藤井聡太が史上最年少三冠を決めた叡王戦で注文したおやつが大人気だ。将棋のタイトル戦で、棋士はなぜおやつを食べるのか。どんな効果があるのか。AERA 2021年10月11日号で取材した。
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今年9月中旬、不二家のとあるスイーツが各店舗から一斉に姿を消した。その名も「コロコロしばちゃん」。2006年に発売された「コロコロくまさん」のお友だちとして、「コロコロと転げまわるかわいいシバイヌをイメージして開発した」(同社広報室)という、同社の新商品だ。
人気爆発の発端は、9月13日におこなわれた将棋の第6期叡王戦五番勝負の第5局。この日、史上最年少三冠となった藤井聡太さん(19)が、午前10時のおやつとして食べたのがコロコロしばちゃんだった。
■叡王戦後は完売の店も
「シバイヌのふさふさした毛並みをくだいたスポンジで表現した」(同)という目にも楽しいカップケーキで、叡王戦以降は不二家のほぼ全店で閉店時には完売する大ヒットに。2週間以上が経った9月末でも、売り切れる店舗があるほどだという。
この叡王戦の主催者でもある不二家の叡王戦特設サイトを見ると、藤井さんが期間中におやつとして食べたのはコロコロしばちゃんのほか、「プレミアムショートケーキ(国産苺)」(第2局午前ほか)、「熊本県産和栗のプリンショート」(第4局午前)、「プレミアム生ミルキー」(第4局午後)などなど。
「午前10時と午後3時のおやつに5、6品ほどの商品を不二家がピックアップしており、その中から(棋士に)選んでいただいております」(同)という。
そして注目のタイトル戦があると、必ずといっていいほど報道される棋士たちのおやつ。藤井さんの場合は今年6月にも、名古屋市でおこなわれた第62期王位戦第1局で注文した「ぴよりんアイス」が話題に。名古屋駅などで購入できる名物スイーツ「ぴよりん」の期間限定商品で、まん丸目玉のキュートな黄色いひよこを、ネットのあちこちで目にしたばかりだ。
こうしたタイトル戦のおやつは午後3時のいわゆるおやつとして、また時間が迫った対局終盤の栄養補給などのために「昔からの慣習」(日本将棋連盟)で提供されてきたものだという。
■おやつの持ち込みOK
「初代女流名人」として18年の引退まで活躍してきた蛸島彰子さん(75)はこう話す。
「おやつが出るのはタイトル戦。私も何度かいただいたことがありますが、午後3時は対局がちょうどクライマックスになっていることも多い時間です。緊張もクライマックスで、何を食べたのかほとんど覚えていないのです。今の棋士たちがリラックスしておやつを楽しんでいるのを見ると、うらやましいくらいです」
一方、おやつの提供のない対局では、バッグにチョコレートやキャンディーを忍ばせることも多かったという。日本将棋連盟によれば、対局中のおやつにルールはなく、蛸島さんのように、好きなおやつを持ち込むのも、もちろんOK。また、提供されるおやつがあれば、ラインアップのなかから何を何個選んでもいいそうだ。
「対局中は頭を使って、ふらふらになることも。そういうときには脳が糖分をほしがるので、おやつで補給するんですね」
そう話す蛸島さんは引退後、将棋教室を主宰。ここでも生徒たちのリフレッシュや脳への栄養補給のために、必ずおやつの時間を設けて“もぐもぐタイム”を楽しんでいるという。
と、書いているうちに自分の頭はスイーツのことでいっぱいに。電話予約の後、近所の不二家に走り、コロコロしばちゃんとコロコロくまさんを買ってきた。クリーミーなカップケーキで、あっというまに両方ペロリ。ただし棋士の方々ほど頭は使っていない自分の場合、すべて脂肪に変わる懸念が……。(ライター・福光恵)
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※AERA 2021年10月11日号
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