森喜朗氏から発されたあまりに許せない発言に、日本、いや世界中から批判が起きた。 ものを言わない日本社会が招いた結果なのだろうか。変わらなければならない。AERA 2021年2月15日号から。
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東京オリンピック・パラリンピック大会組織委員会の会長、森喜朗氏(83)の問題発言があったのは2月3日。日本オリンピック委員会(JOC)のオンラインによる臨時評議員会だ。記者にも公開されていた。
「女性がたくさん入っている理事会の会議は時間がかかります」「女性っていうのは競争意識が強い。誰か一人が手をあげていうと、自分もいわなきゃいけないと思うんでしょうね。それでみんな発言されるんです」
■男社会で傷をなめ合う
出席していた評議員会メンバーからは笑いももれたという。
「私どもの組織委員会に女性は7人くらいか。7人くらいおりますが、みなさん、わきまえておられて」
とも語った。言いたい放題。何が問題なのか指摘するのもばからしいほど、女性への偏見に満ちた根拠のない暴言だ。
翌4日の国会、予算委員会では立憲民主党の菊田真紀子衆院議員がこの問題を取り上げ、菅義偉首相に「見解を」と迫った。菅氏は「あってはならない発言だ」と答えるにとどまった。
「評議員会の中で笑いがおこった。誰もいさめる人がいなかった。誰もものを言えないのが残念ながら現状だ」
と菊田氏は続けた。その菊田氏に取材すると、こう批判した。
「自民党議員は誰もこの問題を取り上げなかった。政治の世界はいまだに男社会で傷をなめ合っている感じがする」
政界は依然として女性が少数派だ。女性は衆院で1割程度。世界経済フォーラムの2019年の男女格差指数で日本は153カ国中121位とお粗末な状況だったが、特に政治分野が問題視された。ましてや森氏の現役時代はもっと少ない。
森氏は4日に謝罪会見を開き、発言を撤回はしたものの、辞任は否定。しかも「会長は女性の話が長いと思っているのか」という質問に、「最近は女性の話を聞かないのであまり分かりません」。「女性が多いと時間が長くなるという発言。これは誤った認識ではないのか」という質問には、「(競技団体から)そういうふうに聞いておるんです」。「謝罪」「撤回」はしても、自分の発言が間違っている、とは考えていないんだと思える。
■20年たってもこれか
そんななかで、稲田朋美衆院議員が声を上げた。かつて森氏が率いた派閥、清和会出身だ。ツイッターに「森会長の発言について」として、「私は『わきまえない女』でありたい。なぜなら、女性も少々空気読めないと思われても、臆せず意見を言うべきだから」と書いた。稲田氏に話を聞いた。
「批判するということじゃなくて」と前置きし、語った。
「話が長いとか、競争意識が高いとか、男性だってそういう人はたくさんいる。男性の中で女性が発言するのは、とても勇気がいること。わきまえるとか言い出すと、女性が気兼ねなく発言したり、トップになったりすることもできなくなる。だから私はわきまえない女でいたい」
私は政治の世界を20年以上取材してきた。かつては政治家も官僚も、取材するジャーナリストも完全な「男社会」。少しずつ空気は変わってきたが、今回、嫌な思い出がよみがえった。暗黙のルールに満ちた「オールド・ボーイズ・クラブ」(森氏を「必ず問いつめる」とツイッターで発言したカナダのIOC委員も同じ表現を使っていた)にがんとはねつけられ、恐怖を覚え、馬鹿にされた(と思えた)。
男の人にはこの気持ち、わからないだろう。そう言うと、問題が何も解決しないと思い、ぐっとのみ込んできた。それなのに20年たってこれか、と思う。
それは「わきまえすぎた」せいなのかもしれない。私に限らず。だからみなさん、「わきまえない女」でいきましょう。いや、女だけじゃない。男性も。(朝日新聞編集委員・秋山訓子)
※AERA 2021年2月15日号
【小島慶子「『性差の日本史展』で考えた 『搾取の構造』は明治も令和も続いている」】
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