企業ロゴにも使われる「黄金比」と「フィボナッチ数列」
「黄金比」という言葉を聞いたことがあっても、それがどういうものか、正確に理解している人は少ないかもしれない。だが、我々の身の回りには意外なほど多くの「黄金比」が取り入れられている。黄金比とは何か、そしてそれはなぜ美しいのか。人気数学塾塾長を務める永野裕之氏がその秘密を説く。
人間は「正五角形」に美しさを感じる
もし、最も美しい図形は何ですか、と問われたたら何と答えますか?
ちなみに古代ギリシャでは円こそが最も美しい図形だと考えられていました。その理由は、円は中心を通る直線で分ければどの方向から直線を入れても直線を挟んで対称になるからです。富士山や東京タワーの例を出すまでもなく、対称(シンメトリック)であることは美しさの基本なのです。
しかし私達が自然と美しいと感じる長さの比率は正五角形の中に潜んでいます。それは正五角形の一辺と対角線の長さの比であり、いわゆる黄金比です。黄金比とは次の比率のものをいいます。
黄金比…1:1.618…(正確には、1: (1+√5)/2=1.6180339? )
「黄金比」という名前は、この比の美しさに魅せられた古代ギリシャの彫刻家ペイディアスが名付けたといわれています。
ただし、文献上で「黄金比」という用語が初めて登場したのはずっと後のことで1835年にドイツで刊行された『初等純粋数学』という本が最初です。
「名刺」も「オウム貝」も黄金比だった?
身近なところでは、通常サイズの名刺の縦と横の比はほぼ黄金比になっています。
縦と横の比が黄金比になっている長方形を黄金長方形といいます。黄金長方形には、最大の正方形を除くと、残った長方形もまた黄金長方形になるという非常に興味深い特質があります。つまり、黄金長方形から正方形を除くという作業は永遠に続けることができて、その度に相似な(形は同じで大きさは違う)黄金長方形を(理論上は)無数に作ることができます。
また、下の図のように黄金長方形の中の正方形の角を滑らかにつないでいくと、渦巻きの曲線ができます。この渦巻曲線を「対数螺旋」または「黄金螺旋」といい、オウム貝やヒマワリの種の配列など、自然界に多く見られます。
芸術作品にも黄金比は多数見つけることができます。
ミロのヴィーナスは、足元からヘソまでの長さと全身の長さ、あるいは上半身と下半身の長さなどが黄金比になっています。
また、モナリザやギリシャのパルテノン神殿、ピラミッド等、黄金比が見られる芸術作品やデザインの例は枚挙にいとまがありません。
アップルマークもツイッターの鳥も「フィボナッチ数列」?
次の数列はあるルールに従っています。
1、1、2、3、5、8、13、21、34…
34の次の数字がわかるでしょうか?
実はこの数列は、直前の2つの数を足し合わせて次の数を作るという規則なっています。21+34=55ですから、34の次は55です。このような数列のことをフィボナッチ数列といいます。
フィボナッチは13世紀にイタリアで活躍した数学者です。フィボナッチは『算番(さんばん)の書』という著作の中で、一組のつがいの子ウサギが1ヶ月後に大人になり、その後は毎月1つがいずつ子ウサギを出産したとすると、つがいの組数は1年間で何組になるかという問題を解決して見せました(下の図参照)。そのときに登場したのがフィボナッチ数列です。
実は、このフィボナッチ数列は黄金比と深い関係があります。
フィボナッチ数列の、となりあう数の比は数が大きくなればなるほど黄金比(1.618…)に近づくのです。
そのため、フィボナッチ数列を一辺の長さとする正方形を並べていくと、先ほどご紹介した黄金長方形とよく似た形となり、その角を滑らかに繋いだ曲線も対数螺旋の一種です。
また、アップルのりんごマークやツイッターの鳥のマークをはじめ、非常に多くのロゴデザインがフィボナッチ数列に登場する数を半径に持つ円を使ってデザインされています。フィボナッチ数列が黄金比に通じることから、関連する円を使ったデザインもまた、美しく感じるからでしょう。
(出典:『東大→JAXA→人気数学塾塾長が書いた数に強くなる本』)
永野裕之(ながの・ひろゆき)「永野数学塾」塾長
1974年、東京生まれ。暁星高等学校を経て東京大学理学部地球惑星物理学科卒。同大学院宇宙科学研究所(現JAXA)中退。レストラン経営、ウィーン国立音大への留学を経て、現在は個別指導塾・永野数学塾(大人の数学塾)の塾長を務める。これまでにNHK、日本経済新聞、プレジデント、プレジデントファミリー他、テレビ・ビジネス誌などから多数の取材を受け、週刊東洋経済では「数学に強い塾」として全国3校掲載の1つに選ばれた。プロの指揮者でもある(元東邦音楽大学講師)。著書に『東大教授の父が教えてくれた頭がよくなる勉強法』『数に強くなる本』(PHPエディターズ・グループ)、『大人のための数学勉強法』(ダイヤモンド社)など多数。(『The 21 online』2018年06月08日 公開)