日本のスポーツ現場における子どもたちへの深刻な虐待事案がなくならない。要因は「スポーツでは免責される」という例外主義と、指導者教育が進まないことにある。AERA 2020年8月24日号に掲載された記事を紹介する。
* * *
スポーツ界で深刻な虐待やパワハラ問題が指摘されながら、同様の事案が後を絶たない。
ノーベル平和賞共同受賞の実績を持つ国際人権NGO「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」(HRW)が7月20日、日本のスポーツ現場における子どもの虐待やハラスメントの調査結果を発表した。オリンピック選手を含む800人以上にインタビューなどをしてまとめた報告書の題名は「数えきれないほど叩かれて」。25歳未満の回答者381人のうち、約2割が指導者などからの暴力の経験を訴えた。
大阪市立桜宮高校バスケットボール部の主将だった男子生徒(当時17)が、顧問の暴力やパワハラを苦に自殺した2013年以降、暴力の根絶を目指してきた日本スポーツ界に対し、グローバル構想部長のミンキー・ウォーデンさんはこう断じた。
「根絶宣言から7年間の改革は、国際基準・五輪基準にはるかに及ばない。虐待したコーチを免責する文化が蔓延している。根底には、勝利を目指すスポーツではこのくらい(の人権無視)は許されるというスポーツ例外主義がある。この状態は選手の成長を阻害している。オリパラ開催までに解決すべき問題だ」
世界最大級の国際団体から、いわば目をつけられたのだ。
■ミス避け安全なプレー
女子バレーボール元日本代表の益子直美さん(54)もHRWのインタビューに協力した。6年連続で「子どもを怒ってはいけない」小学生のバレーボール大会を主催する。
「私自身、中高と、毎日(指導者に)ぶたれないよう過ごすことだけを考えていた。例えば、ラインぎりぎりを狙ってスパイクを打つことにトライすべきなのに、ミスすると怒られるので安全なプレーしかできなかった。圧迫しない指導を受けていたら、もっと伸びたと思う」
もっともな意見だが、今もまだ「どんな指導だろうが、強気にプレーできない選手が悪い」と考える指導者は少なくない。
18年に岩手の県立高校で男子バレーボール部の新谷翼さん(当時17)が、顧問の男性教諭(当時41)のパワハラを苦に自殺した。今年7月22日に盛岡市内で調査報告書を発表した第三者委員会によると、U18日本代表候補だった翼さんに、「バカ、アホ、頭悪い」「おまえのせいで負けた」「一番下手」「使えない」と発言。もともと強豪大学への進学に不安を抱いていた翼さんに絶望感を与え、バレーへの意欲を奪ったとして、顧問の言動が自殺の一因だったと結論づけた。
19年には、茨城・高萩市立中学校3年の女子生徒(当時15)が自殺。市教委は、卓球部顧問の「殺すぞ」「殴るぞ」といった暴言が一因になった可能性があると説明している。これら二つの自死事案は、ともに身体的暴力ではなく、言葉の暴力で子どもたちを追いつめている。(ライター・島沢優子)
外部リンク