東京五輪開幕まで約1カ月となった20日、東京都を含めた9都道府県の緊急事態宣言が解除された。新型コロナウイルスの感染再拡大防止の鍵を握るのはデルタ株(インド株)の動向と人の流れだ。AERA 2021年6月28日号から。
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五輪開会式を約1カ月後に控えた東京は20日に緊急事態宣言が解除され、まん延防止等重点措置に移行。感染者数はどう変化するのか。感染研などの研究チームは、デルタ株(通称インド株)の影響の大小や人の流れの増加率により、都内の流行がどう変化するのかをシミュレーションした。
■影響小でもステージ4
アルファ株(通称英国株)に比べ、▽デルタ株の感染力も病原性も1.2倍で、今後8週間のうちに新型コロナウイルスの8割がデルタ株に置き換わるという「デルタ株の影響が小さい」シナリオ、▽感染力1.5倍、病原性2倍で、4週間で8割置き換わる「デルタ株の影響が大きい」シナリオ、▽「デルタ株の影響ゼロ」という、3パターンを想定した。
デルタ株の影響が小さいシナリオで、緊急事態宣言解除後に人出の増加は10%にとどまり、五輪開催後も人の流れは増えないと想定しても、7月中旬には1日の新規感染者数が、感染状況が最も深刻なステージ4に相当する人数を超えるというシミュレーション結果になった。8月中旬には1日の新規感染者数が千人を超えると推測された。
同じ条件で、五輪開幕後に人出が5%増えると、1日の新規感染者数千人超は8月初旬、人出が10%増えると7月下旬に早まるという結果だった。さらに、人出が緊急事態宣言解除直後は10%増でも次第に15%程度まで増えると想定すると、新規感染者数がステージ4相当になるのは7月上旬に早まり、1日の新規感染者数千人超も7月中旬に早まると推測された。
デルタ株の影響が大きいシナリオでは、人の流れの増加率の大小にかかわらず、6月中にステージ4に相当する新規感染者数に達すると予想された。
一方、デルタ株の影響が皆無でも、宣言解除後の人の流れが徐々に15%まで増えれば、五輪開幕直前にはステージ4相当になるという結果だった。五輪の影響が加われば、8月中旬までには1日の新規感染者数が千人に達する可能性があるという。
■基本は人と接触しない
変異株が増えていく中、どう対処すればいいのか。ウイルス全般に詳しい河岡義裕・東京大学医科学研究所特任教授(ウイルス学)は、こう指摘する。
「あらゆる感染症対策の基本は、感染している人と接触しないことです。それが難しい感染症もありますが、新型コロナウイルスの場合、はしかウイルスのようにすれ違っただけで感染するということはありません。無症状の感染者はいますが、誰もが感染している可能性があると考え、基本にかえり、感染予防対策をしっかりと取れば、デルタ株がまん延しても感染拡大を抑えることができます」
新型コロナウイルスは主に飛沫を介して感染するので、人と適度な距離をとる、他人のいる屋内で大声で話したり歌ったりしない、公共の場ではマスクをする、といった対策が基本だ。
ただし感染症は、集団として基本的な感染予防対策を取ることが欠かせない。それには、国や自治体から、現時点でどのような対策が求められるのかを明確にすることが重要だ。
感染者数が下げ止まり、微増の気配すらみえる東京でも緊急事態宣言が解除され、五輪は有観客の可能性が高い。そこから人々が受け取るメッセージは、感染防止対策の徹底とは逆だ。
政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長ら専門家有志26人は18日、五輪開催に関して提言を公表。日本の新型コロナ対策は人々の自発的な協力に大きく依存していると指摘し、大会主催者や政府、自治体に、大会開催に伴って人々に「矛盾したメッセージ」が届かないような対策を求めた。(科学ジャーナリスト・大岩ゆり)
※AERA 2021年6月28日号より抜粋
【新型コロナ“ファクターX”は幻想? インド型変異株の「免疫を逃れる能力」と第5波のリスク】
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