新型コロナは感染リスクだけでなく、家庭内での軋轢や不和を引き起こしている。AERA 2020年8月31日号は、夫と価値観や意識が異なり苦悩する妻の声を聞いた。
能天気な夫(42)の一言にカチンときた。
「国がやるくらいなんだから、感染の心配はもうないだろう?」
7月下旬、政府が始めた観光支援策「GoTo トラベル」。北海道が好きな夫は「お得」なこのキャンペーンが始まるのを知り、妻である女性(44)に北海道への家族旅行を提案してきたのだ。
テレビでは連日のように感染拡大が報じられているのに、どうして「心配ない」などと言えるの──。女性は夫に、行くなら一人で行ってほしい、でもその時は戻ってきても2週間は自宅に帰らずホテルなどで過ごしてから帰宅してほしいと伝えた。すると夫は感情を爆発させ、自分がいかに我慢しているかを話した。結局、旅行には行かなかったが、しばらく口を利かなくなったという。
こんないざこざは、初めてではない。新型コロナウイルスに関しては、一事が万事こんな調子だ。
女性は新型コロナに対して恐怖を感じ「危機意識を強めに持っている」が、夫は「どこか自分とは関係ないこと」と思っている。この考え方の違いによる衝突は3月後半ごろから始まり、やがて家庭内に不協和音が流れ始めた。
■スマホや郵便物も消毒
女性は感染を防ぐために、スマホや郵便物、スーパーなどで買った商品など、外から持ち込んだものはすべて、帰宅後にアルコールを含ませたペーパーでふき取っている。夫も「できる限り気をつけた方がいい」という点では一致し、考えに賛同してくれた。だから同じことを頼んでいるが、忘れてしまうのか面倒なのでやりたくないのか、何もしない。女性が注意すると、
「わかったよ!!」
と怒鳴り散らす。何度も同じことで怒鳴られ精神的に持たなくなったという女性は言う。
「今はあまり夫を刺激しないようにしています」
コロナ禍では感染そのもののリスクに加え、私たちの暮らしの中で生じてきた軋轢や不協和音が人と人、社会の「分断」を引き起こそうとしている。
本誌が行ったアンケートでも様々な声が寄せられた。
それを見ると、家庭内だけでなく職場やママ友など、暮らしの至る場所でさまざまな軋轢が起きている。社会心理学が専門の近畿大学の村山綾准教授は、次のように説明する。
「コロナによって私たちを取り巻く環境が一変しました。同時に、今まで知らなかった相手のことや相手の価値観を知る機会も増えました。それを受け入れることができたら問題ありませんが、自分の価値観と合わないと葛藤が生じ、相手を許容できないとか、軋轢やギスギスした感情につながりやすいと考えられます」
(編集部・野村昌二)
※AERA 2020年8月31日号より抜粋
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