共働き家庭が増えているのに、家事への姿勢は「専業主婦の母」と変わらない。母と同じように家事に完璧を求めず、自分なりの合格ラインを設定することが家事負担とストレスを減らす近道だ。
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ようやく終わった。そう思って台拭きのシワを伸ばしたその瞬間、小学3年生になる長男が洗い忘れの食器を持ってくる。そういえば、作り置きのおかずはもう食べきった。明日の朝ごはんの準備もしなくちゃ──。
東京都の会社員女性(40)の夜はいつも、終わらない家事との格闘だ。
「本当は子どもの学校の様子を聞いたり、仕事のプレゼンのイメトレをしたりしたいのに、それどころではありません」
夫は几帳面な性格で、任せている風呂・トイレ掃除や洗濯物の取り込み、休日の食事作りは完璧にこなすが、その分妻の「できていないところ」にも容赦なく口を出す。
「自分のできていないところばかり目について、ときどき本当に泣きたくなります」
と、この女性。あまりにも重い家事負担の原因はどこにあるのか。立命館大学の筒井淳也教授(家族社会学)はこう言う。
「そもそも、日本の家事は世界的に見ても極めて“高品質”です。家はきれいで食事の品数も多い。家事を負担に感じるのは質が高すぎるからです」
夫が外で働き、妻が家事・育児に専念する「専業主婦世帯」が増えた1970年代前後に、日本の家事サービスの質は急速に高まった。現在では共働き率が格段に増えたのに、家事への姿勢は大きく変わらない。
「専業主婦家庭で育った人は、自分の母親と同じような質の高い家事を求めがちです。でも、共働きでそれは無理。母のレベルを目指さないことが家事負担を減らす鉄則です」(筒井教授)
2018年の「全国家庭動向調査」によると、常勤で働く妻の平均家事時間は平日1日あたり3時間7分。フルタイムで働きながらこれだけの時間を家事に費やすのは大きな負担だ。しかし、これだけやっても専業主婦の平均の約半分に過ぎない。
では、必要な家事、やらなくていい家事はどう見極めればいいのだろうか。『その家事、いらない。』の著書がある家事・育児コンシェルジュの山田綾子さんはこうアドバイスする。
「やめる家事を探すのではなく、これだけは大事にしようと思うものを考えて合格ラインを定めましょう。他はやらなくてもOKと考えれば、ストレスなく家事を減らせます」
山田さんの場合、食事は「栄養あるものを家族一緒に食べる」ことを合格ラインに設定しているという。それができれば、同じ献立が続いたり、丼ものなど簡単な料理になっても問題ない。下ごしらえを省略した料理やちぎっただけのレタスも「1品」として堂々と食卓に並べる。
「以前は1週間のメニューを考えて、一汁三菜しっかりつくろうと頑張っていました。それで夕食の時間が遅くなって、子どもを早く寝かせなければと叱りつけることも多くなった。すべてが逆効果でした」(山田さん)
ならば「手抜き料理」になったとしても、楽しく食事する機会を大切にしようと決めた。
「仕事のように“これも、あれも”ではキリがないしストレスもたまります。何を大事にするかは人それぞれですが、“大事にしたいこと”を目指す家事は自然と楽しくなります」(同)
自分がストレスに感じることを見つけ、その工程を「やめる」ことも大切だという。
油で汚れた台拭きの洗濯がストレスなら、使い捨ての業務用に替える。白いスポンジは汚れものを洗うのを躊躇するし漂白も面倒だから、黒いスポンジを使う。食器は角を洗うのが手間だから、すべて丸形にする。
洗濯物を畳むのが手間ならば、トップスはハンガーにかけてそのまま収納、靴下やボトムスなどはポイッと入れられるバスケットを用意すればいい。
小さなストレスをひとつひとつ削っていけば、「家事の総量削減」にも、「ストレス軽減」にも、大きく役立つという。
「テレビやインスタにあふれるキラキラ家事はごく一部。手を抜いて、ストレスをためない家事をしましょう」(同)
(編集部・川口穣)
※AERA 2020年7月27日号
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