この道は、いつか来た道。米大統領選挙戦が本格化し、バイデン民主党候補が支持率でトランプ大統領をリード。4年前も民主党がリードしていたが──。 AERA 2020年9月21日号から。
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「トランプ(大統領)の支持基盤6千万人の熱意のレベルはとてつもない! ジョー(・バイデン民主党候補)の方はそうでもない」
8月28日、ドキュメンタリー映画監督マイケル・ムーア氏が、フェイスブックにこう投稿した。ムーア氏は、民主党支持でリベラル派の急先鋒(きゅうせんぽう)。しかし、2016年大統領選挙中、11月の投開票日の3カ月以上前に、トランプ共和党候補(当時)の勝利を予想したことでよく知られている。
■両者の支持率は僅差
そのムーア氏が、民主党支持者たちに警鐘を鳴らす。
「君らはトランプ勝利への備えができているのか? トランプに再び出し抜かれるのに、心の準備はできているのか? 民主党がうまくやってくれるだろうという信頼に甘んじていないか?」(同投稿)
フロリダ州に住む民主党支持者、イヴ・バルバネルさんは、ムーア氏の投稿にこうコメントし、危機感をつのらせた。
「これが間違っていて、ムーアの指摘が、人びとの目を覚まし、変化を生むことができますように!」
実際に、両候補の支持率は、誤差の範囲と言えるほどまでに差が縮まっているのだ。政治ニュースサイト「リアル・クリア・ポリティクス(RCP)」が集計した各種世論調査の平均で、ムーア氏が投稿した直後の8月31日時点、バイデン氏の支持率が49.6%で、トランプ氏が43.3%。1カ月前の7月27日には、バイデン氏が9.3ポイントリードしていたが、6.3ポイントにまで差が縮小している。
しかも、選挙の結果を決定的にする激戦州では、トランプ氏がバイデン氏を猛追する。CNNがまとめた15の激戦州のみの集計では、バイデン氏支持は49%、トランプ氏支持が48%とほぼ拮抗(きっこう)。全米の支持率では、バイデン氏が50%、トランプ氏が46%となっているため、トランプ陣営が激戦州で有利に展開していることは明白だ。
■熱狂的な支持者を意識
RCPによると、前回大統領選があった16年8月中旬では、ヒラリー・クリントン民主党候補(当時)の支持率が41%、トランプ共和党候補(同)が35%だった。
「クリントン氏が夏にリードしていた後、何が起きたかは誰もが知っている。バイデン支持者は、彼のリードが盤石なのかどうか心配してもおかしくない」(RCP)
9月上旬までの選挙戦で、テレビやソーシャルメディアで目立っているのは、圧倒的にトランプ氏だ。トランプ氏は、薬価引き下げの大統領令を出すために製薬会社の関係者と会合したり、米国人の雇用を取り戻すとして、中国との経済で「デカップリング(切り離し)」を表明したりした。日々、熱狂的な支持者を意識した政策を発表してアピールするトランプ氏に対し、批判を繰り返すばかりのバイデン氏の影はこのところ薄い。しかも、トランプ支持者の「熱意」は、4年前も事前の支持率には反映されなかった。
9月29日には、第1回大統領候補テレビ討論会があり、両候補が初めて生で対決するのを有権者が見守る。16年にも3回あった討論会直後の勝敗について、視聴者は3回ともクリントン氏に軍配を上げていた。
バイデン氏は支持率で差をつけているものの、こうした状況では、米有権者が「バイデン氏はどう逃げ切るのか」という点に注目してもおかしくはない。「いつか来た道」として思い出される2016年の記憶は、特に民主党支持者の心理に大きく影を落としている。(ジャーナリスト・津山恵子=ニューヨーク)
※AERA 2020年9月21日号
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