新型コロナウイルスに感染して回復した後も、油断はできない。後遺症が何カ月も残る人のいることがわかってきた。AERA 2020年9月7日号から。
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「感染から4カ月たっても微熱や倦怠感が続いている」
「嗅覚や味覚が戻らない」
SNSやYouTubeなどに投稿された動画で、新型コロナウイルスによる肺炎などからいったん回復して退院した後にも、さまざまな症状が残り、なかなか復調しないで困っている体験を紹介する人が、世界中で後を絶たない。
ローマにあるバチカン・カトリック大学付属病院の医師らは7月、新型コロナウイルスで入院していた元感染者のフォローアップ外来を受診した143人の体調を米医師会雑誌に発表した。発症の約2カ月後にまったく何も症状が無くなった人は18人(13%)だけだった。32%は1~2種類の後遺症があり、55%には3種類以上の後遺症があった。44%は、生活の質が下がったと感じていた。
後遺症としてもっとも多くの人が挙げたのは疲労感(53%)で、次いで呼吸困難(43%)、関節痛(27%)、胸痛(22%)が多かった。嗅覚障害や味覚障害が残る人もいた。
中国やフランスなどの医師からも、新型コロナウイルスで中等症以上の重い肺炎になった患者の多くは、肺炎から回復しても肺の機能が低下し、退院後も息苦しさなど呼吸器関係の症状が残ることが報告されている。
新型コロナウイルスの長期的な影響についてはまだわからないが、同じコロナウイルスの仲間によって2002~03年に流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)では、発症から半年以上経っても、後遺症に悩まされている人が一定程度いた。
香港大学の医師らがSARS発症から半年後の元感染者110人を調べたところ、3割の人はエックス線検査で肺に異常がみられた。さらに2年後に調べたところ、肺の機能が正常に戻っていない人がまだ2割いた。身体的な後遺症にとどまらず、2割近い人は2年後になっても、うつや心的外傷後ストレス障害(PTSD)といった精神的な後遺症に悩まされていた。
こういった後遺症が残るのはなぜだろうか。
日本呼吸器学会理事長の横山彰仁・高知大学教授によると、肺の機能が落ちるのは、ウイルスに感染して肺炎が起きた際、免疫細胞がウイルスを攻撃しようとして出すサイトカイン(生理活性物質)が過剰に出て、肺自体も傷つくからだという。
特に、肺で酸素と二酸化炭素のガス交換を担っている「肺胞」が損傷してしまう。肺胞は、空気を含む袋状で、柔軟に伸び縮みすることでガスを交換しているが、損傷すると線維化して硬くなり、ガス交換が十分にできなくなる。それが、呼吸困難をもたらすという。
肺機能の低下は、新型コロナウイルス以外が原因の重い肺炎やARDS(急性呼吸窮迫症候群)になった後にもみられる。
一方、ほかの原因では起こりにくい、新型コロナウイルスに特徴的な後遺症には、血の塊が血管内でできる「血栓(けっせん)症」や、心筋炎、腎障害などがある。
「血管の内側の内皮細胞が、ウイルスに直接、攻撃されたり、ウイルスを攻撃しようとして免疫細胞が出したサイトカインによって傷ついたりして生じる血管障害によって、肺や心臓、腎臓などに後遺症が生じている可能性がある」(横山さん)
重い肺炎で人工呼吸器や体外式膜型人工肺(ECMO(エクモ))をつけて集中治療室(ICU)で治療を受けた患者が、退院後にうつやPTSDになるのは新型コロナウイルスに限らない。チューブが気管に入れられて身体が拘束された状態になっているために大きなストレスを感じるだけでなく、会話もできないといった状態が原因となっている。
新型コロナウイルスの場合はより精神的な影響が大きくなる可能性があると懸念されている。感染防止のために家族とも面会ができないのが一因だ。また、通常の肺炎では、鼻マスクなど拘束のより少ない方法から始めるが、新型コロナウイルスでは患者がウイルスを周囲に飛散させる可能性を考慮し、いきなり人工呼吸器をつけることが少なくないからだ。
英国医師会雑誌は8月3日付の論説で、「新型コロナウイルスの感染者は、SARSで長期経過を調べた患者よりも高齢で、持病のある人が多い」として、新型コロナウイルスの長期的な影響については、SARSと同程度だとは限らないと指摘した。
高齢者は、身体的な後遺症だけでなく、精神的な後遺症も重くなる傾向がある。新型コロナウイルスに限らず、ICUなどで入院治療を受けた患者には、せん妄が起きることがある。英国民に医療を提供する国民保健サービス(NHS)によると、若い患者の多くは回復すればせん妄も消失するが、高齢患者の場合、25%の人は退院後3カ月経ってもせん妄が残り、20%は半年後も残るという。(ライター・大岩ゆり)
※AERA 2020年9月7日号より抜粋
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