1947年11月20日、ウェストミンスター寺院にて行われたエリザベス女王とフィリップ王配の結婚式。
昨年2020年には結婚73周年を迎え、ますます仲睦まじいイギリスのエリザベス女王とフィリップ殿下。でも、ふたりが結婚に至るまでには数々の困難があったそうです。
ネットフリックスで人気の『ザ・クラウン』は、若くして女王に即位したエリザベス女王の半生を描いたドラマシリーズ。
エリザベス女王が様々な困難に立ち向かう姿が印象的ですが、彼女の闘いは1952年の即位以前から始まっていました。というのも、フィリップ殿下とはいとこ同士に当たるものの、1947年の結婚までの道のりは決して平坦ではなかったからです。
13歳の時点で、フィリップに夢中だったエリザベス。すでに王位継承者となることが決定していた彼女がフィリップと出会ったのは、両親とともにダートマスの海軍兵学校を訪れたときでした。彼女のエスコート役を務めた18歳の青年将校こそ、映画スターにも劣らぬハンサムボーイと言われた、ギリシャ王子フィリップだったのです。2人はすぐに手紙をやりとりし、エリザベスはベッド脇に彼の写真を飾るように。
ともにヴィクトリア女王の玄孫に当たる2人。ところが、エリザベスが何不自由なく愛情深い家庭で育ったのに対し、フィリップはほぼ無一文で、長らく両親とも疎遠だったのだとか。
というのも、フィリップの家系は元々デンマーク出身のギリシャ王族だったけれど、叔父のギリシャ国王コンスタンティノス1世がクーデターによって退位。その後は一家でギリシャを脱出し、二度と戻ることはありませんでした。後に、フィリップの母親は精神を病み、父親はフランスで愛人と生活するようになったため、フィリップは寄宿学校で過ごすことに。
海軍将校としてのフィリップは、地中海や極東で勇敢に活躍しました。手紙や時折のデートを通して、エリザベスとの愛を育み、1946年にはスコットランドで求婚。彼女はイエスと即答したものの、そこから、2人の前に障害がたちはだかりました。
エリザベス女王の父ジョージ6世は、まだ20歳にもならない娘の婚約は時期尚早と反対。また、国内にはフィリップに対する不満の声も多数聞かれました。「ブロンドヘアのギリシャのアポロ」「バイキング」「映画スターなみのハンサム」などと称賛される一方で、「粗野」「傲慢」「文無し」などと非難されたそうです。中でも、第2次世界大戦後のイギリスで問題になったのは、彼が「ドイツ寄りに過ぎる」こと。
というのも、フィリップはドイツに縁のあるシュレースヴィヒ=ホルシュタイン=ゾンダーブルク=グリュックスブルク家の出身。彼自身はイギリスの親戚に面倒を見てもらいましたが、4人の姉たちは皆ドイツの王族と結婚し、義兄弟のうちの3人がナチスに関わっていました。エリザベスの母親はフィリップを婿に迎えることを快く思わず、内輪では「あのフン族(ドイツ人の蔑称)」と呼んでいたとか。
それでも、エリザベスの気持ちは変わらず、両親も遂に折れました。1947年、フィリップがエリザベスに3カラットのダイヤモンドエンゲージリングを贈ると、両親は娘の婚約を発表。フィリップはイギリス国民となり、姓を「マウントバッテン」に変更、結婚直前にはエディンバラ公の称号も獲得したのです。
もっとも、国民はこの結婚を必ずしも歓迎しなかったようで、ある新聞調査では読者の40%が結婚に反対と答え、「王室による政略結婚の時代は終わった」と書かれたとのこと。
けれども、若く魅力的なカップルのロマンスは次第に国民のハートをつかみ、結婚式の日取りも決まって、残るはお金の問題だけに。当時、イギリスではまだ配給制度がとられており、ガソリンや煙草、紙の輸入も制限されていたのです。
結婚式は緊縮婚と呼ばれ、政府はエリザベスに衣服配給券を200枚余計に渡したのみでした。それでも、美しいアイボリーのシルクドレスには何千もの小粒パールがあしらわれ、星の模様のトレーンは4mほど。一説によると、このドレスは、1482年のボッティチェリの絵にインスパイアされたものだったそうです。
誰よりも緊縮要請を忠実に守ったのは、フィリップ。常に服装にかまわず、節約を好んだエディンバラ公は、海軍の制服にくたびれた靴下で結婚式に臨みました。
ところが、セレモニーに向かう途中、あるハプニングが。エリザベスのダイアモンドティアラの一部が折れたのです。彼女の母である女王は周囲をなだめ、すぐに直りますよ、と言ってお抱えの宝石職人を修理に呼びました。そして、彼女の言ったとおり、ティアラはたちまち元通りに。
当然ながら、未来の君主の結婚式は盛大に行われました。何百万というラジオの視聴者に向かって実況中継された他、6人の王と7人の女王を含む2500人の招待客がウェストミンスター・アビーに居合わせたとのこと。
その後、バッキンガム宮殿のウエディング・ブレクファストに向かった花嫁と花婿は、見るからに幸せに満ちていたとのことです。
翻訳/mayuko akimoto Photo Getty Images From TOWN&COUNTRY