就活は恋愛のようなもの。会えば会うほど互いの理解が深まるのがセオリーだ。だが、コロナ禍では会うことさえもままならない。いまも続く就活の緊急事態をどう捉えているのか。人気企業にとっての「意中」の学生や大学がわかった。AERA 2020年10月26日号は「採用したい大学」を特集。
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自分の実力を過信していたわけではない。
「普通にしていれば、志望業界のどこかから内定がもらえると思っていました」
関西の私立大学に通う女子学生(21)が、ため息をつく。
大学に入学したときから、すでに就活は売り手市場。五輪イヤーの今年はその絶頂期ともいわれていただけに恩恵にあずかれる──そう思っていた。
しかし、事態はがらりと変わった。新型コロナウイルスが就活市場も襲った。
「コロナの影響でほとんどの説明会が中止。選考自体がなくなったわけではないけれど、内定が一気に遠のいたように感じました」(女子学生)
目指していたのは旅行業界だったが、学生に人気のエイチ・アイ・エスは採用が中止となり、夏にかけて選考を継続していた他企業も返事はない。結局、志望を変えて10月上旬に内定した保険会社へ勤めることにした。
「先輩は去年、苦労せず就活を終えていたのでこんなに長引くとは思いませんでした」(同)
■「コロナ前」採用は好調
この学生が言うように、今春に就職した2020年卒生は活動自体が「コロナ前」だったため、結果はすこぶる好調。一人で複数の内定を取る学生も、ざらにいた。
では、新型コロナのビフォー・アフターで就活戦線はどう変わったのか。
アエラでは、大学通信の協力を得て、就活生に人気の企業102社が20年春、どの大学から何人の学生を採用したのかを一覧にした。
さらに、企業がターゲットにする大学や大学群をわかりやすくするため、早稲田大から楽天へ91人、東京大からソニーへ38人といった、その企業のなかで最も採用数が多かった大学を赤色、また、採用数で5番目までの大学を青色、10人以上の採用数がある大学を黄色で示した。なお、就職者数は学生の申告を受けて大学がまとめているため、実際の入社人数と異なる場合がある。また、大学ごとの卒業者数は大きく異なるため、比較の際は注意が必要だ。
売り手市場のなかでも、大学ごとに企業との相性があることがわかる。
たとえば、一橋大学。
1学年の学生数は1千人に満たないながらも、三菱UFJ銀行に22人、三井住友銀行に17人の学生を手堅く送り込んでいる。
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だが、調査を実施した大学通信の安田賢治常務は、こう話す。
「この102社の中で、一橋大生が最も就職しているのは楽天の29人です。他のネットや通信系に進んでいるわけでもない。創業者の三木谷浩史会長が一橋なので、その影響もあるのではないでしょうか」
赤や青色が目立つ大学は、企業からターゲットにされている大学といえる。たとえば、保険は早慶MARCH、理工系を中心にほしがる電子・電気は難関国立大など、企業や業界の傾向がひと目でわかる。一方、学生に人気の食品は採用数が著しく少ないことなども見て取れる。
■「キラキラ就活」の終焉
アフター・コロナとなる21年卒もターゲットが大きく変わることはないが、就職地図が一部、変わることが予想される。
「売り手市場は20年卒まで。学生に人気のキラキラ企業が並んだ進路実績は、おそらく最後の輝きです」
そう話すのは、青山学院大進路・就職センターの西前(さいぜん)敦子課長だ。航空業界を目指す学生が多い同大では、今年4月、日本航空と全日本空輸だけでも70人以上の学生が採用された。中には、入学時からエアラインスクールに通ったり、夏のインターンシップに参加する学生が多かったという。
2社とも青学からの就職先上位企業で、採用実績は右肩上がりだった。納得して就職していく卒業生の姿に手ごたえを感じていたが、新型コロナによる渡航制限で航空業界は赤字に転落。相次ぐ採用中止で21年卒生は土俵に立つことすらままならなかった。早くも卒業延期や、既卒での就活を意識する学生も出てきている。
だが同センターの祖父江健一部長の「読み」は、さらに重い。
「航空業界は少なくとも3年は元通りにならないと見ています。リーマン・ショックは原因がはっきりしていたので1、2年先には希望が持てました。先が読めないコロナ禍で学生にどうモチベーションを保たせるか、我々の支援も問われます」
(編集部・福井しほ)
※AERA 2020年10月26日号「人気102社の採用したい大学」特集から抜粋