SNSで「コロナ離婚」がトレンドになるなど、在宅勤務や外出自粛をきっかけに夫婦の関係が悪化するケースも出てきている。夫婦の溝を埋めるコツを専門家に聞いた。
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「ひどい事件……」
4月上旬、大学の通信講座に通う女性(41)がテレビを見ていると、新型コロナの影響で収入が減ったことで口論になり、夫が妻を殴って死亡させた事件が報じられた。近くにいた夫(42)は、顔をこわばらせている。
実は10年ほど前、女性も夫に「こんなに残業しているのに、どうしてお給料が少ないの」と言ってしまったことがある。そのとき夫は黙って部屋にこもり、それから1週間、目も合わせようとしなかった。
「お互い、そのときを思い出したんだと思います。事件の夫婦が実際どうだったかはわかりませんし暴力は論外ですが、余裕がなくなると、いつもならワンクッション置くところができなくなったり、聞くほうも意図を汲み取れなくなってしまいます」
女性も最近、在宅勤務中の夫にイライラすることが増えた。自分は帰ったらすぐに手を洗うが、夫は先に着替えをし、ひと息ついてからやっと手を洗う。7日に緊急事態宣言が出たときに夫が「県内の移動はいいのかな。車で山に行くのは大丈夫かな」と言っているのを聞き、「そういう問題なのか?」とまたイラッときた。
医療従事者の苦労に比べたら、自分の悩みなど大したことではないと思う。だが外出が難しくなり、ちょっとした愚痴を話す相手がいないのがつらい。友人に連絡すれば聞いてくれるかもしれないが、こんな緊急時につまらない悩みをと思い、躊躇してしまう。最近は眠りが浅くなり、朝も起きられない。家事がはかどらず、いつまでやっても終わらない。
3月中旬ごろ、SNSでは「コロナ離婚」がトレンドワードになった。在宅勤務や外出自粛によって閉じられた空間で過ごす時間が長くなり、ストレスが増した。夫婦関係にも軋轢が生まれつつある。
ドメスティック・バイオレンス(DV)の増加も懸念されている。DV対策に取り組む全国女性シェルターネットは3月30日、国に要望書を提出し、相談・支援体制の拡充や新型コロナ対策期間中の市区町村などにおける一時保護を要望した。
心療内科医で日本医科大学特任教授の海原純子医師はこう話す。
「行き場のないうっぷんが家族に向かうケースもあり、DVはいま、最も懸念していることのひとつです。人間はネガティブな部分に注目しやすく、ひとつイヤなところを見つけるとすべてが悪く見えがち。外出するか、どの程度消毒を徹底するかなど、普段は問題にならない考え方の違いも浮き彫りになってきます。外出自粛で気晴らしができなくなったことも要因です」
首都圏に住む女性(50)は、夫が自室や車のトランクにトイレットペーパー、インスタント食品などを隠しているのを発見し、唖然とした。品薄が報じられ隠れて買い込んでいたらしい。
「“モノがなくなる”という噂はデマと知っていたはずなのに。いま喧嘩してもいいことがないので、グッと我慢して気づいていないフリをしていますが、“ドン引き”です」
一緒にいる時間が長くなり、「息が詰まる」と感じる人も多い。神奈川県の会社員男性(35)は3月下旬から夫婦そろって在宅勤務になった。これまではめったに喧嘩などしなかったが、3週間ですでに2度喧嘩したという。
「狭い家なのでリビングで顔を突き合わせて仕事をし、24時間一緒です。最初は楽しかったんですが、資料の広げ方、手の洗い方など僕にイチイチ“助言”をしてくるようになって……。うまく回っていた歯車がちょっとずつズレてきているような気がして不安です」
表面化した夫婦の溝を埋めるには、どうすればいいのか。前出の海原医師は、短時間でも「パーソナルタイム」をつくることが大切だという。
「感情が爆発しそうなときは、近所へジョギングに行く、イヤホンで音楽を聴くなど、完全に自分だけの時間をつくりましょう。10分でもそんな時間があれば、自分を取り戻し、心が落ち着くはずです」
同時に、思いを伝え合うチャンスでもあると話す。
「どんな夫婦にも波風を立てないよう我慢したり、無意識に抑え込んでいた不満があるはずです。今起こっている軋轢はそれが表面化したということ。お互いの思いをはっきり伝え、“ここまでは許せる”妥協点を見つけることで、今以上にいい関係を築くこともできるはずです」
感情的にならず、けれども不満に思っていること、相手に改善してほしいところを具体的に伝えるのがポイントだ。
冒頭の女性も、今回は夫婦関係を再構築するチャンスととらえている。在宅勤務になった夫とは家事を分担し、昼食を一緒に食べる。そこで何げない会話が生まれる。
「結婚当時はお互いものの言い方や話の聞き方を知らず、何度もすれ違い、会話のできる夫婦になりたいねと言い続けてきた。今までつくってきた関係が試されていると感じます」
(編集部・川口穣、ライター・井上有紀子)
※AERA 2020年4月27日号
【教育のプロが語る“コロナ離婚”の意外な原因 「子育ての軸」を持たない夫婦は弱い】
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