KPMGが世界のトップFinTech企業を評価した「FinTech100」を発表した。これには「最も早い速度で急成長中のInsurTech(保険テック)スタートアップのひとつ」との呼び名が高いカバー・ジーニアスや中小企業向けB2B債権買取プラットフォーム、クレデックスとともに、日本からは「家計簿アプリ」のマネーツリー(MoneyTree)が、注目の新興スタートアップ50社に選ばれている。
新興FinTechで最も勢いがあるのは英国と EMEA(欧州・中東・アフリカ)で、合計26社が「新興FinTechトップ50」にランクイン。米国からは10社、アジアからは14社が選ばれた。
そこで、このトップ100のなかから、大胆かつ革新的な発想と技術で、金融産業を一変させる潜在性を秘めた新興スタートアップを9社紹介しよう。
資金調達に関するデータは、2017年12月14日時点のクランチベース(CrunchBase)の情報を参照にしている。
カバー・ジーニアス――eコマース業者向けの保険商品を提供
カバー・ジーニアス(Cover Genius)は、eコマース業者向けの保険商品を販売している。顧客に関する特定のデータに基づいて、世界70カ国・地域の市場および規制の需要に応じた保険証書を作成するほか、特許出願中の最新技術を用いて消費者の需要に適した保険商品や潜在顧客を探しだすことで、マーケティングの向上を目指す。レンタルカーから損害保険、旅行保険など、幅広い領域をカバーしている。
オーストラリアで人気の次世代レンタカー保険「レンタル・カバー・コ?(RentalCover.com)」の親会社としても知られている。レンタル・カバー・コ?が提供する保険は通常のレンタカー会社による自社保険よりも低額で、盗難から損害まですべてを補償してくれる。
オーストラリアのビジネス情報サイト「スマートカンパニー」が賢い商品・サービスを販売している企業を選ぶ「スマート50」でも 、今年は首位に輝いた。2014年シドニーで設立され、現在は成長率2606%(前年比)、売上1360万ドルに急成長を遂げている。シードラウンドCを通した現在までの調達総額は155万ドルだ。
キュヴァ――オンデマンド自動車保険
2014年にロンドンで設立されたキュヴァ(Cuvva)は、「使った分だけ保険代を支払う」というオンデマンド型の短期自動車保険を提供している。頻繁に自家用車を利用しない消費者にとっては、大きな節約につながる。
保険契約につきものの面倒な契約プロセスも簡潔化。スマートフォンにアプリをダウンロードし、承認後ナンバープレートを登録するだけで、1時間~28日間の補償が受けられる。気になる値段は運転手の条件や車種よって異なるが、1時間7.80ポンド、28日128.30ポンドが相場だという。
英国で話題のオンライン資産運用スタートアップ、ナツメグ(Nutmeg)のニック・ハンガーフォードCEOや、欧州アクセラレーター「シードキャンプ(Seedcamp)」から200万ドル以上を調達している。
クレデックス――中小企業向けB2B債権買取プラットフォーム
クレデックス(Kredx) は2015年、インド経済・技術の最先端都市との呼び名が高いバンガロールで設立された。3600万社を超えるといわれるインドの中小企業と投資家を結びつけることで、キャッシュフローの改善を図る。
中小企業にとって最大の悩みのひとつである資金不足は、企業成長の妨げになるだけではなく、存続自体に大きな影響をあたえる。健全かつ持続的な経営を続ける上で、キャッシュフローは最優先事項となる。
クレデックスは銀行から簡単に融資を受けられない中小企業が、自社の債権を投資家に売却するためのプラットフォームを提供している。いわゆる「インボイス・ディスカウント(債権買取)」だ。 セコイア・キャピタルやプライムベンチャー・パートナーズ(Prime Venture Partners)から、700万ドルの資金を調達している。
2017年3月にニューヨークを拠点とするB2Bインボイス・プラットフォーム「ハミングビル(Hummingbill)」を買収したばかりだ。
マクロビュー――「最も賢い投資法」?テーマ投資
オーストラリアで2014年に設立されたテーマ投資のスタートアップ、マクロビュー(Macrovue)。革新的テクノロジーやクリーンテクノロジー、シルバー経済関連銘柄など、旬の銘柄で構成された20以上のテーマから自分の投資スタイルを選ぶだけで、気軽に投資を楽しむことができる。
既存のモチーフ投資と異なるのは、最も効果的なリターンを叩きだす銘柄を投資のプロが厳選している点だという。
テーマのひとつ、「未来の車」 を一例として挙げると、テスラのような国際大手からゼネラルモーターズのスピンオフ、デルファイ・オートモーティブまで、着実に利益を上げると予想されると同時にギャンブル要素を秘めた銘柄でポートフォリオが組まれている。同社ウェブサイトによると、S&P500指数の年間リターンが3.2%であるのに対し、「未来の車」はおよそ4倍に当たる12.0%(2017年7月1日データ)というから驚きだ。
口座開設は3~5分で完了。最低2000ドルを口座 に入れておくだけで、最初の30日間は無料のお試し期間という点も嬉しい。
AMPの法人ベンチャーキャピタル(VC)部門、AMPニュー・ベンチャーズや、「FinTech100」の共同作成企業H2ベンチャーズなどから、総額183万ドルを調達している。
グラスルーツ・ビマ――ケニアの低所得層がターゲット「信頼できる保険の仲介」
「転換期を迎えた保険産業を消費者重視の環境に作り変える」というコンセプトの元、2016年にケニヤで設立されたグラスルーツ(GrassRootsBima)。低所得層を顧客ターゲットに絞った保険プラットフォーム「ワズインシュア(WazInsure/透明性のある保険という意味)」を提供している。
銀行口座へのアクセスがない消費者でも、このプラットフォームに個人情報を登録するだけで、小口保険商品の購入から保険の申請まで行える。モバイルアプリも利用可能だ。
ウィニー・バディアCEO曰く、今後保険企業が生き残っていく上で、利益拡大だけではなく消費者からの信用を勝ち取ることが重要となる。まだまだ開拓の余地がふんだんに残るケニアの保険市場において、グラスルーツのサービスは信頼できる保険業者を求めている消費者と、新たな顧客層獲得を狙う保険企業の橋渡しとなるはずだ。
マネーミー――ミレニアル世代をターゲットとする小口スピード融資
マネー・ミー(Monay Me)は500~1.5万ドルの小口融資を、主にミレニアル世代に提供している。返済期間は最短1~36カ月、スマートフォンから3~5分で申込みが完了するため、「今月はピンチなので少しだけ借りたい」という若い世代にはぴったりの融資法だろう。
利率などは金額や返済期間、契約者の財政などを考慮して決められる。例えばクレジット評価が非常に高い消費者が5000ドルを12カ月間借りた場合、毎週の返済金額は108.66ドルと少額だが、信用スコアの低い消費者は毎月155.88ドルを返済することになる。
2013年にシドニーで設立されて以来、オーストラリアの民営系投資企業イヴァンズ・アンド・パートナーズ(Evans & Partners)やニューヨークのフォートレス・インベストメントグループ(Fortress Investment Group)から、総額1.5億ドルを獲得している。
クオント――中小企業向け「スマートバンキング」でビジネスバンキングを一新
簡潔な銀行口座と豊富な金融サポートサービスを融合させたデジタルバンク、クオント(Qonto)は、利便性と効率性の高いバンキングツールで中小企業を支援している。新規口座はオンラインで5分で開設でき、マスターカードとリンク可能なほか、ストライプ(Stripe)、スラック(Slack)、セージ(Sage)といったSaaS(ソフトウェア・アズ・サービス)にも対応している。
雛形にはまりきったビジネスバンキングを一新するとの野望の元、2016年にパリで設立された。フランスのVCアルヴェン・キャピタル(Alven Capital )や米国の著名起業家ピーター・テール氏率いるヴァラー・ベンチャーズ(Valar Ventures)から、総額1160万ユーロ(約15億円)を調達している。
ティックトック――世界初「オンライン即時住宅ローン」
「オンラインでの申し込みから審査結果通知までわずか20分あまり」というスピード住宅ローンを提供しているティックトック( Tic:Toc)。オーストラリア南部のアデレードで2015年に設立された。
審査は不動産査定から身元認証、財政認証まで、すべてのプロセスをデジタル化することで、大幅な時間とコストの削減に成功している。
元利金均等返済方式で年利は3.58~4.54%、返済期間は最長30年。数ある融資の中でも審査や手続きに膨大な時間を要する住宅ローンを、忙しい現代人の生活に合わせて近代化させた「世界初の即時住宅ローン」だ。
マネーツリー(Money Tree) ――日本発の家計簿アプリ
日本のスタートアップから唯一「FinTech100」に選ばれたのは、「家計簿アプリ」でお馴染みのマネーツリー。100万人が利用する自動節約アプリの決定版だ。
貯蓄が苦手な人は、「いつ、どこで、なににお金を使ったのか」といった基本的な情報を把握していない場合が多い。手書きの家計簿はお金の管理に役立つ反面、面倒臭くて三日坊主になりがちだ。
マネーツリーのアプリを使えばこうした手間暇を省略して、収支の状況を好きな時に、好きな場所から無料で確認できる。さらには自動取得した個人の取引明細をAIが判別してくれるため、効率的で正確性の高いお金の管理が期待できる。
東京で2012年に設立されたマネーツリーはみずほキャピタルやSMBCベンチャーキャピタル、池田泉州キャピタルといった国内の大手VCから、モルガン・スタンリーやペイパル(PayPal)、マスターカードなど国外大手金融機関まで、様々な企業から1050万ドルを超える資金を調達。
銀行口座や証券口座、クレジットカード、電子マネーなどを登録するだけで、口座残高や利用明細といった情報が自動的に更新される。三菱東京UFJ銀行、アフラック、SBI証券、JCBカード、オリコカード、セゾンカード、日本生命、東京海上日動あんしん生命を含む、2600以上の主要金融サービスと提携している。
今後もこうした「未知の要因(商品・サービス・事業モデルなどの革新性)」をふんだんに感じさせる新鮮なスタートアップが続々と生まれ、金融産業の変化を加速させていくだろう。(アレン・琴子、英国在住フリーランスライター)