、あわせて観て欲しい1本をセレクトしています。

【芸能界を夢見た女性が暗殺犯に… 金正男氏暗殺事件に迫る映画】

*  *  *
 元夫と旅行中の6歳の息子が、海辺からかけてきた一本の電話。「パパが戻ってこない」。それが母・エレナが息子の声を聞いた最後だった──。ロドリゴ・ソロゴイェン監督(39)の「おもかげ」はそんな衝撃的なシーンから始まる。

「これは私の友人に実際に起こったことなんです。6歳の息子から電話がかかってきて『海岸にいるけれど、パパがどこにいるかわからない』と。幸い事なきを得ましたが、彼女は『人生で最悪の30秒間だった』と言いました。私は脚本家として、この話にドラマを感じたのです。もう少し時間を延長して、彼女を苦しませてみよう、と」

 2017年にまず15分の短編映画にした。1シーン1カットで、息子からの電話を受けたエレナの恐怖を緊張感たっぷりに描き、米アカデミー賞短編実写映画賞にノミネート。その短編を冒頭に使い、「その後」を描いたのが本作だ。

「短編を制作した仲間たちも私も、この物語を続けたいと思ったのです。不安に駆られながら息子を捜すために家を飛び出したエレナを、放っておくことはできなかった」

 10年後。エレナは行方不明の息子の残り香を追い、海辺のレストランで働いている。「息子をなくしてイカれた女」と口さがない人々は言う。そんなある日、彼女はどこかに息子のおもかげを宿した少年ジャンと出会う。事件の「その後」を、犯人捜しのサスペンスではなく、ヒロインの心の旅として描いた点が斬新だ。

「観客を驚かせたかったんです。通常は誰かがいなくなったら、その人を捜し、いなくなった理由を探す。私はひな型から逸脱したかった。そうではなく、息子を失った母親がどうやって暗いトンネルから出ていくのか、というところに光を当てたかった」

 ひな型に収まらないゆえ、作品の受け取り方も人それぞれだ。次第に親しくなっていく親子ほどの年の差のエレナとジャンを、周囲は微妙な目で見つめる。エレナがジャンに執着するのは息子のおもかげゆえなのか? 二人の間に確かにある愛はどんな種類のものか? ロドリゴ監督は答えを提示しない。さまざまな解釈ができるラストに、筆者は残酷さの余韻を感じたが、

「そう受け取っていただくのも、おもしろいですね。自分としては『赦(ゆる)し』を描いたと考えていますけど」

 影響を受けた監督は数多く、なかでもポール・トーマス・アンダーソンが好きだという。

「私は常に『この人物の最悪の状態はなにか?』を考えて物語をつくる傾向があります。普段の自分は残忍な人間ではないと思いますが、優れた映画やストーリーは、必ず登場人物が最悪の状態に立つことで生まれるのです」

 では監督にとって、もっとも最悪なことは何だろう?

「うーん、両親が亡くなることかな。まだ二人とも元気だけれど、いつかは必ず経験すること。でも心の準備ができていないし、考えたくない。子どもはいないので、その心配はしなくていいけどね」

◎「おもかげ」
10年前にいなくなった息子のおもかげを宿す少年と出会ったエレナだが──。10月23日から全国順次公開

■もう1本おすすめDVD 「ラブレス」

 我が子が突然、いなくなる。親にとってこれほど恐ろしい悪夢はないだろう。ロシアのアンドレイ・ズビャギンツェフ監督による「ラブレス」(2017年)も、そんな悲劇を発端にした物語だ。「おもかげ」とはまた違った視点による「ひな型からの逸脱」が、観る人の心に深い爪痕を残す。

 現代のロシア。一流企業で働く夫とサロン経営者の妻はいわゆるパワーカップル。しかし夫婦の間は冷え切り、二人は離婚に向けて話し合っていた。問題は12歳の息子アレクセイ。それぞれに新しい恋人がいる二人は、どちらも息子を引き取りたくないのだ。ある夜、夫婦は息子を押し付け合って口論をする。翌朝、息子の姿は消えていた──。

 なんと寒々と、いてついた物語だろう! 両親の口論を聞きながら、自室で耳をふさぐ少年の姿が痛々しい。夫婦はいなくなった息子を捜し回るが、もう遅い。息子の不在は身勝手な夫婦の心に永遠に消えない贖罪(しょくざい)の印を刻む。

 だが、この夫婦は特別だろうか? 周囲を見回せば、我が子を前にスマホにかかりっきりな親の姿がある。監督は自分ファーストで他者を愛せない「愛なき現代」を、痛切に切り取り、提示している。

◎「ラブレス」
発売元:ニューセレクト
販売元:アルバトロス
価格3800円+税/DVD発売中

(フリーランス記者・中村千晶)

※AERA 2020年10月19日号

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「毒母」の過干渉で何もできない人間に 歪められた人生への怒りで自分の腕を噛む30代男性

2020年10月19日 18:00 AERA/撮影・松永卓也

 80代の親がひきこもる50代の子どもを支える「8050問題」。その背景には、「毒親問題」が潜んでいることがある。AERA 2020年10月19日号では、いままであまり語られてこなかった母と息子の問題について、ノンフィクション作家・黒川祥子氏が迫った。

【コロナで深刻化する「8050問題」 生活困窮の相談40倍…親も失職「もう支えられません」】

*  *  *
 取材に現れた男性(38)は真夏にもかかわらず、長袖のカッターシャツ姿。対面するや、「母親が過保護・過干渉。物心がついた時から、母親がずっとそばにいて、先回りして何でもやっていた」と口火を切った。

 大企業に勤める父と専業主婦の母、3歳上の姉との4人家族。母親の過干渉は、息子のみに向けられた。自分の中でやりたい欲求が生まれても、「お母さんはあなたを愛しているから、やってあげたいの」と遮られる。されるがままでいると「いい子ね」と褒められた。その結果、何もできない人間になった。

「幼稚園の頃から人と話すとか、何かをするのがすごく怖くて基本、何もしない子でした。それでいじめを受けたことも……」

 父親は家庭に無関心。助けを求めても「黙って、母親の言うことを聞いていればいい」。

 母親は気分次第で、いきなり叱責してくることも多々あった。

「おまえはいつまでも、なんで、自分でできないの!」
「じゃ、自分でやるよ」
「お母さんはしてあげたいの! お母さんの愛情をわかってくれない、なんてダメな子なの!」

 矛盾したメッセージに子どもは振り回される。問答の挙句に行き着くのは、人格の全面否定。

「おまえはバカで、恥ずかしい子だから、親の言うことを聞いてればいいの。私が恥をかくから、何もやらせない」

 思春期、日記だろうがなんだろうが、母親が気に入らないものは勝手に捨てられた。洋服も、母親の好みが押し付けられ、着ないと言えば、「せっかく、買ってきたのに」と泣き落とし。

【学校、仕事、結婚相手も「毒親」が望む選択 「何一つ、自分で選んでいない」男性の末路】

■バカにすんじゃねえ

「全部、親がレールを敷いていた感じ。でも、どんなレールかは言わない。『黙って、親の言うことを聞いていればいいんだ』ってだけ。訳がわからない」

 男性は22歳の時、ひきこもりの支援施設へ入所した。

「生きる知恵がない。コミュニケーション能力もない。こんな人間がどう社会で生きていけるかと、自分で入所しました」

 面会のたびに母親は手作り弁当を持参し、洋服を買ってきた。拒否すれば、激昂した。

「おまえは、親の心がわからないダメ人間だ! 親の言うことを聞け! 黙って、言われた通りにすればいいんだ!」

 敷かれたレールが何かもわからぬまま、「親の言うことを聞かないから」と35歳で突然、実家への立ち入りを禁止された。

 以降、男性は運送業や警備員など「人と関わらずに済む」仕事をして一人で生きている。今、はっきりと思うことがある。

「ああ、オレは、親に潰(つぶ)されてきたんだ。すべてを否定されて」

 不意にフラッシュバックが起こり、怒りがこみ上げる。

「オレをバカにすんじゃねえ!」

 度し難い感情を抑えるため、腕を噛む。袖をまくり見せてくれた両腕には、5センチ四方ほどの真っ黒な傷痕。これこそ、母親に全否定され、歪められた人生への怒りそのものだった。

 この国の水面下に、「毒母」に苦しむ男性が相当いることは間違いない。(ノンフィクション作家・黒川祥子)

※AERA 2020年10月19日号より抜粋

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