制限時間を決めて勉強する癖をつけよう
資格試験に挑戦したいと思っても、忙しい中でどう勉強すればいいのか、わからないと言う人も多いだろう。働きながら税理士をはじめとする様々な資格を取得し、資格の専門学校で教える立場でもある石川和男氏に、資格試験のための効率的な勉強法についてうかがった。(取材・構成=塚田有香)
「試験に合格する」ことだけが目標ではやる気は続かない!
資格学習も仕事と同じようにPDCAを回すのが効果的です。ただしその前に、必ず「G(ゴール)」を決めてください。
ゴール設定には、「目標」と「目的」の両方が必要です。例えば「社会保険労務士の試験に合格する」は「目標」ですが、それだけではモチベーションが続きません。でも「高齢者が安心して暮らせる社会にするために、社会保険労務士の資格を取って年金問題のアドバイスをしたい」といった「目的」があれば、それに向けて頑張れます。
次の「P(計画)」は、「2割ダウン」で立てるのがコツ。人間は計画を立てる時が最もモチベーションが高いので、あれもこれもと詰め込みがちです。でも実際は、残業続きで勉強が進まない時期などもあるので、「自分はダメだ」と思い勉強を諦めてしまう。それを避けるには、一度立てた計画を2割削るくらいが適切です。ただし、日々の学習は計画の3割増しを目指して全力でやりましょう。
また、PDCAを一度ざっくりと回してみることも大事です。すると「水曜は残業が多くて、思ったより学習時間が取りづらい」「金曜は意外と時間が取れる」など、計画と実際のズレがわかるので、より現実的で無理のない計画へ修正してください。
時間がないからこそ集中力が高まる
「D(実行)」を効率的に行なうには、常に制限時間を決めること。「このページを15分で暗記する」「この3問を30分で解く」など、細かく締め切りを設定すれば集中力が高まります。
色を活用するのもお勧めです。左脳は文字を、右脳は色を認識するので、マーカーなどで線を引くだけで右脳が刺激され、脳全体を使えます。ただし、色の種類は2色か3色程度に絞ることと、「最重要点は赤」「疑問点は青」などと色ごとに用途を決めるのがポイントです。
あとは模擬試験や問題集などで、「C(検証)→A(改善)」を行ないます。模擬試験は点数だけを見るのではなく、「時間配分を間違えた」「人が多い会場だったので集中できなかった」などの原因まで掘り下げましょう。そうすれば「時間を計りながら問題集を解こう」「人に慣れるために喫茶店で勉強しよう」といった有効な改善ができます。
目標を達成する「G+PDCA」の回し方
G=Goal 目標&目的
PDCAを回すには、まず「ゴール」を設定することが不可欠。自分が目指す目的地がわからなければ、計画の立てようがない。多くの人は「資格試験に合格する」という「目標」は立てるが、それだけでは不十分。「何のために資格を取りたいのか」という「目的」をはっきりさせることが重要だ。そうすれば、学習中に飲み会や遊びに誘われても、「自分は目的を達成するための近道である勉強を選ぶ」という判断ができる。目標はあくまで目的を達成するための手段であり、「資格試験に合格して、何を実現したいのか」を明確にすることが学習のモチベーションや集中力を高めてくれるのだと理解しよう。
P=Plan 計画
「2割減」と「バッファ」が挫折しない計画の鍵になる!
学習計画を立てる際のポイントは、完璧を目指さないこと。あれもやろう、これもやろうと計画を盛り込み過ぎると、その通りにいかなかった時に挫折しやすい。一度計画を立てたら、そこから2割削るくらいでちょうどいい。また、計画にバッファを持たせることも必要。急な残業や体調不良で平日の学習が計画通りに進まなくても、例えば日曜の午後を予備日にしておけば、そこで追いつける。 いったん計画を立てたら、まずはお試しのつもりでざっくりPDCAを回してみよう。とりあえず1週間回してみれば、「週明けの月曜は仕事が忙しくて、他の曜日ほど勉強できない」「土曜は意外と家の用事が多くて、予定したほど進まない」といったことがわかる。完璧主義の人は、一度立てた計画を変えることに抵抗を感じることが多いが、学習計画は仕事の状況や生活スタイルに合わせて柔軟に変えた方が無理なく長続きできる。
D=Do 実行
実行段階は効率重視! 時間が取れても制限を設けよ
忙しいビジネスパーソンは、学習の実行段階になったら何よりも効率を重視すべき。まとまった時間が取れるときでも、「この問題は五分で解こう」などと厳しい制限時間を設定すれば、集中力が高まって短時間で効率的に頭に入る。やる気が出ない時は、「まず3分だけやってみよう」と思って取り掛かろう。人間は「作業興奮」という心理的作用により、「一度取り掛かったら続けたくなる」という性質があるので、あとは30分、1時間と続けられる。
なお、人間が十分に覚醒して作業できるのは朝起きてから13時間が限界で、15時間以上では酒気帯び運転と同程度の作業効率にまで低下することが研究で明らかになっている。よって、学習はできるだけ朝の時間を使うと効率がアップする。夜に勉強する場合も、遅くまで残業してからやるのではなく、定時が来たらまずはいったん勉強して、それから残業を片づけるといった時間の使い方をすると、学習効率を大きく下げずに済む。
C=Check 検証
A=Action 改善
模擬試験は「気づき」の宝庫間違いノートを反復せよ
習はやりっ放しでは意味がない。自分がどこまでできているのかを検証し、改善につなげなければ資格試験の合格には近づけないからだ。検証するには、問題集を解いたり、模擬試験を受けたりして、アウトプットする場を作ることが必要。特に模擬試験は気づきの宝庫なので、単に「何点取れたか」だけを見るのではなく、「なぜこの点数だったのか」を掘り下げて検証することが重要だ。 例えば、「本来の力なら解ける問題だったのに、時間がなくてできなかった」なら、「1問にこだわって時間を使いすぎないようにする」、「解ける問題をケアレスミスで間違ってしまった」なら、「見直す時間も考慮に入れる」といった改善ができる。また、「間違いノート」を作ってわからなかったことや疑問点をまとめておけば、スキマ時間などにいつでも自分の弱点を確認できると同時に、「これさえ見れば、わからないところを確認できる」と思えるので精神的にも安心できる。
石川和男(いしかわ・かずお)税理士/専門学校講師
1968年、北海道生まれ。建設会社の経理部に勤務中の30代から勉強を開始、日商簿記3級を皮切りに、建設業経理事務士1級、税理士と数多くの資格を取得。現在は税理士、大学・専門大原簿記学校講師、建設会社総務経理担当部長を務める他、セミナーや講演でも活躍。著書に、『人生逆転! 1日30分勉強法』(三笠書房)などがある。(『THE21オンライン』2019年2月号より)