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「複数の園長から、『先生がマスクをしていると、怒っている、喜んでいるという感情が子どもに伝わらなくて心配だ』と意見が挙がっています」
「笑わない赤ちゃん、静かな赤ちゃんがコロナ禍に増えたと思います。マスクで表情が伝わりにくいのもそうですが、自粛が続き人との交流が減ってしまい、親も抑うつ気味で子どもとほほ笑み合う時間が減ったからではないかと思います」
「のどを診るとき、『あーん』と言っても、口を開けてくれない赤ちゃんが増えました。私がマスクの下であーんと口を開けても、赤ちゃんには見えていないし、学習していないからだと思います」(細部院長)
「アギアギするよ」
「口を使った動きは、おもちゃではなく、人との関わりのなかで獲得するものだと考えています。いまは、先生がマスクをしているので、乳児は模倣しにくい。食事中にうまく上あごでつぶせているか、飲み込めているか、いつも以上に気をつけて見ています」
■口元の動きを見せる
「0歳児は、『もぐもぐ』という言葉の意味もまだわかりません。言葉を聞くだけでなく、口の動きを見て、大人のまねをしながら覚えていきます。感染対策をしなければならないけれど、口元は見せてあげたいと思っていました」
「表情や笑顔が格段に伝わりやすくなりました」
「『きちんと対策した』という大人のリスクマネジメントの意味合いが大きいのではないか。教育の場は、育つ子どもを主体に考えるべきでは」
■家庭でできることは
「マスクで表情がわかりにくいなら、『グッド』と言って腕で大きな丸を作るなどジェスチャーをつけると伝わりやすくなるでしょう。フェイスシールドやマウスシールドは、飛沫を完全には防げないかもしれませんが、食事や口元を見せたいときなどに使うといいと思います。口元が見えれば、発音の難しい『あ』と『お』の口の形が違うことも伝えられます」
『乳児期の親と子の絆をめぐって』の著書がある、しぶいこどもクリニック(東京都大田区)の渋井展子(ひろこ)院長(昭和大学医学部小児科客員教授)もこうアドバイスする。
「家に一緒にいる時間に、子どもに言葉のシャワーを浴びせましょう。できるだけ子どもの思いや欲求に応えて、安心させてあげてください。それが子どもの成長につながり、自分を励ますことができるようになると思います」
(ライター・井上有紀子)
※AERA 2020年10月5日号より抜粋