新型コロナの影響による業績悪化から、希望退職や早期退職に踏み切る企業が相次いでいる。そんな「冬」の時代に対処法はないのか。これから就活に挑む東大・京大生たちはどんな基準で企業を選ぶのか。AERA 2020年12月21日号で掲載された記事を紹介。
* * *
東京商工リサーチによる20年度の「業績見通し」に関するアンケートでは、1万3387社のうち約7割の企業が「減収見込み」と回答。「前年度並み」が約2割で、増収を見込む企業はわずか9.2%だった。
一方で、同社が20年3月期決算をもとに上場企業1803社を対象に実施した調査では、年間の平均給与は630万5千円。前年同期より1万5千円(0.2%)増加したが、伸び率は鈍化した。この1年で経済界の景色が180度変わったことがわかる。
業績悪化を受け、希望退職や早期退職といった「赤字リストラ」に踏み出す企業も続出している。
リゾート挙式大手のワタベウェディングや、ストッキングやタイツを主力とするアツギなどのアパレル、お家騒動も取り沙汰された「いきなり!ステーキ」を手がけるペッパーフードサービスなどが並ぶ。募集内容は様々だが、40歳以上の社員を対象にする企業が主で、有報に記載された平均年齢にドンピシャな企業も多い。
■電通ショックの打撃
早期退職ラッシュのなかで、とりわけ注目を集めたのが、広告会社「電通」の人員削減と新制度導入だ。コロナ禍により広告出稿量が減少し、2期連続の赤字見通しに。海外事業で6千人を減らし、国内でも40歳以上の正社員を対象に「個人事業主」として契約する制度を21年1月にスタートさせる。
企業価値検索サービス「Ullet(ユーレット)」を主宰するメディネットグローバル社の西野嘉之CEO(工学博士)は業界の動きを、こう分析する。
「あと数年はまだ安泰だと思っていた業界の縮む速度が速まった気がします。オリンピック延期の影響を大きく受けた電通は、2年連続の大赤字、リストラを始めたことを見ても厳しい状況であり、経営の立て直しが必要です。仮にリストラされずに残れたとしても、年収が下がる可能性はあります」
人材サービス会社エン・ジャパンが冬のボーナス支給前に行ったアンケートによると、広告・マスコミで賞与を「支給予定」としていたのは35%と、他の業種に比べて低い結果が出ていた。
■早期退職カード対処法
また、内閣人事局によれば、国家公務員(管理職を除く)の冬のボーナス平均支給額は、前年よりおよそ3万円少ない約65万4千円。3年連続の減少となった。民間企業との格差解消が引き下げの要因で、「安定」の公務員にも不況が影響した形だ。
厳しい「冬」の到来は、他からも聞こえてきた。
9日、東京商工リサーチは、今年1月から12月7日までに早期・希望退職を募集した上場企業が90社にのぼったことを公表。これもリーマン・ショック直後の09年(191社)に次ぐ高水準となった。募集人数は判明分だけで1万7600人を超えているという。
問題は、「ここで終わり」ではないことだ。
「希望退職ラッシュはこれからが本番です」
人事コンサルタントで『稼げる人稼げない人の習慣』(日本経済新聞出版)などの著書がある松本利明さん(50)はそう分析し、こう続ける。
「11月中旬から、外資系企業ではポジションオフという名のリストラが始まりました。日本ではリストラが難しいと言われていましたが、今年は業績が軒並み落ち込んだので、整理解雇の流れも来ています」
ともすれば、「明日は我が身」ともいえる状況に、身の振り方を考えずにはいられない。だが、かつては売り手市場だった転職情勢も激変。育成コストがかかる若手は採用控えが続き、リストラ大本命の40代以降ともなれば個人のスキルの市場価値が問われる。
目先に積まれた退職金には翻弄される。企業に残るべきか、軽やかに飛び出すべきか──。
松本さんはこうも言う。
「いざ退職カードが突きつけられたときに、自分を必要としてくれる企業や仕事がある人は転職しても大丈夫です。このご時世、『転職先の条件が自分に見合わない』と選り好みすると、市場価値は一気に急降下し、戻ることはありません。頼みの退職一時金も無職が続くと数年で食いつぶします。社外から声がかからない人は、異動や出向をしてでも会社にしがみつき、その間に選択肢を増やす努力をするのが堅実です」
【奨学金は怖くて借りられない、国の支援は届かない 「年収5、600万円世帯」の苦境】
■東大・京大が狙う業界
これから社会に羽ばたく学生たちはどうか。
近年、学生たちが入社前からスキルや技術を持っているかどうかを重視する「ジョブ型雇用」を取り入れる会社が増加。組織の未来を担う新人たちも、企業に依存せず、自らのスキルを高められる道を選ぶケースが増えている。
新卒採用サービスを手がけるワンキャリア経営企画室の寺口浩大さん(32)は指摘する。
「かつて学生たちは企業に安心感を求めていました。先行きが見えない今は、安心を得るためにスキルが身につく『食いはぐれない企業』を選ぶ傾向にあります」
つまり、新卒給与や企業の安定性が第一選択ではなく、自身の向上につながる企業を選択する。その傾向が強いのは東京大や京都大といったトップ層の学生たちだ。同社が22年卒の東大生、京大生を対象に実施したアンケートでは、人気企業上位10社のうち7社がコンサルやシンクタンクで占められた。
「学生のキャリア観の変化は今後も続くため、採用のやり方を時代に合わせて変えていく必要があります」(寺口さん)
新型コロナは、これまでの「稼ぐ」という考え方の転換期に導いたといえる。(編集部・福井しほ)
※AERA 2020年12月21日号より抜粋