2019年8月24日,東京にあるバンタンゲームアカデミー中目黒校舎にて,プロゲーミングチーム,「DeToNator」のメンバーによる特別講演会が行われた。代表の江尻 勝さん,人気ストリーマーのYamatoNさんとSHAKAさんが登壇し,eスポーツ初心者に向けて様々なテーマを取り上げ,自分たちがゲームに対してどう向き合ってるかを語った。
日本のeスポーツの現在
現在のeスポーツシーンについて,サイトに来る問い合わせの量や各地で行われるイベントの数,企業からのeスポーツに関するビジネスの相談も増え,「eスポーツ」という言葉がかなり浸透してきているという。
一方で,「DeToNator」を設立した2009年の時点では「eスポーツ」という言葉がまだあまり知られていなかった。そのため,「eスポーツ」というものは特に意識しているわけではなく,ゲームが「好き」で「勝ちたい」というだけで集まった集団なのだという。
やがて「eスポーツ」という言葉がここまで広がり,「ゲームをしている」ことに対して違った印象を持たれるようになったそうだ。
続いて,江尻さんは海外の強豪チームが「人生をかけてゲームを極めようと活動している」と語る。その探究心,こだわり,練習量はかなりのもので,日本においては一部の強豪選手を除いて,全体的に足りていないと感じるという。
また,ビジネス面でも選手自身が考える必要があると語る。自分たちの付加価値をどうやって付けていくか,自分がどうなりたいかを明確にしていかなければ,海外との差は埋まらないと厳しい意見を述べた。
SHAKAさんとYamatoNさんは,「競技」と「遊び」のスタンスの違いに言及した。競技となると「勝つ」ために自分が苦手なことや,嫌いなこともやらなければならない。トッププレイヤーは見えないところで地道な反復練習や研究を重ねており,そこに「楽しさ」はほとんどないそうだ。
それでも,海外の選手が熱心に練習や研究をしていることを指摘した。選手へのリスペクトが強く,マイナーな大会を含め,選手が輝ける場所があることがその理由であり,日本でもそうした場所が増えていけば,競技レベルが上がってくるのではないかと語った。
一方の江尻さんは,国内のeスポーツ環境の問題が話題になるが,限られた中でどれだけ強くなれるかを追求する意欲が大事だと指摘する。海外のチームも最初から強かったわけではなく,日本の中で世界に通用する考え方,取り組み方,組織づくりができるかが重要で,最初から環境のせいにして諦めているようであれば,未来がないと語った。
これについてはSHAKAさんも,海外チームの華々しい活躍ばかりがフォーカスされがちだが,それぞれのチームが悩みを抱えていて,海外の環境なら活躍できるという考えの人には違和感を覚えると述べた。
YamatoNさんは英語などの共通言語があれば,海外の選手に直接質問できたり,海外のトッププレイヤーの動画などで研究できたりと上達につながると語る。そういった形で環境を飛び越えられるように模索していくことが重要だと指摘した。
生き抜くためのブランディング。DeToNatorのビジネスモデルとは
DeToNatorはさまざまな事業を展開しているが,基本的にはゲームを軸とした運営であり,eスポーツはその中の1つの事業に過ぎないという。eスポーツとしてやれることは狭く,それだけでビジネスを続けるのは厳しいと江尻さんは語った。
選手となったとき,世界のトッププレイヤーに追いつくためには,彼らを上回る努力が必要になる。それをどう継続していくのか,しっかりとセルフプロデュースする必要がある。また,自身がメディア(情報を発信する側)になっていることも考え,SNSやストリーミング配信などのセルフブランディングを,しっかりと意識し厳しく臨む必要があると述べた。
ストリーマーとして活動しているYamatoNさんは,ゲームの実況配信で自分を表現し,タイトルを盛り上げることで,そのタイトルが気になる人が増え,大会が開催されるなど,結果的に競技シーンの活発化につながると語った。
一方で,SHAKAさんはSNSなどで文字で伝えることの難しさについて言及。意図していない解釈をされてしまうこともあり,些細なミスがチャンスをふいにしてしまうため,使い方に気をつけなければならないと指摘した。
また,江尻さんはイベントに対するプロゲーマーのスタンスとして,特別待遇を受けて勘違いする人もいるが,自分たちはゲストではなく,メーカーやパブリッシャと同じタイトルを盛り上げる一員だという心構えを説く。
自分たちの努力が評価されてお金を出してもらっているので,資金を提供してもらえる環境は当たり前ではないと言及。自分たちの努力にパブリッシャのサポートがあり,ゲームが盛り上がることでコミュニティが形成され,さらにシーンが発展していくことを,しっかり認識して欲しいと語る。
DeToNatorは初期の頃は全部自費で大会に出場し,今ならば運営が炎上しそうな出来事にも何回か遭遇したそうだ。しかし,それは仕方がない事だと受け入れ,SNSでも一切口外しなかったという。
YamatoNさんは「オフラインイベントを開いてくれるだけで,まず感謝の気持ちがある」と語ったうえで,スタッフや運営側の大変さもわかるので敬意を表したいと述べた。SHAKAさんも抗議は必要だが,それをSNSでやり玉にあげたところで,その瞬間に注目は集まったとしても,その後に得になることはなく,自分が好きなタイトルのマイナスイメージになるだけだと語った。
江尻さんはこういった現状がある中で,eスポーツというシーンで自分が成長したいと思ったときに,どうしたら支持が得られるか,自分の価値が高められるかを考えなければいけないと指摘。プロは“ビジネス”であり,自分の付加価値によって報酬が良くなっていくということを考えて業界に飛び込んできてほしいと伝えた。
YamatoNさん,SHAKAさんの1日に迫る
まずはSHAKAさんは,ストリーマーとしては19:00から2:00頃まで実況配信を行うという。選手として活動していた時期だと,社会人として働いていたときは,会社から帰ってきてから練習するというスタイルだったが,プロに一本化してからは夜型の活動となったそうだ。台湾リーグに参加していたときも,夕方から朝方までが練習時間だったと語った。
YamatoNさんは,学生時代は19:00に集まり,3:00まで練習するという夜型生活だったそうだ。アルバイトをしていて,ある程度お金が貯まると一気に練習する期間を設けるというスタイルで活動していたという。いまは規則正しく,朝に起きて活動する生活リズムを維持しているとのことだ。
ゲームスキルを磨くだけではない。“e-Sports専攻”の授業内容
最後は,DeToNatorのメンバーが,eスポーツを学ぶうえで必要なカリキュラムについて,具体的な提案を挙げていった。
YamatoNさんは,講演会の中でも繰り返し指摘していた「英語」の必要性を説き,カリキュラムに取り入れることを提案した。また,ゲームタイトルによって強豪国が違うため,「英語」に限定せずに受講できる言語を選択できるとベストではないかと提案した。さらにゲームをしながら多言語を理解するのは難しいので,いろいろな言語でゲームの用語を勉強ができる環境があると良いのではないかと語った。
また,瞬時の判断や大局的に見た戦略的判断などの判断力をつけるようなテストを取り入れてはどうかと提案。特に大局的な判断はFPSだけではなく,様々なゲームジャンルに応用できるので,やる価値があるのではと意見した。
これにはSHAKAさんも同意し,負けた時に何が失敗したのかというミクロな判断だけではなく,そこまでの戦況の変化をみて,どうすればベストだったのかというマクロな視点の両方が養えられればと語った。
講演会はニコニコ生放送で生配信されており,視聴者から,学校で学ぶことのメリットを尋ねられた江尻さんは,誰にも文句を言われずに堂々とゲームを学べることだと言及。補足するようにSHAKAさんは,家で勉強するより,専門の場所で勉強できる方が集中して学べることと,一緒に勉強しているクラスメイトの意見も聞けるのもメリットと語った。
YamatoNさんは,優れた講師やトッププレイヤーから教えてもらえるという機会はなかなかないので大きな価値があると述べ,直接質問できるのは大きなメリットだろうと語った。
そのほかにも,新たな取り組みとして今後バンタンゲームアカデミーの「e-Sports専攻」のカリキュラムに,韓国のPUBGチームの合宿に参加し,現役のトッププレイヤーがどういった環境に身を置いているのか,疑似体験できる企画を準備しているという。こうしたものに参加できるのもメリットだろう。
ところどころで厳しい意見を語りつつも,「DeToNator」としてeスポーツを含むゲームビジネスとどう向き合うかという明確なビジョンと共に,今後も日本の選手たちが活躍するために環境をよりよくするサポートをしたいという熱さも感じられる講演会だった。