生き物たちの性を扱う特別展が東京・池袋の水族館で開催中だ。展示方法は独特で、エロスと生殖の境界に挑戦するかのようだ。AERA2020年10月12日号の記事を紹介する。
【小島慶子「生理は個別の健康問題であり社会の課題 リアルに語れる場を増やしていきたい」】
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暗闇の水槽をライトアップするピンクの光。ネオンカラーで書き込まれたボードが並ぶ。「拘束プレイ」に「コワモテソフトプレイ」、「抱いて抱いて抱きまくれ!」など、なにやらいかがわしい文字が並ぶ。
東京・池袋のサンシャイン水族館で開催中の「もっと●性いっぱい展」(●はハートマーク)。タイトルもノリノリだが、昨年好評だった「性いっぱい展」をパワーアップしたこちらの展示、いたって真面目な取り組みで、生き物たちの性と繁殖をテーマにした特別展なのだ。
■繁殖は水族館の使命
水族館といえば通常は海を想起させる青の涼しげな空間だが、この夜間展示中だけはピンクにライトアップされる。なんともムーディーな空間で、ペンギン柄のマスクをつけた丸山克志館長が語る。
「性というテーマは、展示で長年扱いたいと思いながらも、難しいものでした。たくさんの人に興味を持ってもらえるように入り口を広げつつも、おふざけになっちゃいけないし、エロだけでもない。種の保存という水族館の使命を伝えるために、展示や表現、会場の雰囲気の作り方など工夫を重ねました」
さらに今年はコロナという状況下でもある。人の密集を避けるため、解説は各自がスマホで読めるようにした。また、昨年のウリは「触って楽しむ展示」だったが、いまの状況では不特定多数が接触することは避ける必要がある。手で触れずに生き物の世界を体感できる展示として、アシカやカワウソの“アピール臭”の匂いを嗅ぐ「クンクンの壁」のコーナー、型紙で作られたハート型の小道具の先端を鍵のように使ってトラフザメの生殖器の硬さを確かめる「ツンツンの壁」のコーナーが設置された。
ところで、海の生き物の性と繁殖に、どんな面白さが潜んでいるのだろうか。飼育スタッフが語るトークイベントで紹介されたのは、こんな例。
スミレナガハナダイは性転換する魚だ。「雌性先熟」という特徴を持ち、メスからオスに性転換する。小さい間はメスで子を残して、大きくなるとオスに性転換し、ハレム(一雄多雌の集団)を作ってメスを独占するのだという。
また、軟体動物のアメフラシの場合は、雌雄同体で一つの個体が男性器も女性器も持っている。アメフラシは動きが遅く行動範囲も狭いので、少ない出会いで確実に子孫を残せるように、ということらしい。
「いろいろな性の仕組みがありますが、生き物によって生態や特徴が異なるので、それぞれの生き物が、子孫を残すために一番効率のいい方法を取っているんです」(飼育スタッフ)
■種と性の世界の多様性
こうしたトークイベントやコンテンツは、会場に足を運べない人でもオンラインで楽しめる。「交尾」「おっぱい」などをトークテーマに、飼育スタッフが真面目な知識を熱く語るトークイベント(1千円)のほか、生き物の貴重な交尾・交接動画が見られる「デジタル袋とじ」(200円)も。
コロナ禍での開催について、丸山館長がこう話す。
「状況に応じたディスタンスを保つことが必要な今だからこそ、人と生き物が近くにあることを感じたときに、その温かさや生きるためのパワーをより感じることが多くなったのではないでしょうか。種の多様性、性の世界の多様性を改めて感じてもらうことで、今ならではの投げかけができたら」
性別のあり方から子育ての仕方まで、多様性にあふれる生き物たちの世界。「ダイバーシティー」を声高に叫ぶニンゲン界より、もしかしてずっと進んでる?(編集部・高橋有紀)
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※AERA 2020年10月12日号
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