多くの飲食店が不振に苦しむなか、焼き肉店は10月の売り上げが前年を超えた。好調の背景には、焼き肉店ならではの理由があった。AERA2020年12月14日号の記事を紹介する。
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11月下旬、平日夜なのに都内の某焼き肉店は満席。コロナ禍で飲食店が軒並み苦しい状況にあるなか、10月の焼き肉店の売り上げは前年同月比を超える108.7%に達した。
一部地域で緊急事態宣言が続いていた5月15日、覆面調査サービス「ファンくる」が「今、一番外食で利用したい店」を聞いた際も1位は焼き肉だった。
■自宅ではやりづらい
焼き肉店「プレミアムカルビ」を運営する神戸物産の焼肉事業部の梅岡義央さんはこう話す。
「焼き肉は煙やにおいの問題もあって自宅ではやりづらく、ハラミやホルモン、タンなど、スーパーでは入手しづらい食材も多い。うちは車で来やすい郊外店ということもあり、緊急事態宣言解除後から徐々にお客さんが戻り、6月には前年比以上の売り上げを達成できました。コロナ前の計画通り、10月には新店舗をオープン、次の新規店舗も予定通り出す予定です」
焼き肉店には他にも有利な点がある。感染拡大を防ぐために換気の徹底が呼びかけられているが、多くの焼き肉店が高性能の換気設備を備えている。換気量はそれぞれの場所の規模や用途に応じ、建築基準法や建築物衛生法で定められている。東京理科大学の倉渕隆教授(空気調和・衛生工学会副会長)は言う。
「厚生労働省はコロナ拡大を防ぐ観点から、換気の悪い空間を避けるために、1人あたり1時間に30立方メートルの換気量の確保を推奨していますが、これは法律で定められた一定規模以上の用途の室内に要求される換気機能と同水準。焼き肉店の場合、客席で火を使うのでキッチンや厨房などと同等ないしそれ以上の、さらに厳しい水準での運用がなされています」
状況によって違いはあるが、23坪くらいの飲食店客席では1時間に2.5回、LDKのキッチンでは1時間に11.7回ほどで部屋のすべての空気を入れ替えるイメージだ。
■煙と一緒に空気も吸う
ただし換気機能があっても、窓を開け忘れたり、換気扇などの機械を稼働させなければ、基準を満たせない。ところが焼き肉店では、無煙ロースターを使用すると自動的に部屋の空気が入れ替わる。無煙ロースターメーカー「シンポ」の営業管理課長、堀隆一さんはこう解説する。
「無煙ロースターは網の周辺にある丸い穴やスリットから煙を吸い込むのと同時に、店の空気も吸っています。吸気口から吸われた煙や空気は、床下に這わせた排気ダクトを流れて、店外に出ていきます。」
シンポの試算によると、23坪の客席(容積200立方メートル)で、同社の無煙ロースターを11台稼働させた場合の1時間あたりの排気能力は3300立方メートル。1時間あたり16.5回、3分38秒に1回、店内の空気を入れ替えることになる。
かつては焼き肉店に行けば、服や髪の毛ににおいがつき、これを敬遠する人も多かった。焼き肉業界はこの問題を解決して幅広い客層の取り込みに成功し、結果的にコロナ禍に求められる「換気のよい店」という条件も満たした。
もちろん、換気だけではコロナを防げない。人との距離が近ければ飛沫が飛ぶ。焼き肉店でも手洗いや消毒、食事中の会話自粛など、一般的な注意は必要だ。前出の倉渕教授は言う。
「換気がよければ空気中のエアロゾルが希釈できますが、室温も下がり飛沫が広がりやすい環境になりがち。自宅などでは換気に加えて、抗ウイルスフィルターを付けた空気清浄機を置くのも対策の一つです」
(ライター・井上有紀子)
※AERA 2020年12月14日号
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