2019年、大手ネット証券で初めての女性社長に就任した清明祐子氏。仕事が多忙な中、趣味も多く持ち、プライベートも重視しているという。仕事もプライベートも両立させる仕事術とは?(取材・構成:長谷川敦)
※本稿は『THE21』2020年12月号より一部抜粋・編集したものです。
■登山、マラソン、ゴルフ…趣味にも全力投球!
――創業社長の松本大氏の跡を継いで、2019年4月にマネックス証券社長に就任した清明祐子氏。モットーは、「仕事もプライベートもどちらも大事!」だ。プライベートを充実させることが、仕事の充実にもつながると考えている。
「私の趣味は登山、マラソン、ゴルフ、そして飲み会も大好きです。週末はほとんどどこかに出かけていますね。雪山を登る技術は私にはないので、山は春から秋にかけて登っています。
目標は日本百名山を制覇すること。つい先日、54座目の登頂を果たしました。冬から春にかけては、月に1~2回のペースでマラソン大会に参加しています。登山もマラソン大会も、全国各地を訪れることになるので、それぞれの地元のお酒を飲んだり、買って帰ったりするのも楽しみの一つです。
また平日の夜も、仕事関係の会食だけでなく、友人と食事をすることも多いので、極力18時頃までに仕事を終わらせるように努めています」
――とにかくすべてに全力投球の清明氏。かと言って、睡眠時間も削らない。
「仕事が特別に忙しいときは別にして、普段は、最低6時間は寝るようにしています。きちんと睡眠も取りたいし、やりたいこともたくさんあるし、時間が足りないのは事実ですが、足りないからといって諦めたくはありません。
軽井沢でのマラソン大会と会社のイベントが同じ日に重なってしまったときは、ハーフマラソンを走り終えてすぐに新幹線に飛び乗り、東京に向かったこともありました」
■山を下りているときこそ、冷静になれる
――そんな清明氏も、若手の頃は仕事中心の生活を送っていたという。
「今のように仕事以外のことにも精力的に打ち込むになったのは、11年に、マネックスグループの子会社(当時)だったマネックス・ハンブレクトの社長に就任してからです。
それまでの私はほとんどマネジメントの経験がなくて、一人のプレーヤーとして成果を上げることだけに意識を集中させていました。けれども、社長になると自分だけが頑張ればいいわけではなく、人を動かすことができないと物事が動きません。そのためには、もっと視野を広げる必要があると考えました。
また、リーダーを務めていると、日々、色んな難題が降りかかってきます。そのストレスを抱え込んだままだと、自分の態度や言動がメンバーを不安にさせることになります。登山やマラソンは、外に向けて気持ちを発散させ、心の安定を保つためにも、とても大切です」
――趣味に打ち込むことは、仕事で成果を上げていくうえでも直接的に役立っているという。
「私はやっぱり仕事が好きなので、プライベートの時間も頭の片隅では仕事のことを考えています。登山も、登っているときはしんどくてとても考える余裕はありませんが、下山中は『あのときは、もっとこういう言い方をすればよかった』とか、『あの件については放っておくしかないな』というように、仕事の振り返りをよくしています。
不思議なことに、仕事の場を離れているときのほうが、仕事について冷静かつ客観的に見つめ直すことができます」
■中学校時代の友人との飲み会も仕事に活かせる
――友人との飲み会も、そこで見聞きしたことや感じたことが、仕事に活きているという。
「私は大阪の出身で、小中学校は地元の公立校に通っていました。その頃の友達の中には、中学校時代はちょっとヤンチャで、そのまま地元に残って働き、家庭を持っている人もたくさんいます。彼ら、彼女らとは、今も大阪に帰ったときによく一緒に飲んでいます。
これが良い刺激になっています。マネックス証券のお客様は個人投資家です。どんな資産状況の人でも、誰もが可能な範囲で資産形成ができる社会になることを目指して設立された会社です。
世の中にいる方すべてがお客様になり得るので、中学校時代の友人が何を考えて、どんなふうに暮らしているかについて聞くことは、自分の会社をどう創っていくかを考えるうえですごく参考になるんです。
まあ、本当は『一緒に話していると楽しいから』というのが、彼らと飲む一番の理由なんですけどね(笑)」
――清明氏は、社内に閉じこもって働いているだけでは、新しい発想は生まれないと考えている。
「当社はダイバーシティを大切にしていて、メンバーの性別や年齢、国籍も多様です。とはいえ、同じ会社で働いていれば、その会社のビジネスの枠組みの中での思考になりますから、どうしても同じような発想になります。
会社とはまったく違う環境に身を置き、仕事とは関係ない人と同じ時間を過ごしていると、『私が考えていたことって、ちょっと視野が狭かったかも』と気づくことがよくあります。だから私は、外に出るのが好きなんです」
■「やるか、やらないか」で迷うよりまずやってみる
――このように社外での活動に力を注ぐことができるのは、言うまでもなく、日々の仕事の処理能力が速いからだ。仕事ができるから、プライベートにも時間を割く余裕ができる。
「私は昔から『仕事が速いね』とよく言われてきました。でも、決して器用なわけではなく、新しい仕事に慣れるまでは時間がかかるタイプです。人よりも速い点があるとすれば、それは決断のスピードだと思います。決められることは、すぐに決めて実行します。
そもそも、決断をした時点では、その判断が正しいか間違っているかなんて誰にもわかりません。外部環境は刻々と変化するし、想定外の事態も起こります。
だったら『やるか、やらないか』で迷うより、まずはやってみたほうが断然いい。『どうやるか』を考え、取り組んでいるうちに、『これは違うな』と気づくこともあります。そうしたら、その時点で軌道修正を図ればいいのです。
もちろん、中には、決断をする前にもう少し調べたほうがいい案件や、熟考が必要な案件もあります。もう少し調べたほうがいい場合は『いつまでに何を調べるか』を決めます。
また、もっと考えたほうがいいことについては、『考えることリスト』に入れておき、考える時間をスケジュールの中に取って、その時間内で結論を出すようにしています。これを実践するだけでも、仕事のスピードがまったく変わってくるはずです」
清明祐子(マネックス証券社長)
(『THE21オンライン』2020年12月10日 公開)