本記事は、本橋亜土氏の著書『ありふれた言葉が武器になる 伝え方の法則』(かんき出版)の中から一部を抜粋・編集しています
テレビが街頭インタビューを流す理由、わかりますか?
番組中、特にVTRの冒頭によく出てくる、街頭インタビュー。
街中や、地元商店街を歩く「ごく普通」のおじさん、おばさんに声をかけ、思っていることを話してもらうアレです。
価値ある「精査された情報」を発信すべきテレビ番組が、なぜ専門家でもない人のコメントを流すのか。
実は、これにはきちんとした理由があります。
それは……、
番組を観ている人の「共感」を得るため。
「夫の嫌なところ」「政治について最近自分が感じていること」など、たとえつまらないコメントだったとしても、それが視聴者と同じ意見であれば、「そうなのよ、よくぞ言ってくれたわ!」と感情が動きます。その結果、瞬時に相手を話に引き込むことができるのです。
法則 「一般の声」をプラスして「共感の獲得」する
共感を得ることこそが、伝え方の鉄則。これがあるのとないのとでは、相手の話を聞く姿勢が大きく変わってきます。
相手の感情が動けば、こちらの話を聞く態勢ができ上がるので、感情を動かす手っ取り早い仕掛けとして、冒頭部分に「共感を得る」ための構造を置きます。
効果的な使い方としては、プレゼンやセミナーの話しはじめや、文章の冒頭に、これから話す話題に関連するありきたりな質問を投げかけることです。
ポイントは「ありきたり」であること。この質問は相手の共感を得るためのものなので、逆算して相手の答えが「そうですね」「そうなんですよ」となるように問いかけていきます。
冒頭部分で2〜3回共感が得られたら、本題へと進んでいきます。
相手にとっては何げないやりとりですが、
「伝える側」「伝えられる側」が共通の話題で同じ意見を持つ
ことになるので、「こちらの意見を好んで聞き入れる態勢」ができ上がります。
たとえば、オフィスの複合機を新しいものに入れ替えてもらう交渉をする場合、
「最近、紙詰まりが多くありませんか?」
「それって急いでいるときに限って起こりますよね?」
「会議に間に合わず怒られたことありますよね?」
などと、よくある光景を質問してから交渉に入れば、提案を採用してもらえる可能性が高まります。相手も同じような経験があるはずだからです。
また、グルメブログでお店選びの失敗談を書きたいとき、普通に書いてしまうと、「ただ自分の確認ミスじゃん」という印象を与えてしまい、最後まで読んでもらえません。しかし記事の冒頭に、
「食べログの評価が3・5以上なのに、普通の店だった経験、ありませんか?」
「写真ではフワフワの食パンだったのに、食べてみたら普通だったこと、ありませんか?」
こう書くことで、あなたの失敗談が、共感によって読者の中で自分事化され、記事を最後まで読んでみたくなります。
通販番組でおなじみの構造も、この法則に則って作られています。
あなたも、上のイラストのような街頭インタビューのシーンを観たことがるのではないでしょうか。通販番組は、観ている人の感情を刺激して、安くはない金額を消費させるところまで持っていく強力な構造ですので、ぜひ参考にしてみてください。
本橋亜土(もとはし・あど)
1978年生まれ。番組制作会社スピンホイスト代表取締役。大学卒業後、バラエティ番組専門の制作会社を経て、ドキュメンタリーを制作するフォーティーズに入社。同社代表で、日本ドキュメンタリー界の巨匠である東正紀氏に師事する。その後、複数の制作会社でディレクターとして「王様のブランチ」(TBS)「行列のできる法律相談所」「嵐にしやがれ」「しゃべくり007」(全て日本テレビ)など、複数の人気情報・バラエティ番組を制作する。その後、プロデューサーを経て2017年に独立し、株式会社スピンホイストを設立。「ニンゲン観察バラエティモニタリング」「バース・デイ」(ともにTBS)「それって!? 実際どうなの課」(中京テレビ)などの番組を制作。一方、独立時に本書の元となった、テレビ業界の「伝え方の勝ちパターン」を体系化し、そのノウハウを使った企業PR動画の制作業務をスタート。「テレビの手法を活かした完成度の高い動画が作れる」と評判を呼び、住友林業、新日本製薬、マルコメなど、数多くの企業から依頼が舞い込んでいる。